系統別修行をしよう。−強化系編−
リオ師匠はきゅぽん、と音を立ててペンを閉じる。 ホワイトボードには六性図―――念の系統を示した図式に、リオ師匠が書き込んだの系統別習得可能度のパーセンテージの予測値が記されている。下の方はパーセンテージが高いが、逆に上側、特に強化系の習得可能パーセンテージは恐ろしく低い、かなり偏った図形だった。 はリオ師匠とホワイトボードに向かい合う形で、正座してその光景を見ていた。 「。苦手な系統を言ってごらん」 「はい。強化系です」 頷き、はっきりとそう答える。 水見式をし、一ヶ月の猶予期間の間に自分の能力を明確な形にして合格をもらったのはつい昨日の事だ。 しかしそれまでのかなりの期間を、は念の基礎修行や応用技の修練にあてていた。おかげで流や硬も大体はスムーズに行えるし、理屈でなく感覚として、だいたいの苦手系統は理解している。 リオ師匠はそうだね、と頷いた。この辺りは確認の範疇だ。 「もしお前が強化系の念能力者と体術のみで戦ったとして、勝てると思うかい?」 「相手の念と体術の技量次第では」 「では、その技量がお前と同等だったらどうだい?」 今度は即答では無く、少し黙っては考え込む。 「・・・・・・・たぶん、負けます。技量がアタシより下でも実力的に近いようなら、苦戦は免れないと思う」 「どうしてそう思う?」 「強化系の念は、どの系統よりも念の熟練度がそのまま肉体的な強さに直結してますから。 攻撃にしても防御にしても、よっぽど強い堅か硬じゃないとアタシはすぐにやられちゃうんじゃないかと」 「まぁ、及第点ってトコだね」 その答えに、はほっと胸を撫で下ろした。 念の系統による相性は目安にすぎないとはいえ、戦闘時の基礎でもある。 この辺りをしっかり知識として押さえておくかおかないかで、今後の生存率が変わるかも知れないのだ。 必死になって覚えたのに、間違っていたら切なすぎる。 「前にも教えたように、念での戦闘は技量だけじゃあ決まらない。 運の要素もある程度はあるし、その時の体調や感情の状態なんかにも影響を受ける。 だからもちろん、実力差のある相手に勝つって場合もあるわけだ―――ここまではいいね?」 「はい」 熱心にホワイトボードを見ながら教えた事を自分なりに噛み砕いて理解しようと努める弟子に、リオ師匠は満足げに頷いた。コンコン、とホワイトボードをペンで叩いて、零梨を見る。 「強化系に対抗しようにも、もって生まれたこの差異だけはどうにも埋め難い。 この場合、念以外で対抗手段を立てるとすればどうすればいいと思う?」 何故だろうか。 なんだか妙に寒気がするんだけども。 「・・・・・・・・・・えっと。防具をつける、とか・・・・・・・・・」 「他には?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鍛える?」 「その通りだ。念で強化された分が差になるのなら、身体能力自体を補うのが一番いいからねぇ」 リオ師匠がペンを置いた。 代わりに手に取ったのは、鉄の輝きも眩しいリモートコントローラーで。 ぽちっとスイッチが押されるのと同時に聞こえてきた重低音に、は遠い目をして空を見上げた。 鳥になりたい。そして自由に羽ばたいていきたい。それも今すぐ。 「筋力トレーニングって手もあるけど、それでついた筋肉が戦闘向きとは限らないからねぇ。 一番いいのは力量の同じ者同士で組手させるってのだが、あいにくお前以外の弟子はいない。 そこでお前専用に、強化系の念を込めたロボットを特注してみたよ」 どうだい、いい修行相手になりそうだろう? リオ師匠の言葉はある意味正論だった。正論だったが、しかしいろんな意味で賛同する気にはなれなかった。 てゆうか、果てしなく嫌な予感しかしないのだがこのロボから。 不安感しか感じられないのはどうしてだろう。 ついでに“同等の力量”じゃあ無いだろうな、という気がするんだけども。 「じゃ、さっそく始めるとしようか♪」 「はーい・・・・・・」 文句を言う事は諦めては立ち上がった。 今日もあの世を垣間見れそうだなぁ、と嬉しくもない事を思いながら。 |