え、念を覚えよう? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、そーいやそんなのもあったなー。 このままでもそこいらの奴には負けない程になってるんですけど。 一ヶ月の間、ほぼ毎日死にかけて今や重りも300キロだし。 生温い?まだそれは基礎中の基礎中の基礎だって? ・・・・・・・・・・・・左様ですか。身体鍛えるのって急激すぎると負担大きいんですけどね。受け売りだけど。 念を覚えれば回復力UP。お肌ツヤツヤでハリや潤いも戻ってくる。 どこの化粧品のキャッチセールスですか師匠。 いいからやれって? ―――――――――了解だから、凶器使用は止めて下さい耳かすりましたそれなりに深く。 人間は、流した血の量だけ強くなれるだろうか。 常に変わらぬ修行場、鬱屈した曇天の下でアンニュイな気分で呟いた。 もちろん心の中でだった事はもはや言うまでも無いだろう。 他愛もない考えに、だったらいいなとか思うのは流血沙汰が増えてるせいか。 武器使用による戦闘が追加されたしなとか他人事みたいに呟く。他人事だったら良かったのになぁ。 ここ最近、意味もなく空を見上げる回数は増える一方だった。 自覚はあっても止められない。 むしろ逃げないんだからこれくらいは許されてしかるべきだと主張します。 増えた時期をあえて言うなら、ここ一ヶ月以内の事なのは確かだ。 更に細かく言うなら修行開始辺り。 ・・・・・・・あはは、何処で人生の岐路ミスったかなーアタシ。 ヒュッ 耳元で風切り音。 遠い目をしていたアタシの頬を、ぬるりとした液体が伝い落ちる感覚。 それを認識すると同時に、カツ、と耳をかすって通り過ぎた“何か”が樹皮に突き刺さった音がした。 ピンポイントで数日前に攻撃してくれた箇所狙うのは止めて欲しいと思う。切実に。 でも、せっかくふさがりかけてたのにとは口に出さずにおいた。言っていたらキリがない。 「絶念が多いよ、集中しな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ」 のんびりとした声でそう指摘され、深く頷く。 うん、確かに雑念だらけだ。 遠い所に飛んでいた意識を引きずり戻して反省する。 ハンター世界の固有能力である“念”を会得する方法は2つ。 瞑想などを通してゆっくり起こすか、他人からの“念”を受けて無理矢理に起こすか。 別に急ぐ理由も無いし、何より師匠がナチュラルに加減を間違えそうだったからアタシが選んだのは前者だった。 いやだって色々不吉な呟きもしてたし。「・・・・・どの程度の加減なら死なないんだっけねぇ」とか本気で首ひねって呟いてるの聞いてなおも無理矢理に挑戦したいとか、そんな自虐精神溢れるチャレンジャーになった記憶は無い。 ぶるり、とかぶりを振って余計な思考を打ち切りにした。 あんまり進展が無いようだと、うっかり実力行使される恐れもある。 それだけは勘弁・・・・・っっ! (ガタガタ) 周囲の音に意識を委ねて己を重ねる。 ゆるくまぶたを落として、殊更ゆっくりと息を吐き出した。 深く呼吸を繰り返していけば、次第に全身の感覚全てが拡散していく。 周囲の空気に溶け込んでいくような錯覚。 体内を巡りまわる血液の循環。規則正しく脈動する心臓。 大気が肺器官を通過して酸素が全身に満ちて二酸化炭素を外へと排出する動き。 音は響くままに、肌を撫でる風は感じるままに、踏みしめる大地さえも取り込むように。 時折泡のように生まれる想念すら、高みから達観するように。 自分と世界の境界を、ゆっくりゆっくり、削っていく。 そうして全身を、世界と一体化させていくのだ。 感覚の世界で到達する先。 滾々と溢れ出る泉の水、もしくは穏やかに灯り巡る炎。 身体を中心として流れるイメージは、幻視に近いものがあった。 無念無想。 あるいは明鏡止水。 元の世界での日々の中だったらきっと、この感覚を得るためにもっと長い時間が必要だっただろう。 ここ数日の間に、より深く遠く潜り、感じる事ができるようになっている。 ふ、と吐息が漏れる。 あと、もう少し―――・・・・・・・・もう少しあれば、きっと到達でき 「っ!」 閉じていた目を勢いよく見開き、瞬時に後ろへ身体をそらす。 猛スピードで飛来した小石が、鼻先をかすめて木を貫通していった。 容赦なく木々に穴をあけて遠のいていく恐るべき自然物に、アタシは自分でも分かるくらいに血の気を引かせる。 今のは危なかった。速度が半端なかったよ! 感覚が瞑想で広がってたから気付けたけど、そうじゃなかったら直撃コースだったよ今の!? 力一杯頬を引き攣らせ、ひょうひょうとしている師匠を射殺さんばかりの目で睨んだ。 「殺す気か師匠ーっっっ!」 「気のせいだよ、それは☆」 ほとんど涙目でのアタシの訴えを、師匠は親指立てて笑顔で流した。 超軽っ!ヒトの事殺しかけといてものすごい軽ッ?! 「嘘だ絶っっ対ウソだっっ!念込めた指弾なんて普通だったらあの世直行するんだけど!」 「そう興奮するんじゃないよ。それより、オーラを安定させないと倒れちまうよ?」 「へ?」 あくまでもなごやかに指摘され、きょとんとし―――――気付いた。 全身から垂れ流し状態に立ち上る、オーラの存在に。 「うわ精孔開いてるっ!?」 「疲労で倒れたら、困るのはお前だろう?今日は雲行きが怪しいからねぇ」 至極さり気なく倒れても助けないよ発言かまし、再度本を広げる師匠。 基本的な事は教えてあるし、自分で安定させろって事ですかその対応は。 正論なんだろうけどなんか納得いかないな。 それでも倒れるのは嫌だから、息を吸い込み目を閉じた。 全身を、オーラが包み込むイメージで覆う。 流れ出て世界へと霧散していくエネルギーを緩やかに、ゆっくりと途切れる水流のように収束していく。 溢れ続けるオーラが、イメージに追従してくるのが肌で理解できた。ちょっと感動かも。 暴れ馬のように奔放なエネルギーをたゆたわせ、身体の周りを好き放題に流れるそれが次第に緩慢に、穏やかになるよう意図すれば、ゆらゆらと漂うオーラはやがて、その密度を高めて安定していく。 ゆっくりと目を開き、オーラで覆われた自身の手を見る。 「・・・・・・・・・・・・・・・できたー・・・・・」 満面の笑みだった自覚がある。 とうとう開花させる事ができた“念”の感触は、なんとも不思議だった。 なんて言えばいいんだろう、この感じって。 心も身体も穏やかで、それでいて五感すべてが鋭敏になったみたいな感覚。 高揚と沈着とが矛盾なく平静の中で同居しているようで、なんとも上手く説明できない。 「よくやったね、」 読みふけっていた本を閉じて、師匠が率直に褒めてくれた。 うっわ、すごく嬉しいんだけど照れくさい・・・・・!耳熱いよ赤くなってないかなアタシ!? 告げられた言葉に、喜びと安堵と照れとが混じった笑顔になる。 同じく師匠がにこりと笑って。 「それじゃ、実践と行こうかv」 ビシィィッ! 笑顔のままで凍り付いた。 え、ちょっと待って今のって幻聴だよね? 聞き間違いであって欲しいんだけどそうだよね師匠 その手の凶器何!? もはや長居は無用だと生存本能が囁く。 アタシは素直に忠告を聞き入れ、くるりとその場でUターンして。 「絶対イヤだーっっっっ!」 可能な限りの全速力で逃げ出した。 その後、師匠の指弾(念仕様)に数時間に渡って狙撃され、最終的に体力気力オーラ共に力尽きた状態でとっ捕まり、纏が出来ずに倒れてた方がマシだったんじゃないかと考えたのは多分、余談だ。 TOP リオ師匠は、本人が本気で諦めないうちは逃がしてくれないお人ですよー。 |