『――――――よって、重力的輻射は時間及び空間の波動的変化として伝播していく。 このテンソル波は独特の特性を持ち、探知と測定を困難なものにしているが(中略)それにより、重力はこの軸が多少一方に傾いている、即ちその回転軸に対して非対称である場合にのみ輻射を行うが(中略)そもそも物体は超高密度で高速の回転を―――――――――』 「ってンなモン解るかぁぁぁぁあああああぁぁあっっっっっ!!!!!」 勢いのある怒声。 次いで、本を床に叩きつける小気味良い音。 最近日常になりつつあるその音が、森の中の小さなおうち(シル●ニア?)の一室に響き渡った。 ハンター試験まであと一ヶ月。 現在、修行も最終調整まっただ中です。 ■ □ ■ □ 「ああもーこんな理論イヤ!」 半ばヤケの混じった叫びを上げ、お世辞にも柔らかいとは言えない(むしろ硬い)ベッドに倒れ込む。 ちなみに、普段は身につけているひたすら重い重りは付けていない。 最近は‘修行’の一環として賞金首狩りをさせられているので、身体を休める事を重視して、との意図があるそうな。 ・・・・・まぁ、重いのが取れて嬉しいのは確かだけど? 賞金首狩りやってるおかげで、全身切り傷・打撲痕だらけだよ!(泣) 基本はほとんど収めたからって、実践に叩き込まれるのは結構納得いかないし。 しかも相手全員念使い+大体がC級犯罪者。 普通もっと軽い辺りから初めるんじゃないのかな師匠ッ!? 「重力使いだからって理論も学ぶ必要あるの!? 実践で使えればそれでいいじゃないか!ってゆーか中学生がこんなめんどい理論わーかーるーかーっ!」 ばしばしと枕を叩きながらキレ気味に叫び散らす。 面と向かって言えよという意見もありそうだが、あの師匠に直にそんな事は言えない。 「じゃぁ実践なら良いんだね? 」とか言われて実践回数増やされるか敵のレベルが上がるか のどっちかだ。 今でも生傷絶えないのに、これ以上ハードになるなんて死んでもイヤです。 これだけ大声で叫べば階下の師匠にも聞こえそうだが、その点については全く心配していない。 何故ならこの家、普通に見えてその実防音・防御に優れていたりするふしぎなおうち仕様だったりするからである。 初めてそれを知った時にはとっても納得がいったものだ。 一通り不満をブチ撒けると、エネルギー切れになってばふっと枕に顔を埋める。 枕元にいた想霊獣が、心配そうに一声鳴いた。 「・・・大丈夫だって、アーク。もー大概慣れたし?」 いや分かんないけど理論。 アークというのは黒い毛玉、もとい想霊獣に付けた名前だ。 元の世界の言語(どこのだったかは忘れたけど)で、【聖櫃】と言う意味合いの言葉。 顔だけそちらに向けてアークの喉元をくすぐる。 気持ち良さそうに、アークがクルルルル・・・と喉を鳴らしながら目を閉じた。 しばし、そんなアークを撫でさすって癒されると、よいしょと起き上がり、階下の気配を探る。 「・・・・・・・・・・まだ、いるみたいだね」 普段よりも多い気配の数に、誰にともなく呟く。 現在一階には、師匠の調合した薬を買うため、客が来ているのだ。 ただ、その客がヤバイ。 世にも名高い暗殺一家・ゾルディック家の面々なのだ。 しかも三人いるのだこれが。 はっきし言っても言わなくても、出来る事なら関わりたくない。 ってゆーか危険じゃん普通に! いや知り合っておけば結構便利そうだけど!? そんなちょっと間違えば命のやりとりになりそうな危険な知り合いなんぞ要りません!!!(真剣) それに、原作は6巻までしか読んでないけど、どーゆー家かは大体解ってるし。 ちょい師匠の修行も、あの家でされてるのに近しいモノがある気がして微妙な気分もあるけど。 だけどまぁ、階下の状況が気になるのも確かで。 何せあのリオ師匠とゾルディック家の面々が顔合わせて商談している訳である。 これが気にならないといったら元・悪戯っ子の名が廃る!! 妙な意欲と義務感と好奇心(2:1:7くらい)を燃やし、こっそりと行動を起こす事にした。 アークを肩に乗っけて“絶”の状態になると、足音や物音を極力殺して階下へと向かう。 肩の上で尻尾をふわふわと揺らすアークに、唇に人差し指をあてて、静かにしているようにと注意した。 こっくん!と元気良く頷いたアークをよしよしと撫でて、扉の隙間から、そっと中を窺う。 部屋の中には、 相変わらずのニコニコ顔のリオ師匠。 そして、そんな師匠と、テーブルを挟んで向かい合わせに座っているゼノさんとシルバさん。 うっわー、ホントに書いてあるよ生涯現役! 自分で書いたのか、あれ?それともオーダーメイドですかゼノさん。 そこら辺非常に気になります。 でも直で聞く訳にはいかないしなーまぁいいか見れただけで。 どうせハンター試験は受ける訳だし、ひょっとしたらキルアに会えるかも知れないし。 その時に仲良くなれたら聞いてみよう。知ってるかは分かんないけど。 そして、ソファーに座らず立っている――――イルミ。 しかしホント能面顔だなーめちゃ無表情だし。いい男なのにね。 まぁ、だったら「美形だしいーじゃん!バリ萌えv」とか言いそうだが。 無表情なのは、姉で慣れてるからいいんだけどね。むしろ懐かしい? ・・・・・・・元気でいるかな、姉。 ちょっぴりしんみりした気分になりながらも、しっかりと目と耳は室内へ向けて。 うーんさすが暗殺一家、威厳ってゆーかプレッシャーあるなぁ。 妙な事に感心している間に、どうやら商談は纏まったらしかった。 ひと波乱くらい期待してたんだけど、このまま終わりかな? 少し拍子抜けな気分で、それでもこっそり踵を返す。 「そう言えばリオ。おぬし、最近弟子を取ったと聞いたんじゃが」 何 で ア タ シ の 話 題 が 出 て く る の さ っ ! ? ゼノさんの言葉にアタシは反射の勢いで振り返った。 ちょっと待って興味持たれてるのアタシってば!? さりげなく爆弾発言するんじゃない! 商談終わったのなら帰れそこ!! 「おや、珍しいね。興味を示すなんて」 「めったに弟子を取らんお前さんが見込んだ弟子じゃ、興味も出るわ」 相変わらずの飄々とした態度を取る師匠。 そんな師匠に気分を害した様子も無く、そんな事を言うゼノさん。 ・・・・・そーなの?ただ単に家事手伝いさせるために弟子にしたんだと思ってたよ。 「そんな事もないと思うんだけどねぇ。ついこの間まで、ジンがいたし」 @〆々♯¶‡*§―――――っっ!? 今度は師匠が爆弾発言☆ ってジンって言ったらゴンの親父でしかもトリプルのハンターじゃん!! つまり名実共に世界レベルのプロハンターっ! これってちょっ、何!?同名の別人さん!?!?それとも本人なのアタシの兄弟子っ!!! 「十数年以上前じゃろうが、その弟子がおったのは」 「それにリオさん、今の弟子を養子にしたでしょう。それもありますよ」 半眼で突っ込むゼノさん、話に加わるシルバさん。 うわぁ、敬語使ってるよ、使われてるよ尊敬語。どうなってるの。 何、なんで敬意払われてるの師匠。 養子にしたってーのも初耳だし。アタシの戸籍、作っとくとは言ってたけどさ。 こっちじゃアタシ戸籍無いもんね。 興味津々、と目で訴える二人(主にゼノさん)に、師匠は素知らぬ顔で紅茶を一口。 お願いぷりーず断ってっっ! 必死な願いを視線に乗せて師匠をガン見。 きっと視線には気付いているはずだ。だって師匠だし。 それでも、気付いていようといまいと、師匠がアタシの願いを聞き入れる事なんてそうそう無い訳で。 「まぁ、いいけどね」 結果として、やっぱり裏切られる事になったのだった。 師匠・・・・・・・軽く承諾しないで下さい(泣) 心の中で涙を流しながら、そぅっと抜き足差し足、部屋へと向かう。 とにかく逃げよう。 自室の窓から飛び降りてダッシュで走れば会わずに済む! が、時すでに遅し。 気付いた時には、師匠にしっかりと首根っこ押さえつけられていた。 ぎぎぎぃっと、ゼンマイ切れ手前の人形のような動作で、師匠を振り向く。 「さぁ、お披露目と行こうかv」 にこやかな笑顔で、そう宣言する師匠に瞬時に悟った。 ここで逃げたらお仕置きする気だ!と。 「ハイ・・・・・・・」 るーっと涙を流しつつ、完全に諦めきった表情でうなだれるアタシでした。 ・・・・・人生、諦めが肝心ってヤツですか?(哀) ■ □ ■ □ アタシが師匠に連行されて部屋に入っていくと、三人の視線が、一気にこちらへ集中した。 その視線は、ぶしつけなぐらいにジロジロと見つめてくる。 あう・・・・やっぱ見られてるし(泣) 予想が付いている、と言えば付いている事態ではあったが、こうも凝視されると気後れする。 つーか、あからさまな検分の視線は非常に不快なのですが。 あんま見るなそこ!アタシは見せ物観賞用の珍獣でも無いんだけど!?!? 「ほら、お客にあいさつは?」 楽しそうに促す師匠。 何に対してかは良く分からないが、どうも非常に満足しているようである。 ・・・・他人の不幸は蜜の味って顔、ほんっとに止めて欲しいんですけど。 師匠の言葉と表情に、心の中でため息をつく。 それでも顔面の筋肉を無理矢理動かし、何とか笑顔(と思わしきもの)を取り繕った。 「・・・初めまして、と言います」 不快だろうと何だろうと、客は客。 子供の頃からのしつけもあり、しっかりと頭を下げてご挨拶する。 あうー、さっさとここから立ち去りたい(泣) 「ほー、これがおぬしの新しい弟子か。なかなか見所のありそうな娘じゃな」 アタシの姿を上から下までジロジロ見ながら、感心したように言うゼノさん。 ・・・・・どーゆー意味ですかそれって。 その横で、やはりをしげしげと見つめてシルバさんが頷く。 「確かにな。、と言ったか・・・・・・・どうだ、うちの嫁に来ないか?」 「力いっぱい遠慮します」 言われた言葉に、戸惑うとか考えるとかより先に答えていた。 誰が好きこのんで見もしない(いや知ってるけどさ一方的に!)男の所へ嫁にいくかっ! 旦那様は暗殺者☆なんてシチュエーションは望んでないです。 つーか師匠、笑って見てるんじゃない。 止めろ、助けろ弟子の危機!(怒) 「遠慮せんでいいぞ?婿はよりどりみどりじゃ」 「だから遠慮します・・・・大体、本人達も嫌がると思うんですが」 ってゆーか遠慮自体してないし限りなく本音だし。 それ以前に、この若さで婿もしくは許嫁なんぞ必要無しです。 第一、相手がアタシじゃ本人達に失礼だと思うし。 「・・・・・少なくとも、オレはかまわないけど?」 「え゛」 それまで沈黙を守っていたイルミが、ぽつりとそう呟く。 本日三度目の爆弾投下にかくん、と口を開けて硬直。 きっと間抜け面だろうなぁと冷静な部分が自分を客観しする声に我に返った。 ってちょっと待った、マ ジ で ? 実はドッキリですかそうですか師匠。 「だってさ。どーするんだい?」 完全に面白がっている口調で、ニヤニヤ笑いながら師匠が聞いてきた。 うん、アタシにその気ないのまで読んでる上でわざわざ聞くのかこんちくしょうめ☆ とにかく開いたままの口を閉じ、まっすぐ相手の目を見て。 「・・・すいませんけど、初対面の人と結婚する気はありません」 きっぱりはっきり、そう宣言した。 言い切られたその返答に、イルミは表情を変えもせず。 「そう?残念だな」 とだけ、言った。 本気か冗談なのか判別つかないからタチ悪いな、この男。 「・・・・・親父、そろそろ行かないと」 「おお、そうじゃったの」 事の成り行きを見守っていた、シルバさんとゼノさんが立ち上がる。 どうやら、やっと帰ってくれる気になったらしい。 あー・・・・・何とか無難に終わったー。 ほっとした気分で、こっそり胸を撫で下ろす。 と、その時。 いきなり横から引っ張られて、踏ん張るより先に身体が揺らぐ。 そのまま、誰かの胸に倒れ込み―――――― 一瞬、頬を柔らかな感触が掠めて。 「またね」 耳元で、そう囁かれた。 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ っ!? 結局の所アタシが正気に返ったのは、イルミ達が帰った後だった。 ・・・・・・・できれば二度と会いたくないよーな。 そう思う一方で、安全に覗き見(笑)を出来る念能力を開発しようかな・・・・と心に決めたのは。 多分、正当な考えだったと主張します。 TOP 新事実捏・造! |