お勉強は好きですか、知識を詰め込むのは好きですか?
答えよう、YES! YES! YES!
新しい知識を得る喜び、未知を切り拓く興奮。ブラボー! 素晴らしい。スタンディングオベーションである。知らない事を知っている人ってすごい。分からない事が分かる人ってすごい。尊敬に値するね是非ともお近づきになってください! できればその知識のおこぼれに預かれると嬉しいな!!
残念な事だ、男は海兵の家系に生まれた。
詰め込みたいのは知識であるのに、与えられるのは主に筋トレと戦闘訓練。座学で一番でも褒められはしない。
悪を倒す為に強く、海賊を駆逐する為に強く! ハリーアップ! 人には向き不向きというものがあるし、本人の意向というものもある。親の期待が子どもの未来を食い潰す! 才能あるんだからもっと頑張れ? いや本気でそれはどうでもいいから勉強させてくれよ学者になるから。海兵にならなくたっていいじゃあないかね。
飛ばしたブーイングは大体ゲンコツで報われた。暴力反対。
そんな具合に、親に反発して訓練をさぼり倒していたのは幼少期まで。
来る日も来る日も訓練訓練。本格的に海軍の士官学校へ放り込まれる前日に、盗んだ船で走り出したのはそれこそ正当な反抗と呼べただろう。サボり仲間と一緒になって、広い海へとフライハイ!
飛び出した海で遭遇したのが歴史の探査船だったのは、まさに彼にとって運命のもたらした福音だった。
歴史の本文。
古代文字の解読。それは政府に禁じられた行為だ。
露見すれば良くて監獄、悪ければ死罪となるような大罪である。
彼等がその探査を行う学者達なのだと知れたのは、彼が知識の収集に貪欲だったからだ。
警戒する学者達。しかし男の興奮はその事実に頂点まで極まった。あっけにとられてポカンとする学者の手を取りブラボー! 素晴らしい、何という奇跡! 出会えたことを神に感謝!! と感涙に咽びながら小躍りする男の姿に、サボり仲間な友人は頭を抱えた。合掌。
男は勉強が好きだった。知識を得る事が大好きだった。
空白の百年。是非とも知りたいものだ! 隠されれば暴きたくなる、人間の正しい性じゃあないかね!
男は友人も巻き込んで、強引に学者達の仲間入りを果たした。
友人は諦めの境地に至った。お前ってそういうやつだよな、と黄昏る友の背中は煤けていた。
それでも付き合ってくれる君の友情に乾杯! マーベラス! ありがとう友よ! 男は大変ご機嫌だった。
さてはて。
研究するには金が要る。資金は潤沢であればあるほど良い。世の真理である。
彼等はそれなりに強かった。マッスルになれと鍛えられた成果である。嬉しくはない。
手っ取り早く合法的に稼ぐとなれば、賞金稼ぎが一番良い。当然の帰結である。勉強は好きだが残念、研究の手伝いをするには圧倒的に知性が足りない! 彼等、主に男は泣く泣く出稼ぎに精を出す事にした。
定期的に船へと戻るが、基本的には渡り鳥。
その時々の研究成果に目を輝かせては賞賛し、そうしてまた稼ぎに出る。
そんな日々を続ける内に政府に捕捉されたのは、まぁ当然の成り行きだったが不覚であった。なんたる失態!
政府諜報員の目を掻い潜ろうと、あちらこちらへ拠点を移しながらのらりくらりと逃げ回った。
幸いにして弁の立つ方であったので、相手を丸め込むのはお手の物。
時折強引な手段に出てくる事もあったが、ドアドアの実の能力者である男にとって逃げ出すのは十八番だった。
「で? いい獲物見つけたってどこでだよ」
「リトルガーデンさ! ほらこの手配書の小さなレディ、彼女があの島にいたんだよ!
巨人二人も賞金首なんだがね、連行する手間と賞金額を考えれば、彼女一人でも大儲けだよ素晴らしい。
これぞまさしく神の思し召しだと思わないかね?」
「おおっ、マジか。いいじゃねえか。
最近狩れてなかったし、こりゃーお前がオルビアさん達に貢いでもしばらく豪遊できるなー!」
「はっはっはだろうだろう、褒めてくれて構わんのだよ」
男は勉強が大好きだった、だから学者に敬意を払う。
知識の前には法の規制などなんのその。ネジの外れる事もあるが、基本的には常識人で。
海兵になるべく育てられた。悪を滅ぼせと教えられた。彼等の優しさの対象に、残念ながら賞金首は含まれない。
そうして運命はすれ違って行き違う。
攻略本もセーブも無い“現実”で、脇役達は人知れず、オハラの学者と知識に殉じる。
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