むかーしむかしのお話です。
ある森の入り口にある、小さな小さな村に、それはそれは麗しい少女がいました。

混じり気ない、純粋な銀の髪。
繊細、かつきめ細かな色白の肌。
けぶる嵐の空を連想させる、灰がかった銀の瞳。

無論、UVケアなんてしていません。
そんな面倒な事を気にするタチでは無いから当然と言えば当然ですが、それでいて日焼けしないのですからある意味人間じゃありませんこのアマは。
・・・・・・・ともあれ、芸術品の如き容姿に、野生の獣の闊達さとしなやかさを兼ね備えた、将来有望な超絶美少女・


いっそ人間らしくない程奇麗な彼女は、常に黒衣と―――――
顔が上半分隠れてしまうような、ぶかぶかの黒い帽子を愛用していました。
生来の資質もあったのでしょう。
その、怪しさめいっぱい爆裂しまくり・夜道で会ったらまずビビる事間違いなしな格好のため、彼女はすっかりご近所で評判の、怪しい人物 に成り果てたのです。
でも本人、それが気に入っているので気にしていません。
むしろ楽しんでいます。


いつしかその風体から、彼女は「赤ずきん」と呼ばれるようになりました。


・・・・・・・・・・・・・・赤ずきんです。

誰がなんと言おうとです。黒じゃありません。




いいですね?ですよ、赤。(強調)





さてさて放浪好きの赤ずきんは、珍しく流浪の旅から、腹黒い 優しいお母さんのいる我が家へと帰ってきました。
それでは、物語の始まり始まり―――――――・・・・・・・・・・・






      【 赤………ずきん? 】
             − つーかこれって黒帽子じゃ?というツッコミは不可ですだって童話だもん☆というお話 −





ごろごろ。


ぐで―――ん。


その日、久しぶりの我が家で、我らが赤ずきんは思う存分にダラダラダラダラ(×10)しておりました。
ダラダラしすぎでちょっと溶けそうな勢いです。
めちゃくちゃ締まり無くタレきった顔は、何だか癒し系動物より、RPGに出てくる下級ゼリー質モンスターに似ています。
でも本人は、たまにはこんな風になまけるのも良いなあ、とか思っていました。

ノンキに身体を休める赤ずきん。

しかし、運命は赤ずきんにとって過酷でした。
当然です、ダラダラダラ(×3.14/←何故円周率!?)するだけの話など、読者は楽しくありません―――――・・・・・と、いう理由ではなくー。
えーっっっっっと。・・・・・・・・・・そうそう、人使いがさりげに荒い・・・こほん、忙しいお母さんが、いくら旅先から帰ったばかりの赤ずきんとはいえ、そのまま休ませておくはずがなかったからです。
半寝状態の赤ずきんの上に、ふっと影が落ちました。
ぼけーっとしながら目を開けた赤ずきん。
ソファーに仰向けに寝っ転がった彼女の目に、覗き込むようにして立っている、お母さんの姿が映りました。
その手には、一抱えほどのバスケット。

「・・・・はれ、ナナミさ・・・・・・・じゃなかったお母さん。どっか行くの?」

ぱちぱちと目を瞬かせ、仰向けに寝っ転がったままで、器用に首を傾げる赤ずきん。
しかし、お母さんは首を振って否定して。


「はいv

「げぐぎゃっっ!?!?」


娘の腹に、バスケットを放り投げました。


これには怠けていた赤ずきん、反応が遅れて腹にジャストミートです。直撃です。しかも角。
かなり痛かったのでしょう。身体をくの字に折って、脂汗を流しています。
床に落ちたバスケットはその勢いで、何故か微妙に床を凹ませました。
・・・・・・・・・・一応、バスケットとは何らかの植物を編んで作るカゴの事だったはずなのですが。

「赤ずきん。それを、森に住んでいるおばあ様の所へ届けてきてちょうだい?」

無言で悶絶する赤ずきんに、変わらぬ口調で言い放つお母さん。
あまつさえ、たまには親孝行してねとか笑顔で付け足してやがります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・この場合、娘をいたわるべきな気がします。

しかし、赤ずきんは心優しい娘でした。
なんとか身体を起こすと、ちょっと涙目のままでこくこくこくと頷いたのです。
そうでもしなければ、目の前でお母さんが素振りしているモーニンングスター(トゲつき鈍器)で了承するまでドツキ回されるのが、よく分かっていたからです。
さすがの赤ずきんも、この母から逃げおおせる自信はありませんでした。


なんと良い子なのでしょうか。


「おばあ様は今、東の森の自分の家に戻ってるはずだから。そちらに届けてくれればいいわ」

分かった?と心配顔で問う(ただしモーニングスターはしまってない)母に、再度頷く赤ずきん。
お母さんはそれを満足げに見ると、「それじゃ、お願いねv」と言って、さっさと洗濯物を干しに行ってしまいました。
それを見届け、赤ずきんは決意しました。
「さっさとおつかい終わらせて、また旅に出よう」――――――と。














爽やかに乾燥した空気。

ギラギラと容赦なく照りつける太陽。

こういう時、帽子は実用的でいいよなぁとか考えながら、異様に重いバスケットを持った赤ずきんは、おばあ様の家へと向かっていました。
おばあ様とは数回程度しか会ったことはありませんが、家の位置はちゃーんと把握しています。
つーか、何で森の奥なんかに住んでいるのでしょうかあの年寄りは。

「いー天気ー・・・・・・・」

流れる汗をぬぐって、空を見上げる赤ずきん。
その先を、群れを成したピジョンが飛んでいきます。

「ここで放火したら、さぞかしよく燃えるだろうなー・・・・・・・」

なんだか不吉な事を言っています。

しかしそんな犯罪行為、やったらさすがにヤバいです。
この森には赤ずきんのおばあ様の家の他にも、魔女のおばあさんの家や、ヒチニンノコビトが住む家、人間に化ける白鳥が棲まう妖怪湖などがあるのですから。

「あ、さ・・・・・じゃなかった、赤ずきんさん!」

「おっ、白雪姫おひさー!」

一瞬不思議そうな顔をしたものの、すぐに華やいだ笑顔になった懐かしい友人に抱きつかれ、赤ずきんは大層嬉しそうに・・・・というかむしろ不気味なくらい笑顔になりました。
赤ずきんより何歳も年下の白雪姫は、この国の第一王女という身分にも関わらず、いぢわるな継母・ゴールド妃によってこんな森の奥に追いやられてしまったのです。
それ以来、彼女は“ヒチニンノコビト”と呼ばれる動物生態学の研究者が住む家で、助手兼お手伝いさんとして働いているのでした。

「珍しいね、東の森にくるなんて。ヒチニンノコビトが住むのは南の森の奥っしょ?」

重いバスケットを地面に置き、小首を傾げる赤ずきん。
この森は非常識な程に広いので、地域住民は東・北・西・南で区分けして呼んでいるのです。

「はい。そうなんですけど・・・・・最近、こっちで人食い狼が出るって噂があるので、できれば‘捕獲’しようかと」

照れたように微笑む白雪姫。
おそらくその紺色のスカートの下には、仕込みナイフや小銃でも隠してあるのでしょう。
そんな白雪姫を可愛いなぁ欲しいなぁとか思いながら、赤ずきんはへぇー、と呟きました。

「あたしのいない間に、そんなのが出没するようになってるとは思わなかったなぁ」

「だってさ・・・・・赤ずきんさん、ここ3年ほど留守にしてたじゃないですか。知らなくて当然ですよ」

ちょっぴり拗ねたような物言いに、赤ずきんは何かがキレたらしいです。
白雪可愛いーvvvvvと絶叫して力一杯抱きしめると、すりすりと頬ずりして大暴走です。

「ああもうメッチャ可愛いなぁ白雪ってばーvvvしばらく見ない間にプリティ増加色気も倍増!

「ふひゃぁ!?ちょ、赤ずきんさん落ち着いて・・・・・!!////////

「ぬあああ赤い顔萌えー!!!!!

真っ赤になる白雪にお構いなし、逆にヒートアップしております。
なんかもう押し倒しそうな勢いです。
しかし次の瞬間、赤ずきんはいきなり真顔になって白雪姫のスカートの下に手を突っ込みました!

「きゃぁっ!?」

これには白雪姫もビックリだ!
しかも痴漢行為ですこれは!とうとう血迷ったか赤ずきん!?
牢屋に直行です、訴えられても文句は言えません!!

即座に白雪姫の付けていたガーターベルトに挿してあったナイフを抜き取ると、赤ずきんはピッとそれを構え―――――


「そこっ!」


躊躇なく、一点めがけてナイフを放ちました。
銀の軌跡を描いて放たれたナイフは、真っ直ぐにその場へ向かい―――――・・・・・

一瞬のち、ガゴッ!という鈍い音が森の一角に響き渡りました。


「よし、仕留めた!」

ぐっと握り拳でガッツポーズをとる赤ずきん。
その表情たるや、ものすごくイキイキとしております。キラキラしてます。輝きすぎです。
白雪姫も、赤い顔でスカートを直しながら、音のした方向を見つめています。

しかし。


・・・・・・・照れ屋な所は相変わらずだな」


仕留めた、と思った獲物は強靱でした。


耳元で、低い声に甘く囁かれ――――総毛立つ赤ずきん。
振り向かずに蹴りを叩き込む・・・・と見せかけて肘打ちを食らわせ、ダッシュで前方へと逃げ、振り向きます。

そこには、黒いマントに身を包んだ金髪の男が立っていました。

耳は焦げ茶の毛皮に包まれ、その笑った口元からは凶悪な牙が覗いています。
しかし何より特筆すべきは――――額からナイフ生やして血ぃ流している辺りでしょう。

「ち、やはりあの程度じゃ死なないか

めっちゃ極悪な表情で舌打ちする赤ずきん。

実はこの狼男、元々はこの森に棲まう狼族の長だったりするのですが、以前とある事情毒花を摘みに来た赤ずきんと出会って以来彼女の熱烈なストーカーと成り果て、蹴られても踏みにじられてもあまつさえ刺されてもまとわりついてくるという、何とも危険なM野郎になってしまっていたのでした。
そんな狼のワタルを仕留めるため、赤ずきんもあらゆる手を駆使しているのですが・・・・
今のところ、有効な対策は見つかっていない状態だったりします。
むしろ生物なのか疑わしいです。

「まさかこの男が、最近話題の人食い狼・・・・・・・!?」

そんな事とは知らない白雪姫は、目つきを鋭くし、油断無く対峙しています。
そんな白雪姫を目で制し、赤ずきんは再度、バスケットを持ち直しました。

暑い日差しの下、張りつめた空気が満ちています。

そして――――――――



vvv久しぶりに君の愛を体感させてくれ!!!」

「テメェにを捧げた覚えは皆無じゃぁああああーっっ!!!!」



襲いかかってきた野生のストーキング狼・ワタルに向かって。
赤ずきんは容赦なく、やたら頑丈で重いバスケットの角を、力一杯振り下ろしました。












「あー・・・・久々に出た変態のせいで時間取られたし」

簀巻きにして、白雪姫と協力して地中深くにワタルを埋めた赤ずきんは、不満そうにそうぼやきました。
多少てこずったせいで、昼に出発したのに辺りは薄暗くなってきてしまっています。
赤く染まる空を見上げ、眉をひそめる赤ずきん。
この調子では、日暮れの前におばあ様の家についたとしても、帰り道は確実に闇夜です。
確かに強いし、地元住民の赤ずきんですが、さすがに夜の森を歩くのは危険だと認識していました。

かといって、おばあ様の家に泊まるのも気がひけます。

「どーしよ・・・・猟師のイエローんトコにでも行こっかな」

赤ずきんは、おばあ様の家の近くに住んでいる、可愛い友人猟師を思い浮かべました。
猟師とはいっても荒事が苦手なので、やっている事は獣医に近いのですが。

そういえば。

ふと、赤ずきんは眉を寄せました。
白雪姫が言っていた、人食い狼とは何者なのだろう――――?
動物と会話出来る赤ずきんは、その流浪癖ゆえに地元にいる事が少ないものの、幼い頃から育った森の事は把握しています。
この森に生息する獣達は人間との共存を旨としており、滅多に人を襲う事は無かったのです。

多分、余所の森からやってきたはぐれ狼なのでしょうが・・・・・やっかい、かも知れません。

「・・・・そこらへん見極めて、捕まえるか北か西の森に追っ払うかしないとなー」

ちなみに北には妖怪湖、西には魔女の家があり、どちらの地域もヘタに余所者が足を踏み入れると、帰ってくる事はほとんど無い魔境チックな場所だったりします。
赤ずきんの親友であるグレーテルも、「あんま森には入りたくないんだよねー・・・・」と常々口にしていました。
あれこれ考えている内に、赤ずきんは簡素な木造の一軒家――――――おばあ様のお家にたどり着きました。 今夜じっくり考えるかな・・・・とぼやきながら、家の扉を叩きます。


コンコンコン、


「おばあ様ー赤ずきんですけどー。お母さんに頼まれたモノ、もって来ましたよー?」

しばし待つ。
が、部屋からはゴトゴトという物音以外、何も聞こえない。


「おーばーあーさーまー?」


ガンガンガン、


先程よりも力を込めて扉を叩く赤ずきん。
さっさとしろやコルァ 、と表情が明確に語っています。


・・・・・開いてるよ


静かな、しかし無理に押し殺したようなしわがれ声に告げられ―――――赤ずきんは返事をするより先に、不審な顔をしました。
何故なら、おばあ様は常に元気ハツラツで老獪な年寄り。
彼女が来ると、いつだって笑顔で出迎えてひたすら寒いオヤジギャグをトバし、お母さんと同格に張り合える程の黒さを披露して下さるのですから。
こんな、元気の無い声は出しません。

風邪をひいた、という話も聞いた覚えがありません。


そして何より―――――そっと開けたドアの向こうには、おばあ様愛用の靴が見当たりませんでした。
なら客かと言えばそうでも無く、見慣れない靴など一足も見当たりません。
赤ずきんはとても頭の良い子供でしたので、極めて何事も無かったかの如くにっこりとして、奥のおばあ様に成り済ました「誰か」に向かって言いました。

「おばあ様ー、あたしちょっとそこで見つけたキングファイヤーオオトカゲデラックス捕まえてきますねー♪」

き、きんぐふぁいや・・・・?

戸惑いがちのその声を無視して外に出ると、赤ずきんはしっかりと扉を閉じました。
次いで、隠しポケットに手を突っ込むと―――――


「ちゃらちゃらっちゃちゃーガソリンオイル〜♪


可燃性の液体(ボトルタイプ)を取り出しました。

明らかにポケットサイズとボトルの大きさが釣り合いません。どうやって入れていたのでしょうか。
いえ、それ以前に何故そんなブツを持ち歩いているのでしょうこの女。
何にせよ、真相が明かされるはずも無いのでそれは置いとくとして。

ガソリンオイルを出すと、赤ずきんは家の周りにそれを撒き始めました。
特に玄関や窓の辺りに念入りに撒いている辺り、イヤな感じの周到さを感じさせます。


「ふう、完了!」

全て撒き終えると、今度はカラのボトルにこれまたポケットから取り出した黒い砂状の物質を詰め、新聞で口を塞いでフタ代わりにしました。
そして再度ポケットをあさり、ライターを取り出しました。(携帯に便利なミニタイプ☆)

いそいそと赤ずきん、ペットボトルを玄関のすぐ入った場所に安置します。
その表情が、なんだかものすごおーくイキイキとしているのは何故なのでしょう。
こっそり扉を閉め直し、赤ずきんは改めてバスケットを抱え直して。



火を放ちました。



それと同時にダッシュで走り出す赤ずきん。
やがて、コゲ臭いニオイが周囲に漂い始めた頃――――――



どがぁあああああああああんっっっ!!!



盛大な火柱と爆音が、おばあ様のお家の方向から上がりました。
そう。実は赤ずきんが安置してきたペットボトル、あの中に詰めていたのは・・・・・黒色火薬だったのです!

本格的に情け容赦ありませんこの女。

赤ずきんはその音と爆風を、耳を塞いでやり過ごし。
そして、満面の笑顔で「ふう・・・・・☆」と汗をぬぐう仕草をしました。
その表情は、思いっきり「良い仕事した!」とか語ってます、放火と爆破の何処が良い仕事なのでしょうか。
勝手に祖母とは言え、人様の家を放火&爆破するべきでは無いのですが、そこは問題ありません。
何故なら赤ずきんのおばあ様は金持ちだし、研究仲間である“ヒチニンノコビト”の家にいる事の方が多いからです。
まぁ、お母さんが言っていた言葉からすると、この辺りでフィールドワークでもしているのでしょうが。

「・・・・・む?赤ずきん。こんな所で何をしておるんじゃ?」

「あ、おばあ―――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

やはり、予想通りだったようです。
後ろから現れた人物に、さして動揺する事も無く赤ずきんは振り向き――――



世にも怖ろしい物体 を目にしました。



白い、ふんわりとしたレース。
奇麗で柔らかな上質のそれは、長さを変えて重ねられた、明るい赤のスカートにふんだんに使われています。
ノースリーブのハイネックの形状を持った同色の上着も、それは同様―――――どちらも趣味は悪くなく、その華やかさに微笑ましくなるようなシロモノで。
紅の糸でされた刺繍も、控えめながらも豪勢。
足元を覆うのは、薄く透ける布地を使った赤いタイツ。
ツヤツヤの、可愛い赤い靴がなんともオシャレで。
腕には、明るい赤の布地で作ったアームカバー。レースで縁取られたそれは、薄茶の紐で括られています。

頭に被っているのは、服より多少、色の濃い――――――赤い、頭巾。


可愛いー☆とか。


ゴスロリ系?とか。


まぁ、趣味は悪くないんじゃない?とか。


この状況下で告げるべき言葉は、多分、それなりにあるのでしょう―――――――
からかいや、ちょっとした揶揄の其れも含めて。

ですが。



それは、着ている人間が女・・・・・・・いやせめて可愛い顔のオトコノコだったら言える言語で。
それを。とても素敵にメルヘンなお洋服を、着て、いるのは。

がっちりした、老いてもなお壮健な肉体に顔立ち。
適度に日に焼けた肌は、年を経た人間特有の、深い年輪を刻んでいます。
白髪混じりの髪を短く切って整えた―――――――

どっからどう見ても、初老にさしかかる辺りかどうか、といった男のお年寄り。



「・・・・お、おばあ様―――――――・・・・・・・・」


意味も無く。

そう、意味など存在しない。あり得ない。


喉から引きつれるような息が漏れ、引きつった唇から自然に流れ出た呼びかけ。
聞く者によっては、かすれた空気の響きとしか取られなかったでしょう。
しかし、天は彼女に味方しました。

彼女の敬愛するおばあ様は、それを聞きつけてにっこりと・・・・はにかむような微笑み浮かべ。


赤く染まった世界の中、裾を翻して軽やかにターンして見せて。




「どうじゃ、似合うかな?」


元々は赤ずきんに、と渡された服だったんだがとの台詞に、彼女の脳裏をクリス・・・・じゃない、白雪姫の、出会った時の不思議顔が横切りました。
あー・・・・・つまりくれたのは白雪姫かーってゆーかなんで着てんのオーキドのおばーさまー。

異次元の、光景と言うに相応しい―――――それこそ脳髄から腐り落ちるような。

うふふあははと戯れる妖精が、花と共に周囲に舞って。



――――――ゴッ



絶望すら超越した、何か全てを漂白した表情で。

は力一杯、卒倒した。


さすがに驚き、孫に駆け寄り「どうした!?」と問うおばあ様(男)。
まるで原因を理解していない、そんな祖母に―――――赤ずきんは、途切れた意識の中で思った。




頼むからそっとしといてくれ。







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何だこのオチ。