「トルン、ライト入って入って! みんな、ただいまぁー!」
「お、お邪魔しまぁーす……」
「ヒノ、あんまりはしゃぐと転ぶよ?今転ぶとトルン巻き込むから落ち着こう、ね?」
「あっはは、だぁーいじょーぶだってネルちゃん♪ トルンが転んだらオレが抱きとめるしさ☆」
「//////~ッ!?」
「トルーン、出入り口で固まると危ないって。ほら動いて動いて」
夜もどっぷりと更け、空に星の輝く頃。
チーム共同でゼロの島北部エリアの探索を行っていたチーム“常夜”と“フェイト”のリーダー&サブリーダー達は、サメハダ岩にある“常夜”のアジトの前にいた。
片やアジトの主である“常夜”のサブリーダーに押されるように、片やリーダー同士肩を並べて玄関をくぐる。
騒がしい声を聞きつけて、エプロン姿でおたま装備のゴマゾウが台所から顔をのぞかせた。
「ああ、おかえりネルとヒノ。それにようこそフェイトのお二方。丁度食事の用意ができてるよ?」
「おかえりなさーい!」
嬉しそうに走ってきたマナフィが、アチャモへと飛びこむように抱きつく。
ぎゅう、と小柄な育て子を抱きしめて、アチャモは幸せそうに相好を崩した。
「ティト、ただいまぁ!良い子にしてた?」
「うん!たくさんお勉強してね、ぺラップにほめてもらったー♪」
「そっかぁ。良かったねぇ」
ぐりぐりーっとマナフィに頬ずりするアチャモを横目に、ゴンベはフェイトの二匹を案内する。
「すぐ食事にするから、荷物はそっちに置いといてね。台所はあっち」
「おう! いやぁ、腹減ってたんだよなー♪」
「最後の方、アイテムで腹膨らましてたもんねー」
「リンゴ見つけたと思ったらポケモンスイッチ踏まれた時はさすがにくじけたな!」
「私は連続でモンスターハウスにかかった時かな。大部屋であれはきついよね!」
HAHAHAHA と声を揃えて虚ろに笑いあうリーダーズ。
大概の事ではへこたれない彼等だが、ゼロの島はさすがにちょっと辛かったらしい。何気に目が死んでいる。
そんな息の合った(?)会話にぷくりと頬を膨らませ、ナエトルはピカチュウの腕を強引に掴んだ。
「ライト! 早く荷物置きに行こっ! 私とってもおなかすいてるの!!」
「んー? OKOK、じゃあちゃっちゃと置いてくるかー」
ぐいぐいと腕を引っ張られ、それでもナエトルに見えない角度でグッジョブと言わんばかりにゴンベに向かって親指を立ててみせるピカチュウ。
そんな彼に同じく親指押っ立てて、ゴンベはアチャモとマナフィを台所へと連れていく。
テーブルには既に所狭しと料理が並べられ、ほとんどのメンバーが揃って席に座っていた。
普段よりも豪勢なそれに、ゴンベとアチャモは目を丸くする。
「お帰りなさいませ、ネル、ヒノ」
「……かえりー…………」
「さすがに遅かったよな、二人とも」
「そりゃ、ゼロの島じゃね」
苦笑いしてコリンクに返し、ゴンベはマナフィに席につくよう促す。
アチャモはしげしげとテーブルの上を眺めると、きょとりと首をかしげて不可解そうにモココに問う。
「ねぇベル、どうして今日はこんなにごちそうなの?」
「お客様がいらっしゃるから、とノインが普段以上に力を入れた結果ですね。
それに、ゼロの島の探索後ですから。きっとお腹を空かせているでしょうし、と」
「それでこの量なんだぁ……」
「デザートの用意もあるという事ですよ?」
「ごはん♪ ごはん♪」
マナフィが何処かのギルドの親方様のごとく語尾を踊らせ、フォークとナイフを重ねて鳴らす。
荷物を置いてきたピカチュウとナエトルが、テーブルに乗せられたご馳走にぱぁっと顔を輝かせた。
「おっ、旨そうだなー!」
「すごい……あの、私達本当に一緒に食べていいの?」
上機嫌に率直な賛辞を口にするピカチュウとは逆に、あまりの豪華さにか、ナエトルが少し遠慮がちにゴンベに問う。それを笑い交じりに肯定し、ゴンベはフェイトの二匹に席を勧めて自分の定位置へと腰を下ろした。
エプロンを外してきたゴマゾウが席に着き、席が全て埋まったのを見計らってゴンベが音頭を取る。
「それじゃあみんな、」
「「「「「「「「「 いただきまーす! 」」」」」」」」」
食事の始まりを告げる言葉が唱和され。
ナイフが乱れ撃たれた。
「え?」
「おおっ!?」
目を点にするナエトル、ちょっと掠めて動揺するピカチュウ。
乱れ撃ちされたナイフを最小限の動きで叩き落とし、標的だったゴンベはフォークをモココに向かって投擲する。
それをロールキャベツで受け止めて、モココは艶やかに微笑んでみせた。
「ふふ、動きが鈍っておいでですよ? ネル」
「うーん、ゼロの島は結構キツいものがあったしね」
緊張感を漂わせる二匹。食卓で纏う空気では無い。
困惑するお客そっちのけで、あちこちでマナーを地平線の彼方に放りだしたバトルが勃発していた。
ネオラントに野菜の揚げ物を掻っ攫われ、コリンクが抗議の悲鳴を上げる。
「ちょ、オルト! それ、オレが獲ったんだけど!?」
「……うまー………………い……」
「皿ごと抱えるなよオレが揚げ物好きなの知ってるだろー!? 一つくらいくれよ!!」
「ん……やだ」
「はい隙あり。油断大敵だよ、ヒノ」
「わ、駄目駄目! そのサラダはあげないんだから!」
「シチューおいしー♪」
「その揚げ物一つ、頂戴致します!」
「……あー……」
「待ってヒノそっち大皿あるーっ!!」
「きゃああああっ!?」
「おっと危ない」
「ふぐぉ!?」
「頑張ってそれ食べてくれるかな、ラキ。僕も三分の一は食べるから」
「無理矢理口いっぱいに詰め込んでおいて言う台詞ではありませんよ、ノイン」
「ヒノだいじょうぶ? ケガとかしてない?」
「うん、心配してくれてありがとティト。ワタシは大丈夫だよ!」
「……なんつーか、すごいな」
「……うん」
開いた口が塞がらない、といった様子でその光景を呆然と見守るピカチュウとナエトル。
なんというか、テーブルマナーが見当たらない。あるのは容赦ない食事の狩り合いのみである。
これはいったいどうした事か。というかむしろどうするべきだ。
参戦するタイミングを逸したフェイトの二匹に、ゴマゾウは微笑みながら言う。
「悪いね、騒がしい食卓で」
そんな生易しいレベルでは無い。
うっかり出かかった言葉を、ナエトルはかろうじて呑みこんだ。
ピカチュウがそうだなぁ、と苦笑いを浮かべる。
「ここは毎回こんな感じで食事してるのか?」
「そうだね、例外は探検に出てる間くらいかな。
それで、君達はどうする? 食事を狩れる自信が無いなら、小皿に取り分けてもいいけど」
親切なのか挑発なのか。
どちらとも取れるその言葉を、ピカチュウはどうやら挑発と受け取ったようだった。
瞳に闘志を滾らせて、彼はふんっと鼻を鳴らして腕まくりする。
「いらねーよ、自分の取り分は自分で獲るぜ! 行くぞトルン!!」
「う、うん!!」
ナイフを右に、フォークを左に。
しっかりと専用武器を握り締め、彼等は夕食という名のバトルロワイヤルへ身を投じた。
後にトルンはフェイトの仲間にこう述懐する。あれはモンスターハウス並みに激しい戦いだった、と。
仁義無き食卓
ちなみに心理戦も含まれます。
「ねーねー、トルンとライトって恋人同士なのー?」
「Σ――////////!?!」
「さぁ、どうかなー♪」
「「「「「「( サド…… )」」」」」」
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