系統別修行をしよう。−変化系編−




オーラを望む形に変化させる。

表現するならその程度の事。しかし言うのは簡単でも、行うとなればまた別の話で。
うにうにと動き、波打ち、変形し―――しかし、どうにも幼児の粘土細工より不恰好な形にしかならず、うまく望みの形になってくれないオーラの塊を霧散させて、はがっくりうなだれた。
ぐぅきるる、とむなしく腹の虫が鳴く。ひもじい。

「師匠ー・・・・・・普通にフォーク使っちゃ駄目ですか?」

「許可するようなら最初からさせるわけが無いだろう?」

にこやかに――――それはもう、見事なまでの標本的な笑顔で――――返された返答に、の視線は自然、恨みがましいものになった。分かっていても、まともに食事ができないのは辛いのだ。
変化系の修行は、日常的に使う道具であるスプーンやフォーク、ハサミ、包丁などをその形状に変化させたオーラで代用する、というものである。結構簡単に思える修行だが、これが意外と曲者だった、
多岐に渡る日用品、そのほとんどを念で代用するのだ。
具現化に近いといえば近いのだが、決定的に違うのは“物”として実体化させるのではなく、あくまでも“形を似せる”という部分である。その上でその道具の用途を果たせるように、フォークなら形を似せた上で食べ物を持ち上げる事ができるような性質を持たせ、刃物であるなら切れるように性質を変えなければならない。
そして苦戦しているは今の所、オーラをきちんとした形にするあたりからつまづいていたりした。

「・・・・・・・おなかすいた」

テーブルに突っ伏して腹の虫を大合唱させる弟子。
しかし師匠は我関せず、といわんばかりのポーカーフェイスを崩さない。
むしろ見せ付けるように「ああおいしい、食事は人生の楽しみの一つだねぇ」とか言っている。

殴りたい。

は空腹に耐えながらこぶしを握り締めた。
返り討ちなのは考えるまでもなく確実なので実行しなかったが。

「もうちょっと条件優しくしてくれたっていいじゃないですかー・・・・・・・」

「軟弱だね」

呆れたように、リオ師匠がため息をつく。
食事ができない状態が昨日から続いているのだ。泣き言も言いたくなる。
コップは使用可能なので死にはしないだろうが、食事を前にして食事ができないというのはほとんど拷問だ。

「いいかい?、よくお聞き」

「んー・・・・・・」

視線だけで師を見上げる。
カロリーが足りなくて行動する気力が湧かないのだろう。
そんな弟子の様子にさして構う事も無く、リオ師匠はびしっと指を一本立てて。

「命がけっていうのが、何事も上達する近道なんだよ」



心底ろくでもない。



げんなりと心の中でした呟きは、親愛なる師匠に届くはずも無かった。
半死人状態な弟子の様子に、さすがにこのまま続けると色々差し支えがありそうだと思ったリオ師匠が変化系の修行方法を変更するのは二日後の事である。






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手加減のての字もありませんリオ師匠。こえーな。