ふかふかの長椅子に足まで乗せてちょこんと座り、でかいクッションをぎゅうぅ、と力一杯抱き締める。
それでいて、食い入るように目の前で展開される映像に見入るの横では、白夜がその長い脚を組んで深く腰掛け、新聞を広げていた。
画面の向こうでは流浪の騎士といった風体の男が、金属製の杖を振り回して大立ち回りを演じている。
そんな彼と共に活躍するのは、今まで彼女も知らなかった青いポケモン―――名前は忘れたが―――と、白に近い灰色の髪をなびかせた華奢で可憐な少女だった。
それは何処かの国に伝えられる伝説を元に作られた映画らしく、最近売れ筋の一品だった。

「あーっシロガネ、やれっ!逃げてないで立ち向かうんだ!!」

シロガネ―――もとい、映画のヒロイン―――を狙って向かい来る連中を見ながら、はバイバシとソファーを叩きながら叫んで抗議する。
それに応える訳でもあるまいが、シロガネはきっと表情を引き締めてモンスターボールを投げた。

「よっし叩き潰せー!」

きらきらと目を輝かせて言いたい放題する
静かにするべきなのだろうが、一緒にいる白夜が気にする様子を見せない所為か頓着せずに騒いでいる。
ヒロインの戦況に一喜一怒、危ない処をヒーローの青年に助けられるシーンでは「軟弱者ー!それでも女か!!」などと意味不明な事を叫ぶ理不尽な少女に、白夜が新聞に視線を走らせながら口を開いた。

『・・・・・面白いか?』

「まぁまぁ」

『そうか』

さらりと言い切ったの言葉にそうとだけ言い、再度、新聞記事に意識を向け直す。
シーンは少女シロガネがヒーローたる波導の勇者に、頬を染めて同行を申し出ている処だった。お礼がしたいとか何とか言っている。対する勇者は少女の好意に気付いていないのか、爽やかな笑顔でそれは結構ですとか断っていた。そしてそのまま立ち去る勇者と青いポケモン。
少女は切なげな瞳で、彼らの消えた方を見つめていて。

「あ、こりゃ絶対追っかけるなー」

と、は先を読んでみた。
実際それは大当たりで、シーンが進み勇者の旅立ちに向けたお城でのパーティーの席にはシロガネの姿があった。華々しく着飾った少女を褒め称える勇者。こっちも頬が赤い。
やがて踊りだした二人を見ながら、「初々しいのぅ」とか生暖かく呟いて。
ソファーの上でミノムシかシャクトリムシの如くうにうに動いて横に転がったを見下ろし、白夜は新聞をテーブルに放った。

『何だ、飽きたのか?』

「いんにゃ。ただねー、ちょっと先が読めてきたなぁと」

視線を合わせ、寝転がったままで器用に肩を竦める
白夜とがそろって画面に視線を向ければ、丁度勇者がシロガネの手の甲に口付けるシーンだった。
それを見て、ヒュウと口笛を吹く銀髪の少女。

「うわぉ、尊敬のキスってヤツ?」

そこは唇にしろよ腰抜けーとまるで酔っ払いオヤジみたいな台詞を吐くの頬に手を添え、白夜は自分の方を無理やり向かせる。

『おい、何だその“尊敬のキス”ってのは』

「あー、キスってする場所によって意味が違うんだってさ」

白夜の行動にさして不満は無いらしい。
画面の向こうでイチャつくヒロインと勇者をほっぽり出して、彼女は昔聞いた話を思い浮かべる。

「確か・・・・唇が“愛情”で腕とか首にするキスが“欲望”で――――てのひらだと“懇願”とかなんとか」

『位置程度で、そうも意味が変わるのか・・・・・』

感心したように呟く白夜の指が、無意識なのか意識的なのか―――頬から顎、首筋のラインをなぞる。
くすぐったいらしく、は笑いながら首を竦めて。それでいて抵抗は示さないの透き通るような銀の髪を指に絡めると、彼は至極自然な動作で身体を屈めた。






軽く、髪に唇で触れる。
二人が知らないその意味は――――“狂気の沙汰”






   




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