■ アリスと猫と裁判長−かくて評決−     ( 歪みの国のアリス/「僕のアリス」ED派生 )




「やぁ、チェシャ猫。君はアリスを連れて何処へ行く気なんだい?」

柔らかく、それでいて深い静かな声に、声のしてきた方を振り返った。
そこに立っていたのは、スーツ姿をした女の人だった。
黒いスーツに鮮やかなワインレッドのシャツといういでたちをした、髪をオールバックにしている凛々しい人。
その人は身長ほどに柄の長い、木製のハンマーを握っている。
……誰だろう、初めて見る。
女の人の目がこっちを見据えた。静かな、凪いだ湖面みたいな目。
猫がのどを鳴らして、女の人を威嚇している。

「どうしているんだい、裁判長」

女の人は猫を無視して、こっちを見たままにこりと笑った。
やさしい笑顔。胸がどきりとする―――なんだか、初めてまともそうな人に会ったような気が。

「お帰りなさい、私達の可愛いアリス。私は裁判長の。君を迎えに来た者だ」

「え、」

ムカエ、ニ?

だって、私は猫と。

「アリスは望んでいないよ、裁判長」

「承知している。ビルも反対だそうだ。…が、」

すぅっと、笑みが消えた。表情なんて元から無かったとでも言うように。
ひとかけらも残さずに。
その冷たさに、チェシャ猫の頭に強くしがみつく。身体が震える。
なに、なんだっていうのこのひと、怖い………!!
ぎゅっと目をつぶった私の背中を、チェシャ猫がやさしく撫でた。

「大丈夫だよ、僕のアリス」

「ああ、可愛いアリス―――私達のアリス。あなたに試練を、そして裁きを」

歌うような声。

でも、そこにやさしさはない。あまさはない。


あるのは、何処か苦い感情の混じった………突き放すような、決意。


「させないよ」

「ならば猫、『導く者』よ。
 鎖を失ったお前を裁き、その上でアリスをお連れしよう!」



高らかな宣誓が、響いた。




※設定メモ
・アリスの中の「倫理」イメージ=裁判長。見たくない真実の宣告人。
・立ち位置は「裁く者」なのでアリスとは一番遠い。
・誰もが歪んで壊れても、完全に全てが崩壊するギリギリまで逃げる事を許されない。
・でもやっぱりアリス大好きなのでなるべくソフトに立ち回る努力はしてる。




 ■ 人形は人に化生する−日の当たる場所へ−     ( NARUTO )




"カタシロ"――――――形代。
与えられた名は記号だった。呼び名が無くては不便だったので与えられた。
それ以上にもそれ以下にもさしたる意味など無い。
付けたのは私達を纏める師範。
私の境遇になぞらえての洒落らしいけれど、何処が面白いのかは不明だ。そんな事は教えられていない。
同じく共に修行の日々をくぐり抜けてきた者達にも"ヨリシロ" "ヒトカタ" "マガモノ"などと師範は呼ぶ。
師範は数字でも良かったかと言っていた。
どうせ記号なのだからそちらの方が効率が良かっただろうに、師範の考える事は分からない。
否、理解する必要など元々無いのだから、疑問にするべきでも無い。

私達は道具。
私達は犬。
私達は消耗品。
私達は人形。

師範の意向に沿って動き、主様の為に生きて死ぬ。それ以外の価値は存在しない。

道具は使われるもの。
犬は足を折られ目を抉られ舌を抜かれても主人に従うもの。
消耗品は壊れて尽きるまで使われるもの。
人形には感情も疑問も必要ない。

そう、私達は選ばれた存在なのだ。主様は仰られた。
主様の所有物として働ける事はこの上無い栄誉。その為に死ぬことは至上の幸福。
頭脳たるべきは師範の為すべき勤め。
コマはコマであるべきなのだ。師範もそう言っていた。
跳ね起きて投じた短刀はあっさりと弾かれて地に落ちる。木偶となった師範の身体を踏み越え、低い位置で足払いをかける。勢いに乗じて撒くのは毒。致死に至る量では無くとも(主様ご無礼致します!)動きを止める程度の役目は果たせる。敵はあと3人なのだ私一人でも殺せる。殺せば主様は生き残る。
なんて単純な真実。手負いの敵なら確実に消せる。
長針を逆手に持ち替え振り下ろす。ほらもう終わり。確かな手応えが返る。肉の感触では無い。

人が木に変じ、



ガッ


「かはっ」
床に拡がるには赤。意識はあるのに身体は動かない。痺れが全身を支配する。
ブラックアウトしかけている身体は数秒は使いものにならない。なんてこと!歯噛みする。
師範も他の物ももう動かない壊れてしまったああだから私が主様をお守りしなければならないというのに!


「うわ、あの子まぁーだ立とうとしてるよ」

「これ以上子供に暴力は振るいたくないんだけれどな……」


動け動け動け動け動け。
血が足りない。足が本格的に折れてしまった。内蔵も痛めている。
けれど五体満足だ動けないはずが無い!まだ壊れていない私はまだ動ける破棄されるにはまだ早いさぁ動け主様を守れなければ価値は無いんだなのに何故動かない!!


「てゆうか先生甘いよ!ガキでもこんだけ殺ってんだよ?トドメ刺した方が」

カカシ……?

「うんごめんオレが悪かったです。だからその目やめてマジ怖い」

「あのカカシさん四代目……………ちょ、オレの事も気にかけて…………?」

「ダイジョーブだって。あの子致死量撒いてないしー」


耳鳴りがする。血でぬめった床に滑り再度、地に縫い止められる。
どうして?どうして動かない?


主様。


あるじさま。



おまもりしなければ。





おまもり、しな―――――――――





 ■   □   ■   □



「あ、気絶した」

カカシがふ、と顔を上げて呟いたのを聞き、四代目と呼ばれた金髪の青年も同じく視線をそちらへ向けた。
ぐったりと全身を弛緩させ、地に伏せているのはあどけなささえある少女。
年齢にすれば、おそらく七〜八歳程度でしかないだろう。全身を返り血で赤く染め、傷だらけになりながらもなお立ち向かってくるその姿はまるで修羅の如き凄まじさだった。酷い話だ、と四代目は眉を潜める。何の罪も無い子供を浚い教育を施し、忠実な人形に仕立て上げて利用した。許されるべきでは無い。
だが、依頼者である火の国の大名からは“生かして”連れていくよう言われている手前、殺すような真似はできないのも事実であって。

「他に生存者は?」

「んー、いませんねぇ。コレの兵隊さんはみんな死んでるッポイですよー」

カルい口調で言いながら、カカシは男の腹を蹴り上げた。
猛烈に咳き込む男に視線一つ向けないのは、四代目もカカシも、毒を吸ってやや動きが鈍い部下も皆同じだ。
床につかれた男の手の甲を踏みつけついでに踏みにじって(聞くに堪えない悲鳴が上がったが全員が無視をした)少女に歩み寄り、屈み込んで手を伸ばす。
血で濡れた髪を顔から払いのけ、血の気の引いた顔を見て微笑んだ。

「よし、決めた!この子は僕が引き取る!」

「よよよ四代目ッ!?」

「ちょっと待ってナニ言い出してんのあんたッ!?」

にこにこ笑顔で少女を抱き上げた四代目に、当然ながら動揺する弟子と部下。

「どうせ子供は男の子と女の子を一人ずつ欲しいなーって思ってたし、丁度いいでしょ?」

「いや丁度いいって!ンな物騒な子引き取るって正気ですか先生!」

「考え直してください四代目ぇえええ!奥さん妊娠初期じゃないですか!!!!」

「そうそう!変な刺激とか与えるのはヤバイって!」

「きっと喜ぶよー。一気に家族が増えたねぇ」

「決定事項!?決定事項なんですか先生!!」

「産まれるの女の子かも知れないですよ四代目ー!?!?」

「いいなぁ……カワイイ娘二人に囲まれた生活…………」

「うわ駄目だ話聞いてないっ!」


かくして操り糸の切れた人形は、暗幕の舞台から出される事となった。
九尾の狐が木の葉の郷を襲撃する、半年前の出来事である。




※設定メモ
・「主様」=火の国大名。スキャンダルなので機密度Sランク任務、ゆえに出張る四代目。
・子飼いの連中ははぐれ忍と、浚った子供や孤児で構成。通称人形部隊。
・この後四代目夫婦に絆される→ちょっと人間味出た辺りで九尾事件→ナルトを暗部として見守り生活。
・原作開始時には立派なブラコンだが出自と仕事のせいで姉の名乗りも接触もできず涙目。
・でも時々変化使ってこっそり可愛がり倒す。ねぇちゃんと呼ばれてもえもえ。
・ゆえに堂々構えて尊敬されるポジ獲得したカカシ(知り合い)を頻繁に夜襲。昼間だろうと自重しない。
・弟のためにいらん手助けしまくる過保護姉さん。の、予定だった。




 ■ ある転生ケース−最近のテンプレを見習ってみる−




「おめでとうございます!貴方はこの度転生宝籤に見事当選されました〜!!
 これで貴方も夢のチート・最強・理不尽ステータスキャラクターへ転身できますよッ☆」



どんどんぱふぱふ〜と、これぞ定番と呼びたくなる音楽と共に告げられた発言を理解するのに一分要した。
目頭を押さえ、頭を掻きむしり、耳の通りを確認し、五感が正しく機能する事を確認する。
目の前で佇む白い人型の発光物体は、そんな私の作業をわく☆わく☆という擬音でも付けたくなるような目で眺めている。明らかに愉快なものを見る目だった。それを無視して足元を見る。

割れて散乱した窓ガラス、阿鼻叫喚に包まれている教室内。
窓脇後ろから三番目の席で、脳漿ブチ撒けて血だまりを作る私がいた。

「……………。」

我が身体ながら正視に堪えぬ様だ。
ちょうど大破した部分を手で撫でてみる。うん、こっちの私は大事ない。

「質問、よろしい?」

「もちろんですとも!」

片手を軽く挙げて問えば、物理的に輝く物体が満面の笑みで親指をたてた。

「貴方は死神とか閻魔の使いとかそんな類?」

「まっさかーぁ。神ではありますけどそんな真面目どころじゃありませんよぅ」

とても緩い調子ではたはた手を振る発光物体、もとい神。
いい予感がまったくしない。ろくでもない予感ならビンビンするのだが。

「………じゃあ聞くけども、何の神?」

「いわゆる一つの伝令神ですね!
 主に神々の使いっぱです、最近はもっぱらみんなケータイ派なので半ニートですけど」

そうか、最近は神々も科学技術使ってるんだ……………まぁ便利だもんね……………神秘って何だろうね本当。
しかし半ニートの神とか。

神々の世界にはリストラとか転職とかないんだろうか。

「…………………。さっきの転生籤とかチートになれるとか、どういう事?」

「ああ、それはですね!」

ぱぁっと神の表情が明るくなる。眩しい。白熱電球直視するレベルで。

「神々の世界でも、人間の作った娯楽はたいへん好まれていましてですね!
 その中で、神が人間に特殊能力を与えて物語の世界もしくはそれに準ずる並行世界に放り込む話ってあるじゃないですか? あれを大層気に入った方々が、じゃあ実際にやってみてみようじゃないかとお決めになりまして!
 それで作られたのがこちら、転生籤という訳なんですよ!!」


ばばーん!と出所不明な効果音付きで差し示される、





私の頭をブチ撒けた隕石。





「…………………トラックに轢かれたりとか書類ミスとか誰かを助けてとか、さ。
 その辺りが定番だったと思うんだけど……………」

「おおっ貴方通ですね!?テンプレのなんたるかを分かっていらっしゃる!
 いやー王道よろしくテンプレ使用案もあるにはあったんですが、あれって大概神様って損な役回りじゃないですか?
 罵倒されたり足蹴にされたり、なんていうか尊厳ゼロみたいな。

 それでうっかりイラ☆ときて、」



「こう、ぷちっと」



やっちゃったんですよねーと罪悪感皆無で笑う神に、ああ機嫌損ねるとヤバいんだなぁと理解した。
ていうか“やっちゃった”って要するにテンプレVerでも犠牲者は出したという事か。
なんとなく腕を撫でれば、びっしりと鳥肌が立っていた。

テンプレ的な基本の罵倒系口答えはしない方が賢明なようだ。

――――ぜひとも夢であって欲しい。


「あ、ちなみに転生籤でゲットできる特典は3つですよ!
 願いを増やす系は不可ですからねー?ちなみに神々のお勧めは“直死の魔眼”とか“斬魄刀”とか“サイヤ人ボディー”とか“最強な悪魔の実”とか、マニアックなのだと  “ドラえもんのスペアポケット”なんかですねー」

魔力とか気の量が世界最高レベルっていうのも定番ですね!と一点の曇りも無く煌めく笑顔の白熱物体。

ああうんそうですねテンプレですね。いわゆる様式美ですね。
つまり私にそれをやれと?

「…………、………………。………。
 …………転生先の世界って決まってるんですか?それともランダム?」

「んー、そこは神々の間でも意見が分かれましてねぇ。でも皆さん原作知識で原作ブレイクor原作介入は基本だろう!って仰ったんで、貴方の知ってる世界なのは確かですよー?」

「私の知ってる世界………………」

短い生涯の中、読んできた物語が頭を駆け巡る。


かけめぐる。



……かけ、めぐる。




「うあああああああああああああああああああああああああああ」

やばいバトル漫画か戦闘系な話とかしか読んでないっていうか戦闘要素の無い話ぜんっぜん読んでないなんで私の愛読書は少年ジャンプなんだぁあああああああああああッ!!!やばいこれは本気でやばい!
原作介入がどーのって言ってたからまず確実に人気ランキング上位な話で私もきちんと読んでる話から選んでくる気だこいつら!H×HとかヘルシングとかFateとか転生した日には私死ぬ!死んじゃう!特典あっても死んでしまう!

「あああああああああああああああああぅうううううううううううう」


がりがりがりがりがりがりがりがり。


「おやぁ目がマジになりましたねさん!爪ごと指を齧るとかオリ主っぽくて中々グーですよ、グー!」

誰がオリ主(笑)だこっちは切羽詰まってんだよ畜生がッ!
やばいやばいマジでやばいこのままだとダーティーな世界行きが確定してしまうどう考えても早死にフラグ。
格闘経験もサバイバル経験も無いのに戦闘能力強化しただけで生きていける自信は無いし、そもそもバトル漫画で生きていける気がしない。

特典は3つ。

……………生きるか死ぬかは特典次第、か。

がりがりがりがりがりがりがり。
爪と指を噛み削りながら特典内容を考える。絶対大往生で死ねる特典にしてやる。
となると戦闘より回復と逃亡特化がベストか。
結界や拘束系能力も捨て難い。幻影や洗脳系も悪くない。
今こうして転生者の立場に立ってみて思う。真っ向から殺し合う系能力でせっかくの特典潰すとかマジ愚の骨頂。
畜生むしろ夢であれ。まだ覚めないのこれって。




少なくとも、鉄錆の味がする爪を噛み千切る感覚は現実だった。




※設定メモ
・この後どうとでも繋げられる転生物語。既に死亡フラグが見えている。不幸。
・テーマは“死亡→神のミスだったので転生”なテンプレの矢印逆転。転生ありきなので現生強制終了の罠。不幸。
・選択権無き記憶保持転生。主人公の精神面はお察し下さい。不幸。