とても大きな船に乗っている。
船は波に揺られるばかりで、己の進路も定まっていないようだった。ただ波に揺られるに身を任せている。陸は見えない。何処にいるのかも分からない。波の底から昇る日は血濡れて赤い。黒い海を赤く染めて、白い光で焼き焦がして、そうしてずぶずぶと赤の中に身を沈めていく。緋色に沸き返る海を、船は波に追いやられるようにして滑っていく。
けれども決して、何処へも行き着く事は無い。
蛍丸の手を繋ぐのは、黒い人影めいた人間である。顔はとんと見えない。無言でそれは、蛍丸をその船へと連れ込んだ。船には他にも多くの同胞が乗っている。
黙然と、手を繋いだままのそれを見上げて聞いてみた。
「ねーねー。この船、どこ行くの?」
それは蛍丸を見なかった。水底から響くような声で、「何故」と問い返した。
「お日様と一緒に、沈んでくみたいだから」
それはくぐもった声を上げた。笑ったようだった。
そうして向こうの方へ行ってしまった。
「燃え往く我が身の、果ては何処か。何れ我が身は水の底。
行き着く先は何処も同じ。波の向くまま沈むまま。梶枕。流せ流せ」と囃している。舳へ行って見たら、同胞達が無言で波間を覗き込んでいた。
蛍丸はひどく心細くなった。何時陸へ上がれる事か分からない、そうして何処へ行くのだか知れない。何処かへ向かっているのかすら判然としない。
同胞達は沢山いた。みんな赤黒くなっていた。
赤黒くなった同胞達を、黒い人影は口を噤んで波間へと投げ込んでいく。
蛍丸をそれが掴む。己の身体は、同胞達と同じように赤黒く染まっていた。燃える陽が、船を赤い篝火にしていた。足が甲板を離れる。
水の色は黒かった。
人影は、じっと落ちてゆく蛍丸を見詰めている。
蛍の残影がきらきらと光る。
その輝きに見惚れながら、蛍丸はゆっくりと水底へ沈んでいった。
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