邪説・カエルの王様





それは、あるよく晴れた日の事。
ポケスペ王国第一皇女の姫は、王宮にある庭園の一角で一人遊びに興じておりました。
お友達がいない人のような行動ですが、これは単にお貴族様な連中では並外れて運動神経の野性的な姫の動きについて来れないからだったりします。庶民とか軍人の中には付いて来れたりする人もいますが、そういう人と遊ぶのは母上であるナナミ様にどす黒い微笑み付きで禁止されてますしね。
まぁ頻繁に王宮抜け出してたりしますがこの姫様。

「ゥおるぁあああああああ!!!!!」

雄々しい叫びを上げて、姫はすらりと伸びた白いおみ足で金のまりを塀に向かって蹴り飛ばしました。
バウンドしてあらぬ方向に跳んでいくまりを追い、また障害物に向かって勢いよく蹴り飛ばす姫。
ハイヒールなのに何故ああも素早く動けるのかは大いに謎です。
ぽぉん、と一際大きく跳ね上がった金のまりが、太陽を背にして姫の目を眩ませます。

「フラッシュか・・・・・・ッ!」

とっさに目を覆って呟く姫。
まりは万有引力の法則の法則に従い、真下の池に向かって下降していきました。
視界はブラックアウトしていましたが、その事実に気付かない姫ではありません。
落ちるまりの空気を切る音、最後に見た時の位置。
それらの要素と多大なる第六感に従って、姫は橋の上で助走を付けて、



「秘儀ッ☆グローバル粉砕きぃいいいいいいっく!!」

『ガぶフォぉッ!?!』



間違った相手を蹴りつけました。

角度にして30度ほどずれた場所を、まりが落下して池にどっぼんと落ちました。
うんまぁ所詮予測ですしね。外れる事もありますよね。
でも悲惨なのは蹴られた相手です。油断してた所に狙い済ましたかの如く直撃。
池に落ちれば衝撃もやわらいだんでしょうが、姫が勢い付けてただけあって対岸へと叩きつけられる事になってしまいました。ハイヒールで下敷きです。何かのマニアックなプレイのような状況ですね。

「うわやっべ!」

慌てて姫が踏みつけた相手――――不運なカエルの上からどいた瞬間、白い光が出現しました。
不思議な光に包まれたカエルは、みるみる内に大きくなって人間の形へと変化していきます。
明らかに怪奇現象以外の何物でもありません。誰か塩持って来い。
不審の極みな光景でしたが、姫は特に臆する事もしませんでした。
奇怪な現象を間近で見る瞳は、まさに遊び甲斐のある物体を見るお子様です。


でも忘れてはいけません。
ここが王宮――――つまり、このポケスペ王国でもっとも警備の固い場所である事を。


光が徐々に収まり、今や完全に人間の形となった不運なカエルの全体像が露わになります。
姫は物珍しそうに全体像をガン見です。そこに遠慮と慎みの文字はありません。
瞳に怒りの炎を灯し、元カエルが顔を上げました。




「確保―――――――――ッ!」




そして駆けつけた警備兵にあっちゅー間に取り押さえられました。
あからさまな不審者ですしね。当然の成り行きですね。
状況の分かっていない天空・・・・じゃなかった、元カエルは暴れて何か叫んでますが、全員にスルーされました。そのままドナドナで連行されていきます。不審者らしくカツ丼をお供に尋問される事でしょう。
面白なアクションも無かったせいでしょう、どことなーくつまらなさそうに姫は肩を竦めました。

「さって、まりでも拾いに行くかー」

「安心しろ。その必要は無い」

清々しくカエルに対する興味を放り投げ、方向転換した姫の肩を誰かがごく自然に抱き寄せます。
そして差し出されたのは、確かに池におっこちてしまった金のまりでした。
姫はそのまりをごく普通に受け取り。

「とぉ」

肩を抱いた相手にスカイアッパーを食らわせました。
放物線を描いて、対象者である警備隊長のワタル氏は地面に叩きつけられます。
頭から落ちましたね。危険な落ち方ですよね。
でも、それでめげないのが警備隊長でした。めげてたらストーカーやってられない。
何事も無かったかのように起き上がって姫の手を握るまでの所要時間はジャスト3秒。
もはや人間じゃありませんねこの男。

「ふッ・・・・照れ屋さんだな?オレの姫は」

「死ね☆」


端的な宣言でした。


「姫様止めて下さい隊長が死にますって!」

「おい誰か隊長引き離せぇええ!!」

「ワタル隊長不敬罪で首になりますよーッ!?」


素敵に輝く笑顔にヤクザキックで鋭く的確に急所を抉りまくり高速で蹴りを放つ姫でしたが、死にものぐるいで善良な警備兵達に必死で止められ、今日も今日とてワタル警備隊長を仕留め損なうのでした。



めでたしめでたし。





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まりぐらい自分で取りに行く姫様。話にならない。