鍛刀場に籠っていた審神者が倒れた、と近侍を務めていた初期刀が叫んでいた。
 審神者は刀集めに貪欲である。新たに実装された男士が出ると、大抵寝食忘れて蒐集に励む。
 日頃は至極善良な人間であるのだが、これに関してばかりは気が違ったようになる。
 一期一振は、そんな主の姿を見るたびに複雑な顔になる。
 時折何を思ったか、同じ顔の付喪神を何人も招こうとする事もある。

 そんな時は普段の節制を忘れて資材を費やし、本丸の備蓄を怒涛の勢いで空にしている。
 手伝い札も湯水のように使う。気付いた時にはどうしたって手遅れとなっているので、初期刀と初鍛刀、そして古参の男士に寄ってたかって説教を喰らうのだ。
 審神者はひたすら身を縮めて甘んじている。

 しかしそれでも時折、鍛刀に狂ってしでかすのだから不思議である。

 鍛刀場をひょいと覗いてみれば、己と同じ顔が四つも並んでいた。
 困ったように顔を見合わせる複数の自分に、よくまあこれだけ招けたものだと感心する。

「なんでこんなにほいほいまねかれたんですか」と横で今剣が憤慨していた。
「うむ、これは……主が目を覚ましてからの反応が楽しみだな」と答えた。

 今剣の目が冷たい。大人びた様子で嘆息する。

「そんなゆうちょうなこと、いってられなくなりますよ」と言った。

 己が首を傾げると、憐れむように今剣が見上げてくる。
 鶴丸が「そうだな」と神妙な顔で肩を叩く。

「主は貧乏性だからな。当分、あの三日月達は刀解も錬結もされずに残される。
 ――要するにだ、三日月。今まで一人だったきみが五人に増える。
 手間のかかる新人の三日月達と、まぁ少しばかり放置しても問題無い三日月。
 主と触れ合う時間は、確実に減るという事だ」

 だからまぁ、ご愁傷様だな。鶴丸の言葉に、そういうことです、と今剣が同意する。
 二人の顔を見る。四人の自分を見やり、近侍に介抱されている審神者を見た。
 鍛刀妖精が、新たな刀の出来上がりを告げる。
 出来上がった四本の刀は、己と同じ拵えの刀だった。

「……三日月?」

 胡乱な眼差しで、今剣が見上げてくる。
 偶然だという弁明は聞き届けられそうもない。説教は免れないだろう。



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