邪説・人魚姫
それはまだ、神話と世界が共存していた頃のお話です。 ふかいふかい水底には、全ての海を統べる神の御座所がありました。 海の統治者であるクロロ王には4人の美しい娘がいて、彼女達はみな、上半身が人間で下半身は魚――――つまりは、人魚と呼ばれる種族でした。良かった上と下逆じゃなくって(本当にな) 娘達は16歳の誕生日を迎えて大人になると、水底から水面へと上がる事を許されるようになります。 勿論、叩き込まれてきた自己防衛術がOKもらえるレベルに達していたら、ですが。人魚は不老長寿の妙薬だの珍獣幻獣だの言われてますしね。うっかり人間に捕まったら見世物小屋か死亡エンドですからね。 「クラピカ!やっと水面デビューだな!」 「ああ。お姉様達より手間取ってしまったが」 長姉であるレオリオ姫の言葉に、最近ようやく父王から水面に上がる許可を得たクラピカ姫は、嬉しそうに頬を薔薇色に染めて語ります。乙女です。何で違和感無いんだお前。 可愛い末妹の姿を微笑ましそうに見守る次女の姫の横で、三女のゴン姫が首を傾げました。 「父様、どうして今までクラピカに許可出さなかったんだろ?オレより強いのに」 「あーそりゃオレ達が女役なのと同じ理由だぞ、ゴン」 「そっか!クラピカが年齢無視して末っ子なのとおんなじ理由なんだね!」 「二人ともそれ禁句ー! それ言っちゃうとクロロが父親って事も突っ込まないといけなくなるでしょ!?」 既に突っ込んでますさん。 「・・・・・・・・・と、とにかくだ!私もようやく大人と認められた事なので、上に行ってみようと思う」 わざとらしく咳払いをして、クラピカ姫が場を纏めます。 末の妹がどれだけ上の世界を見たいと願っていたかを知っている姉姫達でしたが、彼女達は同時に、そこがどれだけ危険かも承知していたので、無言でアイコンタクトを交わしました。油断大敵、注意一秒怪我一生。 まだまだ上に慣れていない、綺麗で可愛い妹を一人で行かせるのはちょっとマズイんじゃなかろうか。 特に問題なのは海賊の類です。正義感が強く誇り高いクラピカ姫がそんな現場を押さえたら、勢い余って抹殺しそうです。さすがにちょっとそれはマズかろう。 “どうするよ。ついてくか?” “うーん、それが一番てっとり早いけど・・・・ストッパーになるにしても一人はきついかなぁ” “大丈夫だよ!クラピカは強いもん!” “いやあのねゴン、そういう問題じゃなくってさ” アイコンタクトで論争を交わす器用な二人をそのままに、レオリオ姫が申し出ました。 「クラピカ、オレ達も一緒に行くか?」 「いや、大丈夫だ。一人でも行ける」 考えるまでもなくきっぱし断るクラピカ姫。 心配してるのモロバレですね。 逆に「安心して土産話を期待していてくれ、危険だと思ったらすぐに戻る」とかフォローまで入れられました。 これでは同じく心配していた姫は言い出しづらくなりました。 いや、信頼していない訳では無いんですが不安というか何と言うか。主にキレるのが。 周り見えなくなる傾向がありますし。 一人水面上へと昇っていくクラピカ姫を、姉姫達は少しばかり心配そうに(一名超元気に)見送りました。 ちなみにその後クラピカ姫は姉姫達の心配通り、ゴミを海にポイ捨てする人間どもにキレて歌声で嵐を呼び込み船を大破させ、慌てた姉姫達は遭難者の救助に乗り出すハメに陥ったそうです。 え、王子様に一目惚れはしなかったのかって?ハッハッハ、ゴミのポイ捨て犯がキルア王子だったらしいですよ。恋とか芽生えようが無いですね。 かくして憧れだった上の世界に初日で幻滅したクラピカ姫は、その後水底の世界で姉姫達と幸せに暮らしたそうです。 めでたしめでたし。 |