聖戦+白霧+通り雨 2月14日、いわゆる乙女の聖戦日。 元の世界でそうだったように、このポケモンワールドでも今日、この日は同じくバレンタインデーらしい。 通りすがる道々で見かける人々は、頬をうっすら赤く染めて丁寧にラッピングしたモノを胸に抱いている少女や、義理が多数入っているのか自分の分含めてなのか、とにかく大量の何か(チョコレートだろーけど)が入った紙袋を持っている女性、贈り合ったらしく道端でチョコをほおばる女の子の集団、後で見栄を張りたいんだろう、盛大に売り叩かれているチョコレートのバーゲンセールに群がる少年の群れ、なんだかそわそわしている男性などなど、いちいちカウントしてたらキリが無いほどに脳内春色ピンクな方ばかりだ。てゆうか大半そんな感じ。 見渡す限り?バレンタイン一色。 「そんなピンクにあたしらも絶賛参加中っとー」 空気まで甘ったるく感じられる街中を、そんな脇役連中とご同様、チョコレート菓子入りの紙袋を持ってポケモンセンターへと向かうあたしと紫苑。 まぁせっかくのイベント事だしって訳で、あたしは紫苑以外の野郎メンバーをポケモンセンターに置き去り(乙女な紫苑だけ連れて夜中にこっそり抜け出したぜ!フッ・・・・白夜にさえ気取られなかった!!さすがあたし☆)、適当なレディーのおうちに素顔さらしてきゅるりんとお願い(人はそれをたらし込んだと言う)して台所を借り、朝イチで買い込んだチョコレートと材料を見事!紫苑と協力して立派な手作りチョコ菓子へと変貌させたのでした。 ちなみにそのまま行方をくらましたままだと絶対捜索しだすので、ポケモンセンターには “今日中に戻る。探すんじゃないぞ☆” という書置きを置いといた。 あたしに手抜かりはなーっしんぐ! 『皆さん、喜んでくれるでしょうか・・・・・・・・』 通常とは色違いの、バタフリー特有の丸っこい小さな手にチョコの入った袋を提げた紫苑が、不安そうに眉根を寄せる。 くぬおぅ! そんな心配するなんて、なんって健気に愛い奴じゃこいつめぇー♪(ウフフ☆) 「大丈夫ッ!たとえ世界が逆回転し出しても文句は言わせん!!」 グッ!と勢い良くサムズアップしてみせるあたしに、紫苑は嬉しげに華の綻ぶような笑みを浮かべて。 『ご主人さま・・・・・・・・』 幸せそうにはにかむ顔がなんともキューティ。 やっべぇああもう!!チョコの紙袋さえなければ抱きつき抱き締め頬擦りするのに!!!(ギリギリ) 我が子(違)の愛らしさに胸を きゅんきゅん させながら、あたしは紙袋の持ち手を強く握り締め。 『あの。ポケモンセンター、こっちであってましたっけ?』 その一言に、一瞬きょとん、として紫苑を見た。 「はっはっは、ナニ言い出すんだいフロイライン。白夜じゃあるまいし、こんな単純な道で迷う―――――」 バスガイド風味に右手を進行方向に差し出した所ではた、と言葉を切った。 いつの間にやら、周囲を薄いもやのような白霧が漂っていた。あれ、真昼に霧?そんな地質だったか、この辺りって。 疑問に思っている間にも、霧は厚みと深さを増していく。 周囲の景色が薄れ、だんだんと白一色に移り変わる。少し不安になったらしい、紫苑が腕へと身体を寄せた。 『何なんでしょう、この霧』 「この辺りでポケモンバトルでもしてんのかな?確かあったよね、こーゆー技」 “白い霧”だっけ? でもそれにしちゃ、何かヘンな気も・・・・・・・・。 首をひねったあたしの手に、ぽつり、と冷たいものが伝い落ちる。 ぽつ、ぽつ、と連続して落ちてくる冷たい水―――その正体に気付くのに、さして時間はかからなかった。 げ、という呻きが唇から漏れた。 「やっば、雨降ってきた!」 当然のように、あたしは傘を持っていない。 ついでに虫ポケモンな紫苑は雨が苦手だし、追い討ちのよーに今現在持っている紙袋は水に弱い。 こうか は ばつぐんだ!(ゲーム調) だんだんと強くなる雨に自然と走り出すあたし、後を追う紫苑。 周囲を見回して雨宿りできそうな場所を探してみるものの、霧が邪魔で視界は最悪、あいにく、そんな場所は――――― あった。 ダッシュで、霧の中に浮かび上がるようにして佇む大樹の下へと駆け込む。 遅れて紫苑が木陰に飛び込むのとほぼ同時に、一気に鉄砲水みたいな勢いのいい雨に変わった。 「あー・・・・・・こりゃ、しばらく出らんないかもなぁ」 『早めに止んでくれるといいんですけど』 「でないと天空が飢えて暴れ始めるかもしんないしね!」 そういや 朝メシ用意しとくのは忘れてたな☆ (汗) 『天空さん、また落ちてるモノ食べてないでしょうか・・・・・・・・』 ぷるぷると頭を振って水気を飛ばしながらも、やや心配そうに紫苑が呟く。 うぅん、あり得る。 「・・・・・・こないだそれで腹壊したし、無いと信じたいけどなぁ」 食欲大魔王な天空だもんなぁ。信じる方が無駄か? いやでも、他のメンツの誰かが 力技で強制的に止めてたり ―――いや、放置する可能性の方が高いか。 気まぐれで止めても、ついでに息の根止めそうだ。氷月なんか、嬉々としてトドメ刺すかな。 ・・・・・・・・・・・不安要素だらけじゃん!!!! 「いや止めよう、考えるのは止めよう。 それより今は、そうだ!この木を制覇する辺りから開始しようではないか紫苑!!」 『木の制覇、って。どうするんですか?ご主人さま』 不思議そうに小首を傾げるぷりちー紫苑にあたしは一つ、大きく頷き。 「うむ、良い質問だ助手よ!木の制覇と言えばやはり!!!」 びしっと、雨宿りしている木を指し示して。 「登るのみよっ!!!!!!」 ふっ、決まったぜ!(キラーン☆) どうせ雨宿りするんなら座ってる方が楽だし!(地面はドロだらけだけど木の上ならまだ可!) 紫苑だってずーっと飛びっぱなしよりは木に止まってた方が楽だろうし!! 紙袋だっててきとーに近くの枝に引っ掛けられるし!!! うむ、思いつきにしては良い案じゃ! 『それならご主人さま、簡単に制覇できちゃいますね』 「もっちろーん!あたしの華麗なる木登りテクを見るが良い!!」 ばっちーん☆とウインク飛ばして木の枝を支えに、足をかけて跳ぶ要領で登っていく。 ふよふよと飛んでついてくる紫苑。ある程度の高さ――――雨に濡れない、地面から3メートル程度の距離を登った辺りの、なるべくしっかりとした木の枝に腰を据えて。 「到着!ほい、紫苑もこっちおいでー」 手招きしながら、適当に近くの枝に紙袋をかける。 紫苑からも紙袋を受け取り、同じように枝に引っ掛けて。 バシャバシャバシャ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「あ?」 近付いてくる水音に、あたしと紫苑は顔を見合わせる。 霧が出る前までは確かにあった人の気配がまったくしないこの場に、まさか他の人がくるとは予想外だった。 あたし達の視線が木の葉で遮られた地面へと落とされるのとほぼ同時に、肩にピカチュウを乗せた少年が駆け込んだ。 ■ □ ■ □ 「あーもう、なんでいきなり降り出すかなっ!?」 「・・・・・あれ、なんかこの声聞き覚えあるよーな」 『?ご主人さま、お知り合いなんですか?』 「ピーカァ・・・・・」(訳:同感・・・・・・) 「や、初対面。の、はずなんだけど・・・・・何でかな。見覚えまである気が」 (はてな、と首を傾げる。そうだ、確かに覚えがある。思い出せないだけで。) ちょうどおあつらえ向きに佇んでいた木の下に駆け込んで、オレは顔についた雨水をぬぐった。 足元でピカチュウが、身体を振って水気を飛ばす。 せっかくの特訓中だったってのに、いきなり霧は出るし、雨は振り出すしで散々だ。 「えーっと・・・・あーっくそ、出てこない!こう、けっこー上までキてるってのに!!」 こんな調子で、オレはシンジに勝てるんだろうか。 『あの。あの人達を見てれば、何か思い出すんじゃないでしょうか』 ふっと浮かんだ不吉な考えを、慌てて頭を振って追い払う。 「おお!(ぽむ。)ナイス紫苑!!」 霧が出たのも雨が振ったのも、ちょっとタイミングが悪かっただけだ! 次にバトルする時は絶対に勝つ、その為にオレは特訓してるんじゃないか!! (まじまじと、下の二人を見詰めて。) 「無駄なんかじゃない、よな。ピカチュウ」 「・・・・・・・ん?ぴかちゅー??」 「ピッカッチュウ!」(訳:聞くまでも無いだろアホ!) 少しだけ気弱な口調になったけど、長年の相棒は、オレの言葉に明るい声で頷いてくれた。 自然と笑みが浮かぶ。だよな!とピカチュウを抱き上げ、頷いて。 「うわ口悪っ!―――て、」 「あぁああぁああぁぁあぁっっ!」 「ぅわっ!?!?」 いきなり何処からともなく響いた声に、驚いて思わず跳び上がった。 ピカチュウもびっくりしたらしい、ピ!?と言いながらキョロキョロしてる。 高いくせにキンキン響くような感じはしない、やけに綺麗な声だ。 「そーだ!そーだよこいつってマサラのサトシじゃんッッ!!」 姿の見えない大音量の声にいきなり名指しされて、オレは「へ?」と我ながら間抜けな声を上げた。 「ピカ!」(訳:そこか!) 腕の中でピカチュウがきっと上を見上げる。 同じように木の上を見上げると――――枝葉の向こう側に、黒い塊のような人影。 影になっているんだろうか、姿はよく分からない。ただ、見開かれた灰銀の瞳だけはやけにはっきり見えた。 「・・・・・えっと。確かにオレはマサラタウンのサトシだけど。君、誰?」 「うっわマジか。マジもんですか。いっつありありー?二重トリップ??紫苑以外置き去りの時にとはまた悪質な!」 戸惑いながら声をかけてみる。 だけどそれには反応せず、木の上の誰か――――声からして、多分、女の子だと思う――――は、何かブツブツ呟いていた。内容はよく聞こえない。もう一度声をかけてみようとしたけど、それは彼女の言葉で遮られた。 「いやぁ、いきなり叫んで悪いね!あたしは。流浪のポケモントレーナーだよん♪」 「ポケモントレーナー?コーディネーターじゃなくて?」 「いえーっす!やっぱポケモンバトルっしょー」 うんうん、と頷く声。 ハルカもヒカリも、ポケモンバトルよりコンテストバトルの方が好きなトレーナーだから、同じポケモンバトルが好きな女の子なんて、カスミ以来かも知れない。なんだか嬉しくなる。 「オレもオレも!やっぱ、コンテストよりバトルだよな!」 「サトシ、分かってくれるか・・・・・!あの緊張感、勝つか負けるか最後まで分かんないトコ、攻撃の応酬!! やばい状況をギリギリ切り抜けたりとか、強敵の攻略方法思いついた瞬間とか勝った瞬間とか最ッ高じゃね!?」 「そうそう!負けるとすっごい悔しいけど、仲間と協力して戦うのは楽しいよな!!」 「ピッカァ・・・・ピッピカチュウ!」(訳:てめぇ・・・・オレを無視してんじゃねぇ!) 腕の中で、ピカチュウがぱたぱたと両手を振って抗議するように鳴いた。 あ、そっか。まだ紹介してなかったっけ。 「ゴメンなピカチュウ、紹介遅れて。、こいつ、オレの相棒のピカチュウ」 「ピカ!ピッカ、ピカピカッチュウ!!」(訳:おせぇ!ついでにそこ、いい加減降りてきやがれテメェ!!) 「あっはっはー降りずにごめんよピカチュウ!威勢いいじゃん、サトシの相方」 「ついでに結構口悪い」(ポソ) 「ああ、最高の相棒なんだ」 「素でノロケたっ!」 衝撃だったらしい。 の乗っている木の枝がちょっとだけ揺れた。 ・・・・・そんなにヘンな事、言ったっけ?ピカチュウは一番長い付き合いだし、最高の相棒だと思ってるのは本当だ。 「えぇいもう、若いっていいなちくしょー!」 「も若いだろ?」 「NO!精神年齢は既に大人の女なのさ、アタイは・・・・・・・ フッ 」 綺麗な声が、ちょっとだけ哀愁?を帯びた。 ひょっとしたら、誰かに言われた事があるのかも知れない。 同い年くらい、だと思うんだけど・・・・・大人っぽいって事なのかな、は。 「って、何歳なんだ?」 なんとなくした質問に、一瞬、が沈黙する。 ただ、なんでかその時オレは、木の上でがにんまりと笑った気がした。 「年齢と体重とスリーサイズは乙女の永遠の秘密だぞサトシ! 聞きたいならケツとフトモモ触らせろ!!」 『狽イ主人さまっ!?』 「えぇええええっっ!?!?な、なんでそんなトコ・・・・・ッ!」 「いーじゃん減るもんじゃあるまいし、ケツとフトモモくらい。ねぇ。」 真っ赤になるオレに、しれっとした調子の声が追い討ちをかける。 「駄目だっ!とにかく絶っっっ対!!触らせないからなッ!!!!!」 「えー。んじゃ、胸と鎖骨で妥協しても」 「嫌だっ!!!!!」 ちっ、と舌打ちするのが聞こえた。 結構本気で言ってたように聞こえたのは、気のせい、だと・・・・・・・・・・・・思う。うん。 「ピッカァー・・・・・・ピ、ピカチュウゥ」(訳:気にすんな・・・・しかし、変態かあのアマ) 慰めるように、ピカチュウがオレの肩を叩いた。 「変態だってさ。照れ屋さん☆」(ぬは♪) と、ふと耳に届いた声に顔を上げる。タケシに呼ばれたような気がして、じっと耳をすます。 『でもご主人さま、ピカチュウさん本気で睨んできますけど・・・・・?』 「ピカピ?」(訳:サトシ?) 「100%本気だったからね☆」(キラリ!) 『もう。セクハラは駄目ですよ、ご主人さま』 不思議そうに、ピカチュウがオレを見上げる。 霧と雨の向こうから、薄ぼんやりとこっちへ向かってくる人影が見えた。 「はっはっは。今更いまさらー!」 「なぁピカチュウ、あれ、タケシだよな?――――おーい、タケシー!!!!」 ぶんぶんと手を振ると、人影がこっちを見て立ち止まる。 だけどタケシはそれ以上は進まないで、じっとこっちを見ている。・・・・・・どうしたんだ?あいつ。 「あれ、お迎え?」 「ああ。そうみたいなんだけど・・・・・なんでかこっち来ないんだよな、タケシの奴」 「ほほぅ。んじゃ、サトシの方から行くしかないねぇ」 「も来ないか?仲間に紹介したいし。ちょうど昼時だしさ、一緒にメシ食おうぜ!」 「(サトシにナンパされたーッ!?しかもタケシの手料理付き! ぅおおおお行きてぇええええええー!!!! )」 はオレの言葉に、何故か黙り込んだ。 『駄目です!みんな、ご飯食べずに待ってるんですから』(ムクれつつ) 「(はっ!しまった、そういやそうだ!!)」 「どうかしたのか?」 (ぐぬぬぬ、と呻くあたしの耳に、サトシの声が届く。ふはぁ、とちょっと深呼吸して。) 「――――や、ちょっとね」 (応えて、ふと気付いた。サトシとあたしのいる世界は、似ているけど、違う。行くの、かなりマズくね?) ややあって、声が苦笑気味に応えた。 「悪いサトシ。正直ものすっごい行きたいんだけど、ポケモンセンターで仲間が待ってるから行けないわ」 「あ、それじゃあ一度ポケモンセンターに戻って」 「そうしたいけど、けっこー人数多いから無理だって。食料足りるとは思えんし」 「・・・・・・そっか、そうだよな」 あっさりと考えを否定され、ちょっとだけ肩を落とす。 木の上で、何か動く気配。ややあって、「パス!」という言葉と一緒に何かが落ちてきた。 「わっ!?」 「ピカ!」(訳:っと!) 受け取り損ねたオレに代わって、ピカチュウが落ちてきたものをキャッチする。 それは、赤いリボンをかけた白い小ぶりな袋だった。 ピカチュウからそれを受け取って首を傾げるオレの疑問に答えるように、が、 「チョコ。今日バレンタインだしね、プレゼント for you ☆」 ――――そういえば、そんな行事もあった気がする。 「・・・・・・・いいのかな、オレがもらって」 「ふっふっふ、気にするな今年の本命!」 「ほ、本命!?」 「照れるな照れるな、かーわいー奴め♪」 楽しそうな、の声。 恥ずかしくなって、帽子をまぶかに被り直した。 「・・・・・・・・・さんきゅ、」 「・・・・・・・ ぬふふ 」 「(やっべぇ押し倒してぇこの男!恥らう姿がエロ可愛いぞちくしょう!!!)」 「―――――それじゃオレ、行くからっ!」 面白がるようなの笑い声。 さすがに恥ずかしくていたたまれなくなって、オレはピカチュウを連れて駆け出した。 ちょっと前までの激しさが嘘のように、雨は小降りになっている。 「ピッピカ、チュウー」(訳:マジに変態かよ、あの女) 呆れたように、ピカチュウが呟く。 ふがいないぞって言われた気がして、オレは足を止め、後ろを振り向く。 さっきまでいた木は、霧に覆われて、少しだけぼんやりして見えた。 すぅっと息を吸い込み、大声で叫ぶ。 「今度会ったら、バトルしようぜー!!」 「おうよ!」 気楽な言葉に少し笑って、タケシのいる方へ駆け出す。 もらったばかりのチョコレートを雨で濡らさないように、しっかりと抱いて。 TOP この後、普通のようにポケセンにたどり着いた主人公と紫苑でした。 クロスオーバーですアニメとの。 ちなみにサトシ視点の文を全て反転すると見えてくるモノがあったり。 なんかもうノリノリです。何やってんだお前!(笑) |