「創世記のソドムとゴモラ」=旧約聖書(創世記第十八章・第十九章)

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(一)

神(ヤハウェ)はマムレのテレビンの木の所でアブラハムに現(あらわ)れた。暑

い真昼に、アブラハムは天幕の入り口に座っていた。目を上げて見ると、三人の人

が彼に向かって立っていた。アブラハムはすぐに天幕の入り口から走り出て迎え、

地にひれ伏して、言った。「お客さま、よろしければ、どうか、わたしのもとを通
り過ぎないでください。水を少々持って来させますから、足を洗って、木陰でどう
ぞひと休みなさってください。何か召し上がるものを調(ととの)えますので、疲
れをいやしてから、お出かけください。せっかく、わたしの所の近くをお通りにな
ったのですから」その人たちは言った。「では、お言葉どおりにしましょう」アブ
ラハムは急いで天幕に戻り、サラのところに来て言った。「早く、上等の小麦粉を
三セアほどこねて、パン菓子をこしらえなさい」アブラハムは牛の群れのところへ
走って行き、柔らかくておいしそうな子牛を選び、召し使いに渡し、急いで料理さ
せた。アブラハムは凝乳(ぎにゅう)、乳、出来立ての子牛の料理などを運び、彼
らの前に並べた。そして、彼らが木陰で食事をしている間、そばに立って給仕をし
た。彼らはアブラハムに尋ねた。「あなたの妻のサラはどこにいますか」「はい、
天幕の中におります」とアブラハムが答えると、彼らの一人が言った。「わたしは
来年の今ごろ、必ずここにまた来ますが、そのころには、あなたの妻のサラに男の
子が生まれているでしょう」サラは、すぐ後(うし)ろの天幕の入り口で聞いてい
た。アブラハムもサラも多くの日を重ねて老人になっており、しかもサラは月のも
のがとうになくなっていた。サラはひそかに笑った。自分は年をとり、もはや楽し
みがあるはずもなし、主人も年老いているのに、と思ったのである。神はアブラハ
ムに言った。「なぜサラは、わたしは老人であるのに、どうして子を産むことがで
きようかと言って笑ったのか。主に不可能なことがあろうか。来年の今ごろ、わた
しはここに戻ってくる。そのころ、サラには必ず男の子が生まれている」サラは恐
(おそ)ろしくなり、打ち消して言った。「わたしは笑いませんでした」神は言っ
た。「いや、あなたは確かに笑った」

(参考)

@ノアの息子セムの何代かの子孫がテラでテラの子がアブラハムとナホルとハラン

で、ハランの子がロトである(すべて男性)。

A三人の人・・・主なる神と二人の天使。

Bお客さま・・・古代では、旅人をもてなすことは非常に大事なことで、それは大
きな美徳であった。そして、旅人がアブラハムに「1年後、サラが子どもを産む」
と告げたとき、アブラハムは神(ヤハウェ)の約束(75歳をすぎた彼に「これから
あなたに子を与える。それが一大民族となる」)を思い出してハッとし、このときや
っとこの旅人は「神」だと気づいたという。

C凝乳・・・昔、子羊の胃袋で作った袋にヤギの乳を入れて持ち歩いていたところ

、気がつくと 乳は青白い液体と白くぶよぶよした塊に分かれていた。この白くぶ

よぶよした塊がチーズの材料である「凝乳(カード)」である。

Dサラはひそかに笑った・・・この時アブラハムは99歳、サラは89歳。とっくに
閉経したお婆さんが妊娠・出産するなんて信じられなかった。

Eサラ・・・サラは「王女」という意味で、神(ヤハウェ)は、これから諸国民の

母となるサラに対し、信仰を成長させようとした。

 

(二)

その人々は、そこを立ってソドムの方に向かったので、アブラハムは彼らを見送っ

て共に行った。時に神は言われた「わたしのしようとする事をアブラハムに隠して

よいであろうか。アブラハムは必ず大きな強い国民となって、地のすべての民がみ

な、彼によって祝福を受けるのではないか。わたしは彼が後(のち)の子らと家族

とに命じて主の道を守らせ、正義と公道とを行わせるために彼を知ったのである。

これは主が、かつてアブラハムについて言った事を彼の上に臨(のぞ)ませるため

である」。神はまた言われた「ソドムとゴモラの叫びは大きく、またその罪は非常

に重いので、わたしはいま下(くだ)って、わたしに届いた叫びのとおりに、すべ

て彼らがおこなっているかどうかを見て、それを知ろう」。その人々(二人)はそ

こから身を巡(めぐ)らしてソドムの方に行ったが、アブラハムはなお、神の前に

立っていた。アブラハムは近寄って言った「まことにあなたは正しい者を、悪い者

と一緒に滅ぼされるのですか。たとい、あの町に五十人の正しい者があっても、あ

なたはなお、その所を滅ぼし、その中にいる五十人の正しい者のためにこれを許(

ゆる)されないのですか。正しい者と悪い者とを一緒に殺すようなことを、あなた

は決してなさらないでしょう。正しい者と悪い者とを同じようにすることも、あな

たは決してなさらないでしょう。全地を裁(さば)く者は公義を行うべきではあり

ませんか」。神は言われた「もしソドムで町の中に五十人の正しい者があったら、

その人々のためにその所をすべて許そう」。アブラハムは答えて言った「わたしは

塵(ちり)灰に過ぎませんが、あえてわが主に申します。もし五十人の正しい者の

うち五人欠けたなら、その五人欠けたために町を全く滅ぼされますか」。神は言わ

れた「もしそこに四十五人いたら、滅ぼさないであろう」。アブラハムはまた重(

かさ)ねて神に言った「もしそこに四十人いたら」。神は言われた「その四十人の

ために、これをしないであろう」。アブラハムは言った「わが主よ、どうかお怒(

いか)りにならぬよう。わたしは申します。もしそこに三十人いたら」。神は言わ

れた「そこに三十人いたら、これをしないであろう」。アブラハムは言った「いま

わたしはあえて、わが主にもうします。もしそこに二十人いたら」。神は言われた

「わたしはその二十人のために滅ぼさないであろう」。アブラハムは言った「わが

主よ、どうかお怒(いか)りにならぬよう。わたしはいま一度申します、もしそこ

に十人いたら」。神は言われた「わたしはその十人のために滅ぼさないであろう」

。神はアブラハムと語り終わり、去って行った。アブラハムは自分の所に帰った。

(参考)

@ソドムとゴモラ・・・ソドムの町とその隣のゴモラの町の住民は、同性愛をはじ
め、あらゆる悪徳に耽(ふけ)っていた。

A十人のために滅ぼさない・・・ソドムに住んでいる甥のロトを心配するアブラハ

ムは、こうして甥のロトの救われる保証を得た。

 

(三)

二人のみ使いが夕方ソドムに着いたとき、ロトはソドムの門の所に座っていた。ロ

トは彼らを見ると、立ち上がって迎え、地にひれ伏して言った。「皆様方、どうぞ

わたしの家に立ち寄り、足を洗ってお泊まりください。そして、そして朝早く起き

てお立ちください」彼らは言った。「いや、結構です。わたしたちはこの広場で夜

を過ごします」しかし、ロトがぜひにと勧(すす)めたので、彼らはロトの所に立

ち寄ることにし、彼の家を訪ねた。ロトは、酵母を入れないパンを焼いて食事を供

し、彼らをもてなした。彼らがまだ床に就(つ)かないうちに、ソドムの町の男た

ちが、若者も年寄りもこぞって押しかけ、家を取り囲んでわめきたてた。「今夜、

お前のところへ来た連中はどこにいる。ここへ連れて来い。なぶりものにしてやる

から」ロトは、戸口の前にたむろしている男たちのところへ出て行き、後(うし)

ろの戸を閉めて言った。「どうか、皆さん、乱暴なことはしないでください。実は

、わたしにはまだ嫁(とつ)がせていない娘が二人おります。皆さんにその娘たち

を差し出しますから、好きなようにしてください。ただ、あの方々には何もしない

でください。この家の屋根の下に身を寄せていただいたのですから」 男たちは口

々に言った。「そこをどけ」「こいつは、よそ者のくせに、指図などして」「さあ

、彼らより先に、お前を痛い目に遭(あ)わせてやる」そして、ロトに詰め寄って

体を押しつけ、戸を破ろうとした。 二人の客(天使)はそのとき、手を伸ばして

、ロトを家の中に引き入れて戸を閉め、 戸口の前にいる男たちに、老若を問わず

、目つぶしを食わせ、戸口を分からなくした。二人の客はロトに言った。「ほかに

、あなたの身内の人がこの町にいますか。あなたの婿(むこ)や息子や娘などを皆

連れてここから逃げなさい。実は、わたしたちはこの町を滅ぼしに来たのです。大

きな叫びが主のもとに届いたので、主は、この町を滅ぼすためにわたしたちを遣(

つか)わされたのです」そこでロトは出て行って、その娘たちを娶(めと)る婿た

ちに告げて言った。「さあ早く、ここから逃げるのだ。主がこの町を滅ぼされるか

らだ」と促したが、婿たちは冗談だと思った。

(参考)

@二人のみ使い・・・二人の天使のこと。神(ヤハウェ)はアブラハムとの会談の

あと天に戻り、二人の天使は道を進めてソドムに到着した。

Aソドムの門・・・町の門は、商取引や裁判などが行われる場所、又、社交の中心

で、ロトがそこに座っていたのは、ソドムである程度の地位を占めていた。

Aなぶりものに・・・ソドムの町は、男色の盛んな背徳の町であった。

B婿たちは冗談・・・ロトと妻と、まだ嫁(とつ)いでいない二人の娘の4人以外

、ソドムには10人どころか1人も正しい人はいなかった。

 

(四)

夜が明けるころ、み使いたちはロトをせきたてて言った。「さあ早く、あなたの妻

とここにいる二人の娘を連れて行きなさい。さもないと、この町に下(くだ)る罰

(ばつ)の巻き添えになって滅ぼされてしまう。」ロトはためらっていた。神は憐

(あわ)れんで、二人の客(天使)にロト、妻、二人の娘の手をとらせて町の外へ

避難するようにされた。彼らがロトたちを町外(まちはず)れへ連れ出したとき、

神は言われた。「命がけで逃(のが)れよ。後(うし)ろを振り返ってはいけない

。低地のどこにもとどまるな。山へ逃げなさい。さもないと、滅びることになる」

ロトは言った。「主よ、できません。あなたはわたしに目を留(とど)め、慈(い

つく)しみを豊かに示し、命を救おうとしてくださいます。しかし、わたしは山ま

で逃げ延びることはできません。恐(おそ)らく、災害に巻き込まれて、死んでし

まうでしょう。ご覧ください、あの町を。あそこなら近いので、逃げて行けると思

います。あれは小さな町です。あそこへ逃げさせてください。あれはほんの小さな

町です。どうか、そこでわたしの命を救ってください」神は言われた。「よろしい

。そのこともあなたの願いを聞き届け、あなたの言うその町は滅ぼさないことにし

よう。急いで逃げなさい。あなたがあの町に着くまでは、わたしは何も行わないか

ら」そこで、その町はツォアル(小さいの意味)と名付けられた。太陽が地上に昇

ったとき、ロトはツォアルに着いた。神はソドムとゴモラの上に天から、神のもと

から硫黄の火を降らせ、これらの町と低地一帯を、町の全住民、地の草木もろとも

滅ぼした。ロトの妻は後(うし)ろを振り向いたので、塩の柱になった。アブラハ

ムは、その朝早く起きて、さきに神と対面した場所へ行き、ソドムとゴモラ、およ

び低地一帯を見下(みお)ろすと、炉の煙のように地面から煙が立ち上っていた。

こうして、ロトの住んでいた低地の町々(ソドムとゴモラ)は滅ぼされたが、神は

アブラハムを御心(みこころ)に留め、ロトを破滅のただ中から救い出した。

(参考)

@あれは小さな町・・・ロトは、不信仰という意味ではソドムに染まっていて、山

に逃げろという天使に、とても山までは逃げられない、近くの小さい町までは逃げ

るからそこで助けてくれ、という図々しいとも言える態度をとった。

Aロトの妻・・・ロトの妻はソドムでの生活、置いてきた財産、そういったものに

未練があった。