「観音経=意訳全文」
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※観音経・・・お釈迦さまのお話をうかがおうと大勢の人々が集まっている
中で語られた説法の様子を描いたもの。

※観世音菩薩・・・ 多くの衆生(人々)がもろもろの苦悩を受けているとき、
「観世音菩薩」の名を一心に唱(とな)えれば、即座にその声を聞き、真実のすがたを
見極めて救ってくれる。又、人々が心の中でどのようなことを願っているか、
祈っているか、その声なき声までも観世音菩薩は聞き取り、救ってくれる菩薩。
(観音は衆生の救済に顕(あらわ)れる時、多くの姿をとると言われている)

 

世尊(仏陀=お釈迦さま)は、妙なる立派な姿をしておられます

※世尊・・・仏陀に呼びかける際に、弟子が用いた言葉。

※「妙相」・・・妙なる立派な姿とは、お釈迦様の吉相のことで、
仏陀は、その身体に特徴的な「三十二相」といわれる吉相をもっている。

 

私(無尽意菩薩)は今、重(かさ)ねて観世音菩薩のことをお尋(たず)ね致します

※無尽意菩薩・・・尽きることのない求道の意志を持つという菩薩のこと。

 

観世音菩薩とは、どんな経緯(いきさつ=因縁)で

観世音と名づけられたのでしょう

 

妙なる立派な姿をしておられる世尊(せそん)は

偈(げ=詩)をもって無尽意(むじんに)に答えられた

 

無尽意よ、よく聞きなさい。観音の行いがどんなに優れているかを

あらゆる時、あらゆる場所に応じて現(あらわ)れ

 

それは深い海のようにしっかり誓願(せいがん)をして

どんなに、時が経っても、変わることはありません

 

それは、何千億の仏(ほとけ)たちのもとで

大いなる清らかな願(ねが)いを起こしたからです

 

私は無尽意のために、簡単に説明しましょう

観音さまのお名前を聞き、及び、お姿を見て

 

よく心に念(ねん)じて、むなしく時を過さなかったら

もろもろの苦しみを消滅することができます

 

たとえ殺そうと思っている者に

大火の中に、突き落とされても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念(ねん)じたなら

大火も変じて池となる

 

あるいは大海に漂流して

龍や魚やいろいろの鬼神(きしん)に襲(おそ)われても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

波に呑(の)まれてしまうことはありません

 

あるいは須弥山(しゅみせん)に登ったとき

悪意を持った者に突き落とされても

※須弥山・・・仏教宇宙観で、世界の中心に須弥山があり、海底からの高さが
 十六万八千由旬(1由旬=7Km)、月日の運行の中心であるとされた想像上の山のこと。

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

大空の太陽のように天空にとどまるでしょう

 

あるいは悪人に追われて

金剛山という高い峰の頂きから突き落とされても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

髪の毛の一本も損(そこな)われないでしょう

 

あるいは悪い賊に取り囲まれて

刀で襲(おそ)いかかられても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

すぐに彼らは慈悲の心を起こすでしょう

 

あるいは悪い王様に苦しめられ

いよいよ刑場に臨み、命が終わろうとしても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

処刑の役人の刀は次々に折れてしまうでしょう

 

あるいは囚(とら)われて、枷(かせ)や鎖(くさり)に

手足がつながれていても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

その縛(いましめ)は解(と)けて、解放されるでしょう

 

まじないによって呪(のろ)われたり、毒薬によって

その身に害が及ぼうとしても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

その害悪は呪った本人に戻るでしょう

 

あるいは悪い鬼や羅刹(らせつ)

毒龍、もろもろの悪鬼に出会っても

※羅刹・・・人を食べる悪鬼のこと。

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

その時、それらは害をしなくなるでしょう

 

もし、悪い獣(けもの)に囲(かこ)まれ

鋭い牙(きば)や爪(つめ)が恐(おそ)ろしくても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

悪い獣はたちどころに、はるか彼方(かなた)へ走り去るでしょう

 

蜥蜴(とかげ)、毒蛇(どくへび)及び蝮(まむし)や蠍(さそり)が

毒気を炎のように吹きかけても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

その声を聞き、たちどころに逃げ出すでしょう

 

雷雲がでて、雷鳴がとどろき、稲妻が光り

霰(あられ)や大雨(おおあめ)が降ってきても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

たちまちそれらは消え去ってしまうでしょう

 

衆生(人々)が疫病に襲われて

たくさんの苦しみに身を攻められても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

それら衆生(人々)の苦しみは救われるでしょう

 

観音さまは神通力(じんつうりき)を持っておられ

広い智恵と方法で

 

十方のどんな国にも

お姿を現わさない国はありません

 

いろいろな悪(あ)しき所

地獄、鬼、畜生の世界にまで行き

 

生老病死などの苦しみは

みな観音さまの力で消滅していくでしょう

 

観音様には、真実を見る目、清らかな目

広大な智恵の目

 

哀(あわ)れみの目、及び慈(いつく)しみの目で観るという、五観の力が備わっているから

常に観音さまの出現を願い、常に素晴らしいと仰ぎ見なければなりません

 

観音様のむくで清らかな光り

太陽のような智慧の光は、すべての暗闇を破(やぶ)り

 

災いの風や火を押さえ

あまねく世間を明るく照らすでしょう

 

観音様の偉大な慈悲の心で説かれる戒めは、雷が鳴り響くように偉大であり

慈悲あるお心は素晴らしく大きな雲のようで

 

ありがたい仏法(智慧の雨)をお与えいただくなら

煩悩(ぼんのう)の炎(ほのう)は消滅するでしょう

 

訴訟により法廷で争い

戦場で恐ろしくなっても

 

かの観音の力(観音様、お助けください)を念じたなら

すべての怨(うら)みは、ことごとく退散するでしょう

 

観音様は妙なる音(声)をお持ちです

梵鐘(ぼんしょう)の清浄なる無垢の音、潮騒のように心にしみ込む音もお持ちで

 

それは世間のあらゆる苦しみや悲しみの音(声)を制する音なのです

それゆえに常に観音様を念じるのです

 

一瞬一瞬、疑わないで念じなさい

観音さまは清らかなお方である

 

苦悩や死、災いにあった時は

まさにその最後のより所となるでしょう

 

観音さまは、一切の功徳(こどく)を備(そな)え

慈(いつく)しみの眼を、いつも衆生(人々)に注(そそ)がれ

 

その功徳は、大きな海のように計(はか)りしれないほどなのです

それ故(ゆえ)に、つつしんで礼拝すべきなのです

 

この時、この説法をうかがって感動した持地菩薩(お地蔵様)は、すぐに座から立ちあがり

 

佛(お釈迦さま)の前へ進み出て申された  世尊よ

 

もし衆生(人々)が 観世音菩薩の一節に説かれている 自由自在な救済の働きと相手に応じてさまざまに姿を変え、どこにでもお姿が現れる

 

その神通力を聞き知った人は

大きな功徳を得ることでしょう

 

こうして、お釈迦様が、この普門品(観世音菩薩の教え)を説(と)き終(お)えられた時

 

集まった八万四千ものたくさんの人々は

 

みなこのうえない、完全な悟りを得たいという願いを起こし、正しい道を志すようになったのです

 

 

観音経普門品偈(終)