二枚のカードを前にして、は悩んでいた。


うーんうーんと唸りながら、汗すら浮かべて手を出しては引っ込めるという奇行を繰り返す主に向かって微笑む。
優雅に穏やかに、余裕たっぷりに。
しかし細められ、笑みの形を取った漆黒の瞳は何処か嗜虐的ですらあったりして。

『何を悩む必要があります?主殿。さっさと引いて頂けますか』

「うわぁ、慎重にならざるを得ないの分かってって言うかオイ」

くっそうとか言わんばかりの苦渋に満ちた表情で、忌々しげに呻く。
二人が今やっているのはババ抜きで、最初は他愛も無く始めた遊びだった。

だがゲームの結果といえば12戦0勝12敗と悲惨なモノであったりして。

こうも負けが続くととしてもムキになる。
負けるたびに「もう一回!もう一回だけ相手して!!」とすがり続け、早20戦目(しかし全敗)となっていた。
そして20戦目を行うにあたってババ抜きに飽きた氷月が、『相手をする代わり、負けたら一つ言う事を聞いて頂きますよ』と賭けを持ち出し―――既に頭に血が上った状態だったが「よぉっし請けた!」とその場のノリで言ってしまったりした訳で。


結果として、最後のひと勝負となったこの20戦目のラストが見事に膠着状態となったのだった。


「あーあたしのバカー何であそこでやめとかなかったんだよぉおおおおお」

『今更グダグダ言わないで下さい、ウザいですから

ヘタレる、笑顔で斬り捨てる氷月。
なんだかその表情がとってもイキイキしてるのは、見間違いなんかじゃないだろう。

「つーか絶対おかしいって。何でここまで連敗するよ?」

『主殿がそこらのザコ並に弱いからでしょう』

「ンだとコラ。これでも強運っちで通ってたんだよ畜生

『アホな渾名ですね、センスの欠片も見当たらない。何処の売れない芸人の芸名ですか?

「貶めるなよーしかたないじゃん当時小学校低学年だったんだからさー」

『ああ、何処のウジ虫が命名したのかと思ったら主殿ご自身でしたか』

丁寧に言葉で抉るんじゃありません!お母さんそんな子に育てた覚えは無いわよっ!!」

『いい加減さっさと引きなさい見苦しい』

演技過剰に叫んでオヨヨヨと泣きまねをするに言って、氷月はわざとらしいため息をついて。

『全く、こんなくだらない時間稼ぎをするとは。主殿ともあろう者が情けない・・・・・』

やれやれと肩を竦めて首を振る氷月に、がピタリと泣き真似を止めた。
そして向き直ったその瞳には絶望は無く、闘志のみが浮かんでいて。

少女の唇が、不遜な微笑を刻んだ。


「フン、今度こそ泣き見せてやるから覚悟しとけ毒舌魔人!!」


『はいはい』と軽く受け流すのを聞きながら、ていっとカードを引き抜く。
ジョーカーだった。屈辱に表情を歪めつつもカードをシャッフルし、氷月の前へ突き出す。
躊躇う素振りも見せず、氷月はカードを引いてそれを見て。


『私の勝ち、ですね』

ぅああああああああー・・・・・・・・・・・


にっこりと、それはもう上機嫌に微笑んでカードをテーブルの上へ置く。
テーブルを挟んだ反対側では、が頭を抱えて苦悶している。




『では、主殿―――私の命令、聞いてもらいますね?』




浮かんでいた微笑みはまさしく悪魔そのものだったと、のちには語ったらしい。







   




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主人で遊ぶ為なら手段を選ばなかったりする氷月さん。
命令の内容は想像にお任せします。