一ヶ月経った期限の日。 思いっきりバカンスをエンジョイしまくってすっかりアロハになった姿で(アロハシャツに花輪首から下げてる辺り行き先は南の島だったのか・・・・?でも焼けてないんだよね、全然まったく欠片程も)上機嫌な顔で帰ってきた師匠。 おみやげの一つもくれなかったとか、そんな事はまだいいとして。 「・・・・、どこから盗ってきたんだい?」 毛玉とアタシを見て、発した第一声はそんなものだったのはどうなんだろうか。 仮にも弟子に向かって、それは無いと思います。 ってゆーか、そんなに信用無かったのかなアタシってば。 ■ □ ■ □ 取り敢えず荷物を置いて椅子に腰かけ、は毛玉生物を手に入れたいきさつを師匠であるリオにダイジェストで説明した。崖から落ちたくだりでは当然のように爆笑されて馬鹿にされたのがなんとも痛い。 途中、お茶のおかわりとかお茶請けを取りに行かされたりで中断もさせられた。 自主的な気遣いなどでは断じてなく、 「疲れて返ってきた師匠に、茶の一つもだせないのかい? 気の利かない弟子だね・・・・そんなんじゃ、うっかり修行をハードにしてしまうかもしれないねぇ」 などと、思いっきり脅されての行動だったりする。 バカンスを力の限りエンジョイした格好だっただけに、疲れた発言にの白い眼差しがとんだりもしたがリオが気にかけるはずもなかった。亀の甲より年の功。面の皮はバームクーヘンの層より厚い。 一方謎の黒い毛玉生物は、の腕にへばりつきながらじぃぃっとリオ師匠を凝視していた。 まんまるな桃色の瞳に映る感情は、好奇心より警戒の色の方が強い。 その身体と同じぐらいの大きさのしっぽは、その心境を見事に表して、ぴーんと逆立っている。 だったら激萌え〜vvとか叫んで抱きしめ、心行くまで頬ずりするだろうとは確信した。 警戒姿が可愛いすぎる。 さすが小動物、和み要素はバッチリだ。 リオが帰ってくるまでずっと共にいただけに、にしてみればそれなりの愛着もある。思わず頬が緩んだ。 だが、だからと言って飼うかと聞かれればためらうしかない。 なにせ、ハンターは危険な職業だ。 普通に野生で生きるより、きっと危険は多いだろう。 そう考えていたために何度か離そうとしたが、全て無駄な努力で終わっていた。 なにせこの生き物、の姿が見えなければ、どういう理屈か隠れていても的確に探り当てて寄ってくるのだ。 聞き分けはいいらしく、よく言って聞かせれば従ってくれるのだが絶対に離れる事だけはしてくれない。 問答無用に捨てるという選択肢もあるが、まだほんの子供と言える生き物だし、しかも誕生の瞬間に居合わせた者としてはそれもちょっと実行し難い。どうしたものか。 一通り話し終えてそう尋ねれば、リオは楽しそう、かつ意地悪く笑った。 「偶然と言うか、運命的と言うか・・・・・何にせよ、面白い事には変わりないね」 やけに含みがある台詞に、自然との眉間に皺が寄る。 どのみち、追求しても気が向かない限りは教えてくれないだろう。 やや憮然とした気分で、は逆立ったしっぽを軽く握る。 毛玉はびくんっ!と身体を振るわせると、しっぽを掴んだ手を、あぐあぐと甘噛みしてきた。 「それは、想霊獣【ソウルシャート】って生き物だよ。 ・・・・・・・・・・・・・・しかし、実物見るのは何十年ぶりかねぇ」 しみじみとした様子で、リオは弟子の手を甘噛みしている毛玉を見る。 その目は本当に、ひどく懐かしそうな光を宿していた。 遠い記憶を辿るような、何処か遠くを見る目で呟く。 「本当に、懐かしいよ」 「・・・師匠、知ってるんですか?」 その表情に聞く事に幾分かのためらいを覚えたが、は数秒迷った後でその疑問を口に出す。 リオは、懐かしむような目で毛玉のような小動物を眺めながら頷いた。 「昔、仲間が飼っていてね」 ・・・・・何の? は疑問を飲み込む。 なんとなく、それを聞く事ははばかられた。 それは師匠にとって、きっと大切な思い出なのだろうと直感したから。 「師匠、想霊獣【ソウルシャート】って、どういう生き物なんですか?」 リオの表情を見る限り、どうも突っ込んで話を聞くのはいけない事だと思って仕切り直す。 実際問題、今のに必要なのは過去を掘り返す事じゃない。 ヘタに地雷踏んだらと思うと・・・・・・・・・・っっっ!(ガタガタ) 勝手に想像して勝手に青ざめる。 そんな弟子をほっぽり出して、リオはいつもの覇気のある表情に戻ると、解答を返してくれた。 「主の感情を食べて成長する生き物だよ。 幼体の外見に違いはないけど、成体の姿は、主の性格やいままで食べた感情に左右されるから、1つとして同じモノは無い。発見は極めてまれで、今まで八匹ぐらいしか確認されていない生き物さ」 そんな希少生物だったんだ、この毛玉。 はじっと毛玉を見詰めた。桃色の瞳がを見上げてミューと鳴く。 とてもそんな希少なイキモノには見えない。可愛いけど。 しかし実際問題、希少種ならば余計に手元に置いておくのはまずいだろう。 変なヤツに目を付けられたら問題だ。 師匠に預けるなり、頃合いを見計らって、野生に返すなりするべきだろうか。 「ついでに言うなら、主以外の感情を食べる事はないからね。 主から長い事離れていれば、飢え死にするしかない。 主の死ぬ時が想霊獣【ソウルシャート】の寿命だ、預けるとかは考えない方が良いよ」 「思考読まないでください」 精神衛生上悪いから。 ため息をついて、は服をよじ登る毛玉をはがし、ひっくり返して指で撫でる。 毛玉は実に嬉しそうに鳴きながら、指にじゃれついた。 どっかで死んじゃったりしそうで、怖いんだけどなぁ・・・・・・ ちょっぴり憂鬱な気分で、熱心に指先と戯れる毛玉を見つめる。 そんなに、リオは目を細めて。 「安心しなよ、想霊獣【ソウルシャート】の幼体は、自分に危害を加えようとする念を無効に出来る。 それに、主の念を高める効果もあるし――――成体になれば危害を加える事は出来ないし、個体それぞれ、独自の能力を持つ。ま、念のこもっていない攻撃に対しては無防備だから、それだけに気を付ければいいさ」 「へぇー・・・・・」 それなら大丈夫かも知れない。 念使いの攻撃などからは守りきれなくても、それ以外の攻撃ならば余裕でしのげる自信はある。 むしろ、上手く育てればいいパートナーになるだろう。 「ま、そんな話はおいといて。念の成果、見せてもらおうかね?」 「はーい」 リオの言葉に、そういえばそんな課題もあったなと今更ながらに思い出して頷いた。 ■ □ ■ □ いつもの修行場に立ち、は気合を入れる意味も込めて眼を伏せる。 トリップ前までは使い慣れたものだっただけに、具現化修行は結構うまくいっていた。 それでも、今だに上手く具現化出来ない事がある。 確実に具現化するために、訓練中も戦う前にするように、精神統一する事は欠かせない。 これをすると、しなかった時よりイメージが明確になるのだ。 すっと片手を前に差し出し、其処に出現すべき[武器]を脳裏に描く。 「来い」 命じると同時に、伸ばした手に重みが加わった。 握られているのは思い描いた通りの姿形の、一振りの薙刀だ。 二メートル近くはある薙刀を、くるりと片手で回転させる。 刃は上向きにし、腰を落として左足を半歩引く。 右手で柄を握り、左手を添える形で切っ先を手近な樹木へと向けて構えた。 表情を引き締める姿は手馴れた様子であり、眼差しは射抜くように鋭く研ぎ澄まされている。 タンッ 地を蹴る音。 一切の体重を感じさせない滑らかな動きで、は薙刀の切っ先を振るった。 ピィン、と流麗な動作が、対象となった樹木に一筋の線を引く。 定められた演目を終えた後の舞い手のように、は静かに膝をついた。 ズッ、 重い音を立てて、引かれた線に沿うようにして幹がずれる。 けれど、それだけで終わりではなかった。 ズッミシミシッギュキュズギッ! 奇音を上げて、標的となった樹木が軋る。軋んで、歪む。歪曲して、変形して。 歪む――――まるで、見えない巨大な手で丹念に圧縮して押し潰されていくかの如くに。 ミギッメキミキミシッ―――――ギュリッ! 一際大きな、捻り潰すような音。 そしてそこに残るのは、散らばった大量の木片だけだった。 ふぅー・・・・・・・っと、肺の奥からは大きく息を吐いて立ち上がり、具現化した薙刀を消す。 よぉっし、大成功!と心の中でガッツポーズをした。 「どうです?師匠」 「上出来だね。どうして念を具現化する事にしたんだい?」 「あ、それが一番使い勝手いい気がしたんで」 重力を操れる能力にしたのは、以前に崖から落ちた経験が基になった。 生身での重力操作ではなく具現化した道具を媒介に選んだのは、重力操作にしようと決めた時に魔女のイメージが脳裏を高笑い付きで横切っていったから。 それでも媒介が箒でなく薙刀なのは、それも直感的に頭に浮かんだからだ。 薙刀はこの場には無いが使い慣れた武器だったし、イメージも容易い。 その返答に、リオはふむ、と呟いて。 「――――良いだろう、これなら合格だよ」 「やったぁぁーっっっ!!!」 笑顔で告げられた、その一言に、は跳び上がって歓声を上げた。 それは無意識と直感が教えた、定められた魔女の定義。 念能力: 重力操りの薙刀 【ウィッチ・グラヴィティー】 自身の周囲の<重力>を操る。 薙刀さえ持っていれば、大地であっても空気であってもその重力を変化させる事が可能。 ただし、範囲が広くなればなる程に精度、及び重力の操作可能時間も低下する。 半径2メートル以内であれば、ほぼ完璧な重力操作を行使できる。 制約:薙刀から一瞬でも手を離せば、重力の操作は不可能&キャンセルされる。 操作できる重力の範囲は、斬りつけた傷の大きさ・触れた時間及び深さに比例する。 TOP |