起きる頃には忘れてしまう、いつも見ている夢がある。
 真っ白な、延々と続いていきそうな広い部屋。白いテーブル、白い椅子、白いティーポットに白いティーカップ。対面に座ってイラつくほど優雅に茶ァしばいてるのは胡散臭い笑顔を浮かべた、タキシードにシルクハットという風体のロンゲ野郎。
 物心ついた頃から見ていた夢だ。
 この男の印象が“胡散臭い”と“そのまま茶に溺死しろ”からブレた事は一度も無い。
 男はいつだって、自分を胡散臭い、それはもう顔面に一発どころかラッシュをブチ込みたくなる笑顔――すこぶる残念な事だが、一度たりとてブチ込むのに成功した試しが無い――で見ながらよく分からない話を、それこそ自分が目覚めるまで延々と垂れ流している。
 夢の中で自分は男の頭が爆散しねェかな、という益体も無い妄想をしながら――当然口に出す事もある。反応が返った試しは無いが――大抵は、白い部屋の中に瞬く様に現れ、弾ける映像を眺めている。

 それは例えば学校の保健室。
 メロン色したメロン怪人を従える、スカした顔の高校生。
 黒い学ランに身を包んだ、やたらガタイのいい奴。

 それは例えば戦いの光景。
 火の鳥っぽいナニカと、火を自在に操る赤くて黒い色の男。
 銀色の騎士と、電柱みたいな髪型の野郎。

 それは例えば撃たれる光景。
 セーラー服のちっせェ女、リーゼント頭、赤くて黒い色の男。
 人は違えど辿る道はいつも同じ。背中を刺され、額を弾丸に撃ち抜かれて倒れ伏す。

 それは例えば砂漠の光景。
 深刻な顔した野郎共が、スカした野郎を責め立てる。
 青い顔だった男が嬉しそうに頬を緩ませて、それに笑って返すお団子頭やちっせェ男に太っちょ女。

 それは例えば何処かの遺跡。
 ゾンビの群れに、一つ目のケンタウロスみたいなの。
 その向こうでこちらを睨む、険しい顔をした女。

 それは例えば何処かの下水。
 傷付いた犬に、氷を操る目のイった鳥。
 犬のピンチに颯爽と姿を現すのは、ちっせェ女かちっせェ男、あとは太っちょな女。

 それは例えば何処かの館。
 やべェ気配のプンプンする、やたら色っぽい野郎に膝をつくのは学ラン姿の茶髪の男。
 警戒心バリバリでそんな二人に立ち向かうのは、夢に必ず出てくる学ラン二人に電柱頭、あとは筋肉マッチョのジジイ。

 滴る血に残された両腕、血だまりに沈む小さな影、人影に空いた大きな穴。

 犬を抱え込んで欠けた身体で笑うちっせェ男、穴の開いた腹を抑えて微笑むお団子頭、腕だけ残して消えたリーゼント、一人夜の道路で本を抱えてくたばるちっせェ女、お色気野郎に首落とされる茶髪の野郎。

 いつだって途中までなら楽しいのに、最期は胸糞悪い終わり方ばかり。
 弾けて映像が消える度、腹の中に感情が渦巻く。
 怖い、嬉しい、楽しい、不安、悲しい、驚き、心配、満足、安堵、守れた、守れなかった、今度こそ、好き、大好き、きっと、次は必ず――

 それがきっと、彼の/彼女の感情なのだと気付いたのは中学生になった頃。
 映像の、いつも出てくる“仲間たち”の名前も覚えた。ガタイのいいのが空条承太郎、スカした顔の花京院典明、筋肉ジジイのジョセフ・ジョースター、色黒のアヴドゥル、電柱頭のジャン・ピエール・ポルナレフ、人間を小馬鹿にした態度な犬のイギー。
 前世の記憶というやつなのか。それともまったく別のナニカか。自分は高校生になった今でも悩んでいる。同じ風景、同じ光景、同じメンバー。違うのは彼の/彼女の存在。
 映像の終わりもいつだって、彼の/彼女の終わりで途切れる。
 考える時間だけは腐るほどあった。
 それが例え、目覚めてしまえば泡沫に消えるものだとしても。

 カチャン、と音を立ててティーカップが乱暴に置かれる。
 珍しい事もあるもんだ。そうしてくそったれなロンゲ野郎をちらりと見やり、ぎょっとした。
 そこにいたのは、セーラー姿の太っちょ女だ。一人だけ“最後”の記録の無い女。
 女がに、と快活に笑う。希望に満ちた、煌めく眼差しが自分を射抜く。
 気付けばテーブルはそこには無かった。
 二人並んで立っているのは、ぽっかり浮かんだ扉の前だ。

「ほら、次はあんたの番だよ」

 まぁ頑張んな! そうして笑って背中を叩き、女が胸を張って扉をくぐる。
 後ろを振り返れば最高に気に入らないロンゲのクソ野郎が、にんまりと笑みを深くした。

「ではさようなら “7人目のスタンド使い”」

ゲーム・スタート!


 そして世界は巡り始める。
 “死”の運命すら覆す、“予定外”をその身に孕んで。



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ゲームの(捏造)プロローグもどきか前日譚的なアレ。
JOJO三部の無料フリーゲームだよ。たのしいよ。おいでよ。オイデヨォ……
ダウンドードはこっちからどぞ → 
7人目のスタンド使い