※本編読了推奨IF
※ひょっとしたらあり得たかも知れない新世界での出来事的なの
※ビッグ・マムの思想が細部はどうあれわりと旭と親和性たけーな、と思ったので捏造
※細かいことはオールスルーです気にしてはいけない



 ■  ■  ■



 グランドライン後半の海、通称“新世界”。
 猛者達がひしめく“新世界”には、中でも飛び抜けて強大な四人の海賊――“四皇”が君臨している。そのうち一番の新参であり、政府にもっとも警戒されている海賊。旭海賊団頭領“リトル・モンスター”の天竜人嫌いは、グランドライン育ちであれば子どもでも知っている事である。
 なにせ、“天竜人の怨敵”“竜殺し”などという二つ名でも噂される海賊だ。別に隠している訳でもない。しかし、そういった天竜人嫌いの面や、世界政府との確執の方が話題に上りやすい為か。彼女が天竜人のみならず王族貴族の類、ついでに無法な略奪者といった手合いまで殺戮対象に含めている事については意外と知らない者も多い。
 “海賊”が国を襲う事は話題になっても、その“理由”についてまでは取り沙汰されはしないものだ。
 旭海賊団の面々、特に副長フィッシャー・タイガーが身体を張ってのやりすぎ殺戮パーティーを止めているから、というのもあったりする。


「ぎぃやぁああああああああああああああああああああああああ!」


 旭海賊団の縄張りにある、とある島にて。絹を裂くような、というよりは空を落とすような、という形容詞がしっくりくる絶叫に、その場に居合わせた者達は思わずぴたりと動きを止めた。
 しかし、それもほんの数秒のこと。
 その叫びを合図に、彼等はめいめいに手を止めて休憩の準備を始める。

「もう三時でちたか! 今日のお菓子はなんですかねー?」
「さァな。腹に収まりゃ何でも一緒だ」

 手合わせを中断し、機嫌良く頬を緩ませるリプラにアーロンはそっけなく返した。
 妹達と一緒に手配書の整理をしていたハンコックが、横合いから「ジャブラの奴が走っていったところを見るに、チョコレートではないか?」と口を挟む。

「あー、そういえばジャブラちゃんって今……」
「ローラの事口説いてるわよね!」

 なまあったかい目になるリプラに頷いて、サンダーソニアがにんまり笑った。
 そこそこ男前なはずなのに何故か連戦連敗失恋続きのジャブラだが、今回はいい線いっているのでは、というのが女性陣の感想である。
 できれば今度こそ上手く行って欲しいものだ、とアーロンは顔を歪めてため息をついた。ふられた後のヤケ酒に付き合わされるのは、いい加減勘弁して欲しいのである。ジャブラは泣き上戸に加えて絡み酒なのだ。それに毎回付き合っている身としては、だいぶ切実な願いだった。
 手入れしていた武器を片付けながら、ユーデルが「ん?」と首を傾げて呟く。

「今日の菓子当番、プリンって嬢ちゃんじゃなかったか? 三ツ目族の子の」
「ってことは……ジャブラの早とちり、かしらね」

 マリーゴールドが肩を竦める。

 ――旭海賊団にはつい最近、“三時のおやつ”制度が導入された。

 理由は明快。元“四皇”の一角、“ビッグ・マム”シャーロット・リンリンと旗下の海賊団を、丸ごと旭海賊団の傘下に収めたからだ。“三時のおやつ”制度からも伺えるように、“ビッグ・マム”もその海賊団の面々も、とにかく甘い物やお菓子に対してのこだわりが異様なまでに強い。おいしいお菓子のためなら国さえ滅ぼしてしまうのが“ビッグ・マム”という海賊なのである。
 対して旭はといえば、元が奴隷の集まりから端を発する海賊団だ。
 食事が三食きちんと出て、しかも腹いっぱい食べられるならそれ以上の贅沢はない、というド底辺を味わってきた彼等に、朝昼晩の食事に加えて“三時のおやつ”も食べる、という発想はそもそも備わっておらず、奴隷の身分から脱して久しい現在に至っても、いまだ、お菓子は“好きな奴がたまに食べているもの”程度の認識だった。

 そんな旭海賊団に、ビッグ・マム海賊団が吸収合併されたのである。
 頭領同士の戦いを経ての傘下入りだ。とシャーロット・リンリン、二人の戦闘は苛烈だったが、明確に勝敗は決している。というか、旭海賊団とビッグ・マム海賊団の開戦理由はたまたま滞在中の島をビッグ・マム海賊団がお菓子目当てに蹂躙し始めた事だった。の殺戮対象認定待ったなしの暴挙である。偶然にもシャーロット・リンリン当人まで居合わせたのだからたまらない。当然その場で血祭りに上げにかかる、応戦するシャーロット・リンリン。
 旭海賊団VSビッグ・マム海賊団の全面戦争は、主に両海賊団の船員へ盛大に巻き添え喰らわせながらトップ同士がガチンコで殴り合う、怪獣大決戦の様相を呈する事になったのだった。なお、まるまる一昼夜二人が殺し合った結果として島は跡形もなくなったし、船員達も島民も生き残るだけで必死だった。

「服従か、死か。選べ」

 本当にがそう迫ったかどうかはともかく、一昼夜かけて九割殺しの目に合わせたシャーロット・リンリンに、誰も制止する者がいなかったが何故かとどめを刺さなかったのは事実だ。旭海賊団の中でも、天変地異の前兆説が真剣に議論されるレベルの謎である。
 ともあれ。シャーロット・リンリンはに下る事を選び、彼女の海賊団も、そのまま旭の傘下に収まった。

 郷に入っては郷に従え。

 が。残念ながらこの食文化の多大な違いに、元ビッグ・マム海賊団の面々は三日と保たずに根を上げた。
 かくして決死の土下座と嘆願の下、旭海賊団に“三時のおやつ”制度が導入されたのである。残念ながら“十時のおやつ”は旭海賊団料理部隊長カルトレイメが「昼飯入らなくなるじゃないかい。そもそも、あんた等は糖分のとりすぎだよ!」と主張し、「糖分中毒だぬ。節制は必須だの」と医療部隊長コトロも頑として譲らなかった為、見送られる運びとなったが。
 結果、どうしてもお菓子が食べたい元ビッグ・マム海賊団組によって、こっそり食べる用の闇お菓子が取引されていたりするとかしないとか。

 それはともかく。

 そんな感じで導入された“三時のおやつ”制度は、ビッグ・マム海賊団出身者が主導するお茶会形式で行われている。参加するも自由、しないも自由。しかしさすがお菓子に並々ならぬこだわりを持つビッグ・マム海賊団出身者達だけあって、出されるお菓子はどれも絶品だ。
 今では日々の楽しみとして、“三時のおやつ”を心待ちにしている船員も多い。


「んぎゃぁああああああああああああああああああああ!!」


 どぱーん。

 べいーん。

 ぼよーん。

 ずごーん。


「……夢みてェな、現実、だな……」

 海上で激しくバウンドしている元ビッグ・マム海賊団頭領にして実母の姿を眺めやりながら、シャーロット家次男、カタクリはそこはかとなく遠い目をした。その横では長男であるペロスペローが、現実逃避とばかりに自分の能力で作った飴を無限にキメている。糖分摂らなきゃやってられねぇ。
 ちなみにシャーロット・リンリンは本当に海の上をバウンドしている訳ではなく、下からのペットである海王類クイックが跳ね上げ、それをが叩き落とすという反復運動の結果として激しくバウンドしているように見えるだけである。とてもやばい。

「……私は、いまだに現実だと受け入れきれない……」
「……それは……大体の兄弟が同じファ……」
「……世界って……広いな……」

 程度の差こそあれど似たようなノリで現実逃避に余念が無い、シャーロット家の子ども達。
 生まれてこのかた、絶対の存在であった母親である。付き合いがなまじ長いだけに、その母親がボールよろしくいいようにされっぱなしな光景がちょっと脳に浸透しない。ほんとなんだろうねこれ。幻覚かな?

 目が死んでいる新参達を余所に、旭海賊団のメンバーはそんな光景にも平常運行である。彼等にとって頭領、が規格外なのは常識中の常識だ。つまり、このくらいで今更動揺する奴は誰もいない。
 元ビッグ・マム海賊団組のリアクションを新人にはありがちなカルチャーショックとスルーして、旭海賊団料理長、カルトレイメは医療部隊長コトロに尋ねた。

「食いわずらいって治療できないのかいコトロ。“患い”ってんならあんたの領分だろう?」
「うぬー。あっちの船医組の所見とこないだ診察してみた結果合わせて推察する限り、たぶんあれ、脳機能の障害ぬ。それに精神的未成熟……ストレス耐性の無さが拍車をかけてるみたいだの」
「……要するにどういう事なんだい? 結論から言っとくれ」
「治療不能だぬ! 対処方法は欲しがってるものを食べさせるか、そうでなかったら頭領みたく、あーやって力尽くで何とかするしかないぬ」

 べぎゃーん。

 ぼいーん。


「あんぎゃああああああああああああああああああああああああ!」


 上下右に逸れて斜め上軌道修正左横移動で位置調整のち下上下上――

 常人にはついていけない類の運動である。
 回を重ねるたびに往復運動が無駄に洗練されていっているのは言うまでもない。
 あれに付き合うとなれば、それこそ四皇クラスの実力が無いと無理だろう。

「……。ま、頭領の遊び相手が増えたんだ。結構な話さね」
「そうだぬぅ。クイックのストレス発散にもなるし、何より運動量が増えるのは健康的でいい事だの!」

 短い付き合いだが、シャーロット・リンリンの体力お化けっぷりと頑丈さは既に周知の事実である。疲労困憊だけで済む辺り、さすが元四皇、我等が頭領といい勝負な怪物っぷりだともっぱらの評判だった。
 ほっこり顔で頷き合う二人の後ろから、やってきたジャブラが「おーい、おやつ準備できたってよー」と声をかける。


「ぉぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」


 ぼよーん。

 べいーん。

 ずがーん。


「ところでなんでお義母様ボールにされてんだ。またなんかやらかしたのか?」
「当たりだの! 三ツ目の子見てキモいキモい騒いでたんだぬー」
「懲りねぇなあの人」

 元四皇の、絶叫途絶えぬ午後三時。
 原作時期に突入し、波乱の予兆はあろうとも――旭海賊団はおおむね、本日も平和である。



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トドメを刺さなかった× → 思った以上にタフだった○
改めて殺しにかからなかったのはたぶん思想的なアレソレが思いの外一致してたからです。タブンネ!