《上肢の骨及び下肢の骨の生体観察》

【上肢の骨】
 1.肩甲棘
   肩甲骨の背面で内側から上外側に向かって走る高まりで、これは肩甲上神経の
    触察上特に重要である。なお両肩甲棘内側端を結ぶ線は、およそ第3胸椎棘突起
    の高さに相当する。

 2.肩峰
   肩甲棘の外側端で上腕骨頭のすぐ上の所に比較的鋭く前方に向かって突出して
  いる。鎖骨の肩峰端より少し前方に出っ張っていることに注意すること。

 3.肩甲骨椎骨縁(内側縁)
   肩甲骨を内転すると、正中線の外側によく現れる。その上端に上角、下端に
  下角を触れる。両下角を結ぶ線はおよそ第7胸椎棘突起の高さに相当する。

 4.烏口突起
   鎖骨の肩峰端のすぐ下で、上腕骨頭の内側に触れる。慣れないと上腕骨頭との
  区別が難しいが肩
の力を抜いて大胸筋や三角筋を弛緩させて触察すると触れやす
  い。これは鎖骨下窩の触察上重要である。

 5.鎖骨
   皮膚および広頚筋の直下にあるので、その全長にわたって視察し、かつ触れる
  ことができる。上から見るとS字状の彎曲がはっきりと認められる。この骨は腕
  神経叢の触察上重要である。

 6.上腕骨頭
   大部分が肩甲骨の関節窩からはみ出しているので、三角筋を通して触れること
  ができる。上腕骨頭を肩峰からはっきりと区別するには、上腕を回旋しながら触
  察するとよい。またこのとき、肩峰の下外側で大・小結節をとらえることができ
  る。

 7.内側上顆・外側上顆
   上腕骨下端の内側・外側の皮下に突出している部で、外側上顆は肘関節屈曲位
  でよく現れる。内側上顆は尺骨神経の触察上重要である。

 8.肘頭
   尺骨上端にある強く突出した部で、肘関節屈曲位においてよく現れる。伸展す
  ると上顆線上に位置し、90度屈曲位では上顆線を底辺とする二等辺三角形の頂
  点に位置する。

 9.尺骨茎状突起
   尺骨下端の背側にあるエンドウ大の突起である。この突起は、前腕の回外位で
  手根骨の尺側背面にとび出しているが、前腕を回内すると手根骨の尺側部にある
  軟部組織のために被われて見えなくなる。このとき手根骨の尺側背面に突出して
  いるのは、茎状突起ではなく尺骨頭自身であることに注意すべきである。

10.橈骨茎状突起
   橈骨下端の突出する部であるが、尺骨の同名突起ほど尖鋭ではない。よく注意
  すれば、母指の付け根背面のくぼみに触れることができる。なお橈骨下端の最外
  側に突き出た骨のかどは橈骨の茎状突起ではないので注意すること。

11.手根骨
   掌側では母指球の近位端に橈側手根隆起を触れる。これは2pたらずの長さで
  斜めに上内側から下外側に向かって走る。一方、小指球の近位端には尺側手根隆
  起があり、これも斜めに橈側手根隆起と平行して走っている。背側では筋がない
  ため比較的表在しているが、前腕伸筋群の腱が通過するので触察はかなり困難で
  ある。橈骨下端の前 にある舟状骨は、橈骨手根関節を掌屈かつ尺屈すれば触れ
  やすく、また尺骨下端の前にある三角骨は、橈骨手根関節を掌屈かつ橈屈すれば
  触れやすくなる。


【下肢の骨】
 1.腸骨稜
   腸骨の上縁で脊柱の両側から大きく凸彎しながら後述の上前腸骨棘まで達して
  いる。左右の腸骨稜の最高部を結ぶ線(ヤコビー線)はおよそ第4腰椎棘突起
  高さに相当する。

 2.上前腸骨棘
   臨床上は勿論、生体計測に際してもきわめて重要な手がかりとなる。この部を
  最も簡単に発見するには、腸骨稜を後ろから前へたどっていくと、その前端が皮
  下によく突出しているので容易に見いだすことができる。左右の棘を結ぶ線を前
  棘線という。

 
3.上後腸骨棘
   腸骨稜の後端部をなす突出部で脊柱の両側に正中線から約3pほど隔たって位
  置している。生体では靭帯が張っているため上前腸骨棘ほど明瞭ではない。左右
  の棘を結ぶ線を後棘線という。

 4.坐骨結節
   肛門の両側で大殿筋の下縁部に被われているが容易に触れることができる。椅
  子にかける場合にはその面に接するところである。従って股関節を屈曲させると
  触れやすい。この結節は坐骨神経の触察上重要である。

 5.大転子
   殿部の外側で股関節の屈伸をすると容易に触れることができる。下肢長計測の
  基点となっている。

 6.内側上顆・外側上顆
   大腿骨の内側顆・外側顆の側面にある小さい突出部で内側顆、外側顆の後縁近
  くにある。膝関節90度屈曲位では内側側副靭帯・外側側副靭帯の付着部として
  容易に触れることができる。
 
 7.脛骨粗面
   脛骨上端の前面にある隆起部で同骨の内側顆、外側顆の高さよりやや下方で触
  れられる。この部は、大腿四頭筋の腱が膝蓋骨を介して、膝蓋靭帯となって付着
  しているところである。

 8.腓骨頭
   腓骨上端の膨大部で、膝関節の下外方で触れる。膝を直角に曲げると大腿二頭
  筋の腱が著明に現れるが、この付着部が腓骨頭である。総腓骨神経の触察上重要
  である。

 9.脛骨前縁
   脛骨粗面から下方、下腿の全長にわたって鋭く皮下に触れられる。俗に「向こ
  う脛」といわれている所である。

10.内果・外果
   足関節の内側・外側にある突出部で高さは外果の方がやや低い。下肢長計測の
  基点となっている。俗に「くるぶし」といわれている。

11.足根骨
   底側では皮膚が厚く腱膜や多数の足筋のために触察は全く不可能である。足背
  では、2つの小筋や、下腿の伸筋群の諸腱が通過するが、皮膚も薄く骨格も比較
  的皮下にあるからよく訓練すればかなり細かな所まで触察できる。足の内側縁で
  は前から内側楔状骨・舟状骨粗面・距骨の突出部・踵骨の突出部・踵骨隆起が、
  外側縁では、前から第5中足骨粗面・踵骨の前端突出部・踵骨隆起が明瞭に触れ
  られる。また外果と長指伸筋との間に距骨を触れることができる。