「創世記のヨセフ物語(一)」=旧約聖書(創世記第三十七章〜第四十四章)

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(一・兄たちに嫌われるヨセフ)

 

ヤコブは、父(イサク)がかつて滞在していたカナン地方に住んでいた。ヤコブの

家族の由来(ゆらい)は次のとおりである。ヨセフは十七歳のとき、兄弟たちと羊

の群れを飼っていた。まだ若く、父の側女ビルハやジルパの子供たちと一緒にいた

。ヨセフは兄弟たちのことを父に告げ口した。イスラエル(ヤコブ)は、ヨセフが

年寄り子であったので、どの息子よりも可愛(かわ)いがり、彼には裾の長い晴れ

着を作ってやった。兄弟たちは、父がどの兄弟よりもヨセフを可愛いがるのを見て

、ヨセフを憎み、穏(おだ)やかに話すこともできなかった。

ヨセフは夢を見て、それを兄弟たちに語ったので、彼らはますます憎むようになっ

た。ヨセフは言った。「聞いてください。わたしはこんな夢を見ました。畑でわた

したちが束(たば)を結(ゆ)わえていると、いきなりわたしの束が起き上がり、

まっすぐに立ったのです。すると、あなたがたの束が周(まわ)りに集まって来て

、わたしの束にひれ伏しました」兄弟たちはヨセフに言った。「なに、お前が我々

の王になるというのか。お前が我々を支配するというのか」兄弟たちは夢とその言

葉のために、ヨセフをますます憎んだ。ヨセフはまた別の夢を見て、それを兄弟た

ちに話した。「わたしはまた夢を見ました。太陽と月と十一の星がわたしにひれ伏

しているのです」今度は兄弟たちだけでなく、父にも話した。父はヨセフを叱って

言った。「一体どういうことだ、お前が見たその夢は。わたしもお母さんも兄弟た

ちも、お前の前に行って、地面にひれ伏すというのか」兄弟たちはヨセフを妬(ね

た)んだが、父はこのことを心に留めた。兄弟たちが出かけて行き、シケムで父の

羊の群れを飼っていたとき、イスラエルはヨセフに言った。「お前の兄弟たちはシ

ケムで羊を飼っているはずだ。お前を彼らのところへやりたいのだが」「はい、分

かりました」とヨセフが答えると、更にこう言った。「では、早速出かけて、お前

の兄弟たちが元気にやっているか、羊の群れも無事か見届けて、様子を知らせてく

れないか」父はヨセフをヘブロンの谷から送り出した。

(参考)

@どの息子よりも可愛(かわ)いがり・・・ヨセフは老父ヤコブに溺愛(ヨセフの

弟ベニヤミンは難産のために死んだので、よりヨセフを愛した)され、甘やかされ

たので、増長してしまった。

A太陽と月と十一の星・・・11の星が10人の兄と1人の弟なら、太陽と月は父と母

である。(ヤコブの子は異母兄弟たち全部で12人)

 

(二・奴隷になったヨセフ)

 

ヨセフがシケムに着き、野原をさまよっていると、一人の人に出会った。その人は

ヨセフに尋ねた。「何を探しているのかね」「兄弟たちを探しているのです。どこ

で羊の群れを飼っているか教えてください」ヨセフがこう言うと、その人は答えた

。「もうここをたってしまった。ドタンへ行こう、と言っていたのを聞いたが」ヨ

セフは兄弟たちの後を追って行き、ドタンで一行を見つけた。兄弟たちは、はるか

遠くの方にヨセフの姿を認めると、まだ近づいて来ないうちに、ヨセフを殺してし

まおうとたくらみ、相談した。「おい、向こうから例の夢見るお方がやって来る。

さあ、今だ。あれを殺して、穴の一つに投げ込もう。後は、野獣に食われたと言え

ばよい。あれの夢がどうなるか、見てやろう」 ルベン(長男)はこれを聞いて、

ヨセフを彼らの手から助け出そうとして、言った。「命まで取るのはよそう」ルベ

ンは続けて言った。「血を流してはならない。荒れ野(の)のこの穴に投げ入れよ

う。手を下(くだ)してはならない」ルベンは、ヨセフを彼らの手から助け出して

、父のもとへ帰したかったのである。ヨセフがやって来ると、兄弟たちはヨセフが

着ていた着物、裾の長い晴れ着をはぎ取り、彼を捕らえて、穴に投げ込んだ。その

穴は空(から)で水はなかった。彼らはそれから、腰を下ろして食事を始めたが、

ふと目を上げると、イシュマエル人の隊商がギレアドの方からやって来るのが見え

た。らくだに樹脂、乳香、没薬を積んで、エジプトに下(くだ)って行こうとして

いるところであった。ユダ(四男)は兄弟たちに言った。「弟を殺して、その血を

覆(おお)っても、何の得にもならない。それより、あのイシュマエル人に売ろう

ではないか。弟に手をかけるのはよそう。あれだって、肉親の弟だから」兄弟たち

は、これを聞き入れた。

ところが、その間にミディアン人の商人たちが通りかかったので、彼らはヨセフを

穴から引き上げ、銀二十枚でイシュマエル人に売った。彼らはヨセフをエジプトに

連れて行ってしまった。ルベンが穴のところに戻ってみると、意外にも穴の中にヨ

セフはいなかった。ルベンは自分の衣を引き裂き、兄弟たちのところへ帰り、「あ

の子がいない。わたしは、このわたしは、どうしたらいいのか」と言った。兄弟た

ちはヨセフの着物を拾い上げ、雄(おす)山羊(やぎ)を殺してその血に着物を浸

した。彼らはそれから、裾の長い晴れ着を父のもとへ送り届け、「これを見つけま

したが、あなたの息子の着物かどうか、お調べになってください」と言わせた。父

は、それを調べて言った。「あの子の着物だ。野獣に食われたのだ。ああ、ヨセフ

はかみ裂かれてしまったのだ」ヤコブは自分の衣を引き裂き、粗布を腰にまとい、

幾日もその子のために嘆き悲しんだ。息子や娘たちが皆やって来て、慰めようとし

たが、ヤコブは慰められることを拒んだ。「ああ、わたしもあの子のところへ、嘆

きながら陰府(よみ=黄泉)へ下って行こう」父はこう言って、ヨセフのために泣

いた。一方、ミディアン人たちがエジプトで売ったヨセフは、ファラオ(王)の宮

廷の役人で、侍従長であったポティファルのものとなった。

(参考)

@ミディアン人の商人・・・四男のユダと兄弟たちはヨセフを穴から出し、銀二十

枚で隊商に売ったので、「あとでヨセフを救い出そう」と思っていた長男のルベン

が穴のところに帰ってくると、そこはもぬけのからであった。

Aミディアン人・・・イシュマエル人もミディアン人もアブラハムの子孫である。

 

(三・誘惑されるヨセフ)

 

ヨセフはエジプトに連れて来られた。ヨセフをエジプトへ連れて来たイシュマエル

(ミディアン人から買った)の手から彼を買い取ったのは、ファラオ(王)の宮

廷の役人で、侍従長のエジプト人ポティファルであった。神がヨセフと共におられ

たので、彼はうまく事を運んだ。彼はエジプト人の主人の家にいた。神が共におら

れ、神が彼のすることをすべてうまく計(はか)らわれるのを見た主人は、ヨセフ

に目をかけて身近に仕えさせ、家の管理をゆだね、財産をすべて彼の手に任せた。

主人が家の管理やすべての財産をヨセフに任せてから、神はヨセフのゆえにそのエ

ジプト人の家を祝福された。神の祝福は、家の中にも農地にも、すべての財産に及

んだ。主人は全財産をヨセフの手にゆだねてしまい、自分が食べるもの以外は全く

気を遣わなかった。

ヨセフは顔も美しく、体つきも優(すぐ)れていた。これらのことの後で、主人の

妻はヨセフに目を注ぎながら言った。「わたしの床に入りなさい」しかし、ヨセフ

は拒(こば)んで、主人の妻に言った。「ご存じのように、御主人はわたしを側(

かたわら)に置き、家の中のことには一切気をお遣いになりません。財産もすべて

わたしの手にゆだねてくださいました。この家では、わたしの上に立つ者はいませ

んから、わたしの意のままにならないものもありません。ただ、あなたは別です。

あなたは御主人の妻ですから。わたしは、どうしてそのように大きな悪を働いて、

神に罪を犯すことができましょう」彼女は毎日ヨセフに言い寄ったが、ヨセフは耳

を貸さず、彼女の傍(かたわ)らに寝ることも、共にいることもしなかった。こう

して、ある日、ヨセフが仕事をしようと家に入ると、家の者が一人も家の中にいな

かったので、彼女はヨセフの着物をつかんで言った。「わたしの床に入りなさい」

ヨセフは着物を彼女の手に残し、逃げて外へ出た。着物を彼女の手に残したまま、

ヨセフが外へ逃げたのを見ると、彼女は家の者たちを呼び寄せて言った。「見てご

らん。ヘブライ人などをわたしたちの所に連れて来たから、わたしたちはいたずら

をされる。彼がわたしの所に来て、わたしと寝ようとしたから、大声で叫びました

。わたしが大声をあげて叫んだのを聞いて、わたしの傍らに着物を残したまま外へ

逃げて行きました」彼女は、主人が家に帰って来るまで、その着物を傍らに置いて

いた。そして、主人に同じことを語った。「あなたがわたしたちの所に連れて来た

、あのヘブライ人の奴隷はわたしの所に来て、いたずらをしようとしたのです。わ

たしが大声をあげて叫んだものですから、着物をわたしの傍らに残したまま、外へ

逃げて行きました」「あなたの奴隷がわたしにこんなことをしたのです」と訴える

妻の言葉を聞いて、主人は怒り、ヨセフを捕らえて、王の囚人をつなぐ監獄に入れ

た。

(参考)

@自分が食べるもの以外・・・エジプト人は「外国人は食物を汚す」と考えていた。

A神に罪を犯す・・・主人に対して罪になるからではなく、神(ヤハウェ)に対し

て罪になるといっている。

 

(四・牢獄に入ったヨセフ)

 

ヨセフはこうして、監獄にいた。しかし、神がヨセフと共におられ、恵みを施し、

監守長の目にかなうように導かれたので、監守長は監獄にいる囚人を皆、ヨセフの

手にゆだね、獄中の人のすることはすべてヨセフが取りしきるようになった。監守

長は、ヨセフの手にゆだねたことには、一切目を配(くば)らなくてもよかった。

神がヨセフと共におられ、ヨセフがすることを神がうまく計(はか)らわれたから

である。これらのことの後で、エジプト王(ファラオ)の給仕役と料理役が主君で

あるエジプト王に過ちを犯した。ファラオは怒って、この二人の宮廷の役人、給仕

役の長と料理役の長を、侍従長の家にある牢獄、つまりヨセフがつながれている監

獄に引き渡した。侍従長は彼らをヨセフに預け、身辺の世話をさせた。牢獄の中で

幾日かが過ぎたが、監獄につながれていたエジプト王の給仕役と料理役は、二人と

も同じ夜にそれぞれ夢を見た。その夢には、それぞれ意味が隠されていた。朝にな

って、ヨセフが二人のところへ行ってみると、二人ともふさぎ込んでいた。ヨセフ

は主人の家の牢獄に自分と一緒に入れられているファラオの宮廷の役人に尋ねた。

「今日は、どうしてそんなに憂うつな顔をしているのですか」 「我々は夢を見た

のだが、それを解き明かしてくれる人がいない」と二人は答えた。

ヨセフは、「解き明かしは神がなさることではありませんか。どうかわたしに話し

てみてください」と言った。給仕役の長はヨセフに自分の見た夢を話した。「わた

しが夢を見ていると、一本のぶどうの木が目の前に現れたのです。そのぶどうの木

には三本のつるがありました。それがみるみるうちに芽を出したかと思うと、すぐ

に花が咲き、ふさふさとしたぶどうが熟(じゅく)しました。ファラオの杯を手に

していたわたしは、そのぶどうを取って、ファラオの杯に搾(しぼ)り、その杯を

ファラオにささげました」ヨセフは言った。「その解き明かしはこうです。三本の

つるは三日です。三日たてば、ファラオがあなたの頭を上げて、元の職務に復帰さ

せてくださいます。あなたは以前、給仕役であったときのように、ファラオに杯を

ささげる役目をするようになります。ついては、あなたがそのように幸せになられ

たときには、どうかわたしのことを思い出してください。わたしのためにファラオ

にわたしの身の上を話し、この家から出られるように取り計らってください。わた

しはヘブライ人の国から無理やり連れて来られたのです。また、ここでも、牢屋に

入れられるようなことは何もしていないのです」料理役の長は、ヨセフが巧(たく

)みに解き明かすのを見て言った。「わたしも夢を見ていると、編んだ篭(かご)

が三個わたしの頭の上にありました。いちばん上の篭には、料理役がファラオのた

めに調えたいろいろな料理が入っていましたが、鳥がわたしの頭の上の篭からそれ

を食べているのです」ヨセフは答えた。「その解き明かしはこうです。三個の篭は

三日です。三日たてば、ファラオがあなたの頭を上げて切り離し、あなたを木にか

け(死刑)ます。そして、鳥があなたの肉をついばみます」三日目はファラオの誕

生日であったので、ファラオは家来たちを皆、招いて、祝宴を催(もよお)した。

そして、家来たちの居並ぶところで例の給仕役の長の頭(あたま)と料理役の長の

頭(あたま)を上げて調べた。ファラオは給仕役の長を給仕の職に復帰させたので

、彼はファラオに杯をささげる役目をするようになったが、料理役の長は、ヨセフ

が解き明かしたとおり木にかけられた。ところが、給仕役の長はヨセフのことを

い出さず、忘れてしまった

(参考)

@解き明かしは神がなさること・・・ヨセフは確信した。給仕長が投獄され、夢を

見、それを自分が神(ヤハウェ)からの知恵によって解明するのは、神のはからい

に違いないと。

A思い出さず、忘れてしまった。・・・給仕長は、せっかく許されたのに、外国人

奴隷(ヨセフ)のことで王(ファラオ)をわずらわせて機嫌をそこねることになる

と思って、故意に「忘れた」と言われている。

 

(五・ファラオ王の夢)

 

二年の後、ファラオは夢を見た。ナイル川のほとりに立っていると、突然、つやや

かな、よく肥えた七頭の雌牛が川から上がって来て、葦辺で草を食べ始めた。する

と、その後から、今度は醜い、やせ細った七頭の雌牛が川から上がって来て、岸辺

にいる雌牛のそばに立った。そして、醜い、やせ細った雌牛が、つややかな、よく

肥えた七頭の雌牛を食い尽くした。ファラオは、そこで目が覚めた。ファラオがま

た眠ると、再び夢を見た。今度は、太って、よく実った七つの穂が、一本の茎から

出てきた。すると、その後から、実が入っていない、東風(砂漠の風)で干からび

た七つの穂が生えてきて、実の入っていない穂が、太って、実の入った七つの穂を

のみ込んでしまった。ファラオは、そこで目が覚めた。それは夢であった。朝にな

って、ファラオはひどく心が騒ぎ、エジプト中の魔術師と賢者をすべて呼び集めさ

せ、自分の見た夢を彼らに話した。しかし、ファラオに解き明かすことができる者

はいなかった。そのとき、例の給仕役の長がファラオに申し出た。「わたしは、今

日になって自分の過ちを思い出しました。かつてファラオが私どもについて憤られ

て、侍従長の家にある牢獄にわたしと料理役の長を入れられたとき、 同じ夜に、

わたしたちはそれぞれ夢を見たのですが、そのどちらにも意味が隠されていました

。そこには、侍従長に仕えていたヘブライ人の若者がおりまして、彼に話をしたと

ころ、わたしたちの夢を解き明かし、それぞれ、その夢に応じて解き明かしたので

す。そしてまさしく、解き明かしたとおりになって、わたしは元の職務に復帰する

ことを許され、彼は木にかけられました」そこで、ファラオはヨセフを呼びにやっ

た。ヨセフは直ちに牢屋から連れ出され、散髪をし着物を着替えてから、ファラオ

の前に出た。

ファラオはヨセフに言った。「わたしは夢を見たのだが、それを解き明かす者がい

ない。聞くところによれば、お前は夢の話を聞いて、解き明かすことができるそう

だが」ヨセフはファラオに答えた。「わたしではありません。神がファラオの幸い

について告げられるのです」ファラオはヨセフに話した。「夢の中で、わたしがナ

イル川の岸に立っていると、突然、よく肥えて、つややかな七頭の雌牛が川から上

がって来て、葦辺で草を食べ始めた。すると、その後から、今度は貧弱で、とても

醜い、やせた七頭の雌牛が上がって来た。あれほどひどいのは、エジプトでは見た

ことがない。そして、そのやせた、醜い雌牛が、初めのよく肥えた七頭の雌牛を食

い尽くしてしまった。ところが、確かに腹の中に入れたのに、腹の中に入れたこと

がまるで分からないほど、最初と同じように醜いままなのだ。わたしは、そこで目

が覚めた。それからまた、夢の中でわたしは見たのだが、今度は、とてもよく実の

入った七つの穂が一本の茎から出てきた。すると、その後から、やせ細り、実が入

っておらず、東風で干からびた七つの穂が生えてきた。そして、実の入っていない

その穂が、よく実った七つの穂をのみ込んでしまった。わたしは魔術師たちに話し

たが、その意味を告げうる者は一人もいなかった」ヨセフはファラオに言った。「

ファラオの夢は、どちらも同じ意味でございます。神がこれからなさろうとしてい

ることを、ファラオにお告げになったのです。七頭のよく育った雌牛は七年のこと

です。七つのよく実った穂も七年のことです。どちらの夢も同じ意味でございます

。その後から上がって来た七頭のやせた、醜い雌牛も七年のことです。また、やせ

て、東風で干からびた七つの穂も同じで、これらは七年の飢饉のことです。これは

、先程ファラオに申し上げましたように、神がこれからなさろうとしていることを

、ファラオにお示しになったのです。今から七年間、エジプトの国全体に大豊作が

訪れます。しかし、その後に七年間、飢饉が続き、エジプトの国に豊作があったこ

となど、すっかり忘れられてしまうでしょう。飢饉が国を滅ぼしてしまうのです。

この国に豊作があったことは、その後に続く飢饉のために全く忘れられてしまうで

しょう。飢饉はそれほどひどいのです。ファラオが夢を二度も重ねて見られたのは

、神がこのことを既に決定しておられ、神が間もなく実行されようとしておられる

からです。このような次第ですから、ファラオは今すぐ、聡明で知恵のある人物を

お見つけになって、エジプトの国を治めさせ、また、国中に監督官をお立てになり

、豊作の七年の間、エジプトの国の産物の五分の一を徴収なさいますように。この

ようにして、これから訪れる豊年の間に食糧をできるかぎり集めさせ、町々の食糧

となる穀物をファラオの管理の下に蓄え、保管させるのです。そうすれば、その食

糧がエジプトの国を襲う七年の飢饉に対する国の備蓄となり、飢饉によって国が滅

びることはないでしょう」ファラオと家来たちは皆、ヨセフの言葉に感心した。

(参考)

@    わたしではありません・・・わたしが解くのではなく、神が告げるのである。

 

(六・宰相になったヨセフ)

 

ファラオは家来たちに、「このように神の霊が宿っている人はほかにあるだろうか

」と言い、ヨセフの方を向いてファラオは言った。「神がそういうことをみな示さ

れたからには、お前ほど聡明で知恵のある者は、ほかにはいないであろう。お前を

わが宮廷の責任者とする。わが国民は皆、お前の命に従うであろう。ただ王位にあ

るということでだけ、わたしはお前の上に立つ」ファラオはヨセフに向かって、「

見よ、わたしは今、お前をエジプト全国の上に立てる」と言い、印章のついた指輪

を自分の指からはずしてヨセフの指にはめ、亜麻布の衣服を着せ、金の首飾りをヨ

セフの首にかけた。ヨセフを王の第二の車に乗せると、人々はヨセフの前で、「ア

ブレク(敬礼)」と叫んだ。

ファラオはこうして、ヨセフをエジプト全国の上に立て、ヨセフに言った。「わた

しはファラオである。お前の許しなしには、このエジプト全国で、だれも、手足を

上げてはならない」ファラオは更に、ヨセフにツァフェナト・パネアという名を与

え、オンの祭司ポティ・フェラの娘アセナトを妻として与えた。ヨセフの威光はこ

うして、エジプトの国にあまねく及んだ。ヨセフは、エジプトの王ファラオの前に

立ったとき三十歳であった。ヨセフはファラオの前をたって、エジプト全国を巡回

した。豊作の七年の間、大地は豊かな実りに満ち溢れた。ヨセフはその七年の間に

、エジプトの国中の食糧をできるかぎり集め、その食糧を町々に蓄えさせた。町の

周囲の畑にできた食糧を、その町の中に蓄えさせたのである。ヨセフは、海辺の砂

ほども多くの穀物を蓄え、ついに量りきれなくなったので、量るのをやめた。飢饉

の年がやって来る前に、ヨセフに二人の息子が生まれた。この子供を産んだのは、

オンの祭司ポティ・フェラの娘アセナトである。ヨセフは長男をマナセ(忘れさせ

る)と名付けて言った。「神が、わたしの苦労と父の家のことをすべて忘れさせて

くださった」また、次男をエフライム(増やす)と名付けて言った。「神は、悩み

の地で、わたしに子孫を増やしてくださった」

(参考)

@印章のついた指輪・・・指輪は印章になっていて、ファラオの名においてどんな

文書も発行できるので、これは全権委任である。

 

(七・兄たちと会うヨセフ)

 

エジプトの国に七年間の大豊作が終わると、ヨセフが言ったとおり、七年の飢饉が

始まった。その飢饉はすべての国々を襲ったが、エジプトには、全国どこにでも食

物があった。やがて、エジプト全国にも飢饉が広がり、民がファラオに食物を叫び

求めた。ファラオはすべてのエジプト人に、「ヨセフのもとに行って、ヨセフの言

うとおりにせよ」と命じた。飢饉は世界各地に及んだ。ヨセフはすべての穀倉を開

いてエジプト人に穀物を売ったが、エジプトの国の飢饉は激しくなっていった。ま

た、世界各地の人々も、穀物を買いにエジプトのヨセフのもとにやって来るように

なった。世界各地の飢饉も激しくなったからである。

ヤコブは、エジプトに穀物があると知って、息子たちに、「どうしてお前たちは顔

を見合わせてばかりいるのだ」と言い、更に、「聞くところでは、エジプトには穀

物があるというではないか。エジプトへ下って行って穀物を買ってきなさい。そう

すれば、我々は死なずに生き延びることができるではないか」と言った。そこでヨ

セフの十人の兄たちは、エジプトから穀物を買うために下って行った。ヤコブはヨ

セフの弟ベニヤミンを兄たちに同行させなかった。何か不幸なことが彼の身に起こ

るといけないと思ったからであった。イスラエルの息子たちは、他の人々に混じっ

て穀物を買いに出かけた。カナン地方にも飢饉が襲っていたからである。ところで

、ヨセフはエジプトの司政者として、国民に穀物を販売する監督をしていた。ヨセ

フの兄たちは来て、地面にひれ伏し、ヨセフを拝した。ヨセフは一目で兄たちだと

気づいたが、そしらぬ振りをして厳しい口調で、「お前たちは、どこからやって来

たのか」と問いかけた。彼らは答えた。「食糧を買うために、カナン地方からやっ

て参りました」ヨセフは兄たちだと気づいていたが、兄たちはヨセフとは気づかな

かった。ヨセフは、そのとき、かつて兄たちについて見た夢を思い起こした。ヨセ

フは彼らに言った。「お前たちは回し者だ。この国の手薄な所を探りに来たにちが

いない」彼らは答えた。「いいえ、御主君様。私どもは食糧を買いに来ただけでご

ざいます。わたしどもは皆、ある男の息子で、正直な人間でございます。私どもは

決して回し者などではありません」しかしヨセフが、「いや、お前たちはこの国の

手薄な所を探りに来たにちがいない」と言うと、彼らは答えた。「私どもは、本当

に十二人兄弟で、カナン地方に住むある男の息子たちでございます。末の弟は、今

、父のもとにおりますが、もう一人は失いました」すると、ヨセフは言った。「お

前たちは回し者だとわたしが言ったのは、そのことだ。その点について、お前たち

を試すことにする。ファラオの命にかけて言う。いちばん末の弟を、ここに来させ

よ。それまでは、お前たちをここから出すわけにはいかぬ。お前たちのうち、だれ

か一人を行かせて、弟を連れて来い。それまでは、お前たちを監禁し、お前たちの

言うことが本当かどうか試す。もしそのとおりでなかったら、ファラオの命にかけ

て言う。お前たちは間違いなく回し者だ」

ヨセフは、こうして彼らを三日間、牢獄に監禁しておいた。三日目になって、ヨセ

フは彼らに言った。「こうすれば、お前たちの命を助けてやろう。わたしは神を畏

れる者だ。お前たちが本当に正直な人間だというのなら、兄弟のうち一人だけを牢

獄に監禁するから、ほかの者は皆、飢えているお前たちの家族のために穀物を持っ

て帰り、末の弟をここへ連れて来い。そうして、お前たちの言い分が確かめられた

ら、殺されはしない」彼らは同意して、互いに言った。「ああ、我々は弟のことで

罰を受けているのだ。弟が我々に助けを求めたとき、あれほどの苦しみを見ながら

、耳を貸そうともしなかった。それで、この苦しみが我々にふりかかった」すると

、ルベンが答えた。「あのときわたしは、「あの子に悪いことをするな」と言った

ではないか。お前たちは耳を貸そうともしなかった。だから、あの子の血の報いを

受けるのだ」彼らはヨセフが聞いているのを知らなかった。ヨセフと兄弟たちの間

に、通訳がいたからである。ヨセフは彼らから遠ざかって泣いた。

 

(八・シメオンを残して兄たちカナンに帰る)

 

それからまた戻って来て、話をしたうえでシメオンを選び出し、彼らの見ている前

で縛り上げた。ヨセフは人々に命じて、兄たちの袋に穀物を詰め、支払った銀をめ

いめいの袋に返し、道中の食糧を与えるように指示し、そのとおり実行された。彼

らは穀物をろばに積んでそこを立ち去った。途中の宿で、一人がろばに餌をやろう

として、自分の袋を開けてみると、袋の口のところに自分の銀があるのを見つけ、

ほかの兄弟たちに言った。「戻されているぞ、わたしの銀が。ほら、わたしの袋の

中に」みんなの者は驚き、互いに震えながら言った。「これは一体、どういうこと

だ。神が我々になさったことは」

一行はカナン地方にいる父ヤコブのところへ帰って来て、自分たちの身に起こった

ことをすべて報告した。「あの国の主君である人が、我々を厳しい口調で問い詰め

て、この国を探りに来た回し者にちがいないと言うのです。もちろん、我々は正直

な人間で、決して回し者などではないと答えました。我々が十二人兄弟で、一人の

父の息子であり、一人は失いましたが、末の弟は今、カナンの地方に住む父のもと

にいますと言ったところ、あの国の主君である人が言いました。「では、お前たち

が本当に正直な人間かどうかを、こうして確かめることにする。お前たち兄弟のう

ち、一人だけここに残し、飢えているお前たちの家族のために、穀物を持ち帰るが

いい。ただし、末の弟を必ずここへ連れて来るのだ。そうすれば、お前たちが回し

者ではなく、正直な人間であることが分かるから、お前たちに兄弟を返し、自由に

この国に出入りできるようにしてやろう」それから、彼らが袋を開けてみると、め

いめいの袋の中にもそれぞれ自分の銀の包みが入っていた。彼らも父も、銀の包み

を見て恐ろしくなった。父ヤコブは息子たちに言った。「お前たちは、わたしから

次々と子供を奪ってしまった。ヨセフを失い、シメオンも失った。その上ベニヤミ

ン(末弟)までも取り上げるのか。みんなわたしを苦しめることばかりだ」ルベン

は父に言った。「もしも、お父さんのところにベニヤミンを連れ帰らないようなこ

とがあれば、わたしの二人の息子を殺してもかまいません。どうか、彼をわたしに

任せてください。わたしが、必ずお父さんのところに連れ帰りますから」しかし、

ヤコブは言った。「いや、この子だけは、お前たちと一緒に行かせるわけにはいか

ぬ。この子の兄は死んでしまい、残っているのは、この子だけではないか。お前た

ちの旅の途中で、何か不幸なことがこの子の身に起こりでもしたら、お前たちは、

この白髪の父を、悲嘆のうちに陰府に下らせることになるのだ」

(参考)

@シメオンも失った・・・みんなの身代わりに次男のシメオンが人質としてエジブ

トに残ったため。

 

(九・弟ベニヤミンと会うヨセフ)

 

この地方の飢饉はひどくなる一方であった。エジプトから持ち帰った穀物を食べ尽

くすと、父は息子たちに言った。「もう一度行って、我々の食糧を少し買って来な

さい」しかし、ユダは答えた。「あの人は、「弟が一緒でないかぎり、わたしの顔

を見ることは許さぬ」と、厳しく我々に言い渡したのです。もし弟を一緒に行かせ

てくださるなら、我々は下(くだ)って行って、あなたのために食糧を買って参り

ます。しかし、一緒に行かせてくださらないのなら、行くわけにはいきません。「

弟が一緒でないかぎり、わたしの顔を見ることは許さぬ」と、あの人が我々に言っ

たのですから」「なぜお前たちは、その人にもう一人、弟がいるなどと言って、わ

たしを苦しめるようなことをしたのか」とイスラエルが言うと、彼らは答えた。「

あの人が、我々のことや家族のことについて、「お前たちの父親は、まだ生きてい

るのか」とか、「お前たちには、まだほかに弟がいるのか」などと、しきりに尋ね

るものですから、尋ねられるままに答えただけです。まさか、「弟を連れて来い」

などと言われようとは思いも寄りませんでしたから」ユダは、父イスラエルに言っ

た。「あの子をぜひわたしと一緒に行かせてください。それなら、すぐにでも行っ

て参ります。そうすれば、我々も、あなたも、子供たちも死なずに生き延びること

ができます。あの子のことはわたしが保障します。その責任をわたしに負わせてく

ださい。もしも、あの子をお父さんの元に連れ帰らず、無事な姿をお目にかけられ

ないようなことにでもなれば、わたしがあなたに対して生涯その罪を負い続けます

。こんなにためらっていなければ、今ごろはもう二度も行って来たはずです」

すると、父イスラエルは息子たちに言った。「どうしてもそうしなければならない

のなら、こうしなさい。この土地の名産の品を袋に入れて、その人への贈り物とし

て持って行くのだ。乳香と蜜を少し、樹脂と没薬、ピスタチオやアーモンドの実。

それから、銀を二倍、用意して行きなさい。袋の口に戻されていた銀も持って行っ

てお返しするのだ。たぶん何かの間違いだったのだろうから。では、弟を連れて、

早速その人のところへ戻りなさい。どうか、全能の神がその人の前でお前たちに憐

れみを施(ほどこ)し、もう一人の兄弟と、このベニヤミンを返してくださいます

ように。このわたしがどうしても子供を失わねばならないのなら、失ってもよい」

息子たちは贈り物と二倍の銀を用意すると、ベニヤミンを連れて、早速エジプトへ

下って行った。

さて、一行がヨセフの前に進み出ると、ヨセフはベニヤミンが一緒なのを見て、自

分の家を任せている執事に言った。「この人たちを家へお連れしなさい。それから

、家畜を屠って料理を調えなさい。昼の食事をこの人たちと一緒にするから」執事

はヨセフに言われたとおりにし、一同をヨセフの屋敷へ連れて行った。一同はヨセ

フの屋敷へ連れて来られたので、恐ろしくなって、「これはきっと、前に来たとき

我々の袋に戻されていたあの銀のせいだ。それで、ここに連れ込まれようとしてい

るのだ。今に、ロバもろとも捕らえられ、ひどい目に遭い、奴隷にされてしまうに

ちがいない」と思った。彼らは屋敷の入り口のところでヨセフの執事の前に進み出

て、話しかけて、言った。「ああ、御主人様。実は、わたしどもは前に一度、食糧

を買うためにここへ来たことがございます。ところが、帰りに宿で袋を開けてみる

と、一人一人の袋の口のところにそれぞれ自分の銀が入っておりました。しかも、

銀の重さは元のままでした。それで、それをお返ししなければ、と持って参りまし

た。もちろん、食糧を買うための銀は、別に用意してきております。一体誰がわた

しどもの袋に銀を入れたのか分かりません」執事は、「御安心なさい。心配するこ

とはありません。きっと、あなたたちの神、あなたたちの父の神が、その宝を袋に

入れてくださったのでしょう。あなたたちの銀は、このわたしが確かに受け取った

のですから」と答え、シメオンを兄弟たちのところへ連れて来た。執事は一同をヨ

セフの屋敷に入れ、水を与えて足を洗わせ、ロバにも餌を与えた。彼らは贈り物を

調えて、昼にヨセフが帰宅するのを待った。一緒に食事をすることになっていると

聞いたからである。

 

(十・兄弟たちを試すヨセフ)

 

ヨセフが帰宅すると、一同は屋敷に持って来た贈り物を差し出して、地にひれ伏し

てヨセフを拝(はい)した。ヨセフは一同の安否を尋ねた後、言った。「前に話し

ていた、年をとった父上は元気か。まだ生きておられるか」「あなたさまの僕(し

もべ)である父は元気で、まだ生きております」と彼らは答え、ひざまずいて、ヨ

セフを拝した。ヨセフは同じ母から生まれた弟ベニヤミンをじっと見つめて、「前

に話していた末の弟はこれか」と尋ね、「わたしの子よ。神の恵みがお前にあるよ

うに」と言うと、ヨセフは急いで席を外した。弟、懐(なつ)かしさに、胸が熱く

なり、涙がこぼれそうになったからである。ヨセフは奥の部屋に入ると泣いた。や

がて、顔を洗って出て来ると、ヨセフは平静を装い、「さあ、食事を出しなさい」

と言いつけた。食事は、ヨセフにはヨセフの、兄弟たちには兄弟たちの、相伴(し

ょうばん)するエジプト人にはエジプト人のものと、別々に用意された。当時、エ

ジプト人は、ヘブライ人と共に食事をすることはできなかったからである。それは

エジプト人の厭(いと)うことであった。兄弟たちは、いちばん上の兄から末の弟

まで、ヨセフに向かって年齢順に座らされたので、驚いて互いに顔を見合わせた。

そして、料理がヨセフの前からみんなのところへ配(くば)られたが、ベニヤミン

の分はほかのだれの分より五倍も多かった。一同はぶどう酒を飲み、ヨセフと共に

酒宴を楽しんだ。

ヨセフは執事に命じた。「あの人たちの袋を、運べるかぎり多くの食糧でいっぱい

にし、めいめいの銀をそれぞれの袋の口のところへ入れておけ。それから、わたし

の杯、あの銀の杯を、いちばん年下の者の袋の口に、穀物の代金の銀と一緒に入れ

ておきなさい」執事はヨセフが命じたとおりにした。次の朝、辺りが明るくなった

ころ、一行は見送りを受け、ロバと共に出発した。

ところが、町を出て、まだ遠くへ行かないうちに、ヨセフは執事に命じた。「すぐ

に、あの人たちを追いかけ、追いついたら彼らに言いなさい。「どうして、お前た

ちは悪をもって善に報いるのだ。あの銀の杯は、わたしの主人が飲むときや占いの

ときに、お使いになるものではないか。よくもこんな悪いことができたものだ」」

執事は彼らに追いつくと、そのとおりに言った。すると、彼らは言った。「御主人

様、どうしてそのようなことをおっしゃるのですか。僕(しもべ)どもがそんなこ

とをするなどとは、とんでもないことです。袋の口で見つけた銀でさえ、わたしど

もはカナンの地から持ち帰って、御主人様にお返ししたではありませんか。そのわ

たしどもがどうして、あなたの御主君のお屋敷から銀や金を盗んだりするでしょう

か。私どもの中のだれからでも杯が見つかれば、その者は死罪に、ほかのわたしど

もも皆、御主人様の奴隷になります。すると、執事は言った。「今度もお前たちが

言うとおりならよいが。だれであっても、杯が見つかれば、その者はわたしの奴隷

にならねばならない。ほかの者には罪は無い」彼らは急いで自分の袋を地面に降ろ

し、めいめいで袋を開けた。執事が年上の者から念入りに調べ始め、いちばん最後

に年下の者になったとき、ベニヤミンの袋の中から杯が見つかった。

 

(十一・ベニヤミンを守る兄たち)

 

彼らは衣を引き裂き、めいめい自分のロバに荷を積むと、町へ引き返した。ユダと

兄弟たちがヨセフの屋敷に入って行くと、ヨセフはまだそこにいた。一同は彼の前

で地にひれ伏した。「お前たちのしたこの仕業は何事か。わたしのような者は占い

当てることを知らないのか」とヨセフが言うと、ユダが答えた。「御主君に何と申

し開きできましょう。今更どう言えば、わたしどもの身の証しを立てることができ

ましょう。神が僕(しもべ)どもの罪を暴(あば)かれたのです。この上は、わた

しどもも、杯が見つかった者と共に、御主君の奴隷になります」ヨセフは言った。

「そんなことは全く考えていない。ただ、杯を見つけられた者だけが、わたしの奴

隷になればよい。ほかのお前たちは皆、安心して父親のもとへ帰るがよい」ユダは

ヨセフの前に進み出て言った。

「ああ、御主君様。何とぞお怒りにならず、私の申し上げますことに耳を傾けてく

ださい。あなたはファラオに等(ひと)しいお方でいらっしゃいますから。御主君

は僕(しもべ)どもに向かって、「父や兄弟がいるのか」とお尋ねになりましたが

、そのとき、御主君に、「年とった父と、それに父の年寄り子である末の弟がおり

ます。その兄は亡くなり、同じ母の子で残っているのはその子だけですから、父は

彼をかわいがっております」と申し上げました。すると、あなたさまは、「その子

をここへ連れて来い。自分の目で確かめることにする」と私どもに命じになりまし

た。わたしどもは、御主君に、「あの子は、父親のもとから離れるわけにはまいり

ません。あの子が父親のもとを離れれば、父は死んでしまいます」と申しましたが

、あなたさまは、「その末の弟が一緒に来なければ、再びわたしの顔を見ることは

許さぬ」と僕(しもべ)どもにおっしゃいました。わたしどもは、あなたさまの僕

(しもべ)である父のところへ帰り、御主君のお言葉を伝えました。そして父が、

「もう一度行って、我々の食糧を少し買って来い」と申しました折にも、「行くこ

とはできません。もし、末の弟が一緒なら、行って参ります。末の弟が一緒でない

かぎり、あの方の顔を見ることはできないのです」と答えました。すると、あなた

さまの僕(しもべ)である父は、「お前たちも知っているように、わたしの妻は二

人の息子を産んだ。ところが、そのうちの一人はわたしのところから出て行ったき

りだ。きっとかみ裂かれてしまったと思うが、それ以来、会っていない。それなの

に、お前たちはこの子までも、わたしから取り上げようとする。もしも、何か不幸

なことがこの子の身に起こりでもしたら、お前たちはこの白髪の父を、苦しめて陰

府に下らせることになるのだ」と申しました。今わたしが、この子を一緒に連れず

に、あなたさまの僕(しもべ)である父のところへ帰れば、父の魂はこの子の魂と

堅く結ばれていますから、この子がいないことを知って、父は死んでしまうでしょ

う。そして、僕(しもべ)どもは白髪の父を、悲嘆のうちに陰府(よみ=黄泉)に

下(くだ)らせることになるのです。実は、この私が父にこの子の安全を保障して

、「もしも、この子をあなたのもとに連れて帰らないようなことがあれば、わたし

が父に対して生涯その罪を負い続けます」と言ったのです。何とぞ、この子の代わ

りに、この私を御主君の奴隷としてここに残し、この子はほかの兄弟たちと一緒に

帰らせてください。この子を一緒に連れずに、どうしてわたしは父のもとへ帰るこ

とができましょう。父に襲いかかる苦悶を見るに忍びません」

(参考)

@杯を見つけられた者だけ・・・ヨセフは、自分を売り飛ばした兄たちが、父の愛

を一人占めにしているであろうベニヤミンを、父の目の届かないところで見捨てる

かどうかを試した。

Aこの子の代わりに・・・ユダは、末弟の代わりに自分を奴隷として残し、末弟を

ほかの兄弟たちと一緒に帰らせてくれるようにと、ヨセフに願った(神の不思議な

導きを通して、生意気なヨセフは信仰者に変ったが、長い年月のうちに兄たちも大

きく変っていた)