■ 逃走−逃げろ、世界の果てまでも。−     ( キメラアント編if )



ヒュヒュウと荒い呼吸を繰り返しながら、胸元の服を握り締める。
呼吸はいつまでも収まらないで、心臓は普段の二倍の速度でビートを打つ。その煩さに、耳鳴りがしそうだった。
壁に右手を添えて少しだけ体重を預け、呼吸を整える。そのまま崩れ落ちたくなる緊張感が、壁にもたれかかる事を自分に許しはしなかった。汗の滲んだ手のひらをズボンにこすりつける。
汗が全身から噴き出して、顎を伝って首筋を流れ落ちた。




「―――何処行くの?」




囁かれた言葉に、背筋が一気に粟立つ。
緋に近い橙色の瞳を見開き、横薙ぎに具現化された凶器を振るう。

手応えは無い。

強引に身体を捻じ曲げて後方に蹴りを。
足先に掠めた感触すらにも怖気が走り、彼女は内心で悪態をついた。
指弾を狙い定めて撃ち込みながら前転の要領で転がる。ガガガッと壁に穴が空いた音。その中に苦悶の声でも混じればいいのにと物騒な思考が頭を掠めた。

まともに相手はしちゃいけない。

跳ね起きて、後ろを振り返らずに駆け出す。
まだまだ力不足なのだと彼女はよく理解していた。だから逃げる。逃げ切るまで。



逃がさないよ・・・絶対ね♪



その唇が紡いだ言葉に耳を塞いで。
―――命がけの鬼ごっこは、まだ終わらない。