■ 日常トラブル−並盛中、雲雀さん係。− 「、ちょっといいか」 帰り際にかかった、隣のクラス担任の一言には答えた。 それはもう一点の曇りも非も無い完璧な笑顔で。 「雲雀さんの事以外だったら」 「そんな事言わないでくれ頼むぃいいいいい! 奴を止められるのはお前くらいなんだ頼む見捨てないでくれぇえええええ!!!!!」 ビンゴだったらしい。必死の形相ですがりついてくる教師の涙と鼻水で汚れた顔を近づけまいと、は片手で、しかし全力でその頭を押しのけながら冷徹そのものでしかない表情で見下ろす。 クラスメイト達はああまたか、という表情で彼女と教師を遠巻きにしていた。 なんとかして欲しいものだ、とは思った。 「放してくださいよ。今日は特売あるから早く帰りたいのに」 「そんな冷たい事言わないでくれぇー!そのくらいいつでも買ってやるから、な!?」 「あははは聞きようによっちゃ援交のお誘いみたいですねー」 「誰が援交誘うか!ってだから行かないでくれぇええ! 協力してくれるなら内申点上がるようにかけあってもいい!!」 「不正やるなら自分でやりますよ。その方が確実ですから」 「ぃいいいいいいいっ!?」 「冗談ですよ(多分)」 アヒルの子よろしくまとわり付かせた教師をずるずる引きずりながら、校舎の外へと向かう。 異世界トリップを繰り返す事何回目だったか、とにかくそんな風に行き着いたのがこの世界だった。 今まで大幅に世界観の違う場所ばかりに出ていた為、最初にここにたどり着いた時は元の世界に帰ってきたのかと思ったものだ。まぁ、実際は似て否なる世界だった訳だが。 ぬか喜びさせられた分失望も大きかったが、それでも帰る事を諦めるには至らない。 とりあえず、こちらもこれで何度目なのかは忘れたが義務教育が必要な年齢にまで子供になった身体で戸籍を偽造したり生活資金を得たりして、周囲に怪しまれないよう中学校に通っているのが現状である。 (すっかり汚れたなぁ、私) 元々ピュアな人間性だったとはとうてい言えないが。 しみじみとしながら、はすっかり静かになった教師を引きはがして廊下の片隅に放置する。 校舎の何処かから聞こえた破壊音は、気にしないでおく事にした。 ※ひとくちメモ ・ヒバさんとは同学年。初対面で咬み殺されそうになり反射で応戦、交戦しながら口先3寸で丸め込みました。 ・そして色んな人に泣き付かれ、ついでに雲雀さんにケンカ売られるようになりました。 ・目立つ予定はなかった。解せぬ。 ■ 鳥と青色−凶悪デュエット− トンファー相手に素手でやり合うこちらの身にもなって欲しいと心底思う。 言った所で聞かないのは既に分かり切っているから、明日からは武器になりそうなものを携帯するかと心に誓った。 「と言うか、本当に飽きませんね毎度ながら」 紙一重でトンファーを避けたりカバンで防いだりする合間に蹴りを繰り出したり逃げ道確保にひそかにいそしみながらため息をつけば、目の前の美形だが野獣めいた少年は年齢にはそぐわない、獰猛で妖艶な笑みを浮かべてみせる。 真っ正面からそんな笑みを向けられて、一応女であるとしてはあるかなしかの女性としてのプライドに敗北感を刻まれずにはいられなかったりもしたが、まぁ人生ってそんなもんだと即座に達観してみたり。 「テリトリーに他の肉食獣がいたら、噛み殺さずにはいられないだろ?」 「その思考回路には同意しかねる」 「君の意見は関係ないよ」 「雲雀さーん、民主主義って単語はご存じー?」 が避けたトンファーが、壁を砕き窓ガラスを叩き割る。 不機嫌そうに眉根を寄せる雲雀が振るったトンファーが鼻先を掠め、その攻撃には容赦も手加減も感じられない。 H×H世界で戦闘能力上がってなかったら確実に食らってただろう。 そもそも平穏な学園生活が保障されていないこの並盛は何か多大に間違っていないか。 昔はあまり縁の無かった、しかし異世界トリップを繰り返すようになってからは既になじみの"暴力”を振るいながらも平然と会話が出来る自分に、遠い所まで来ちゃったなーと一抹の虚しさを覚えないでも無かったが、状況が状況だ。 気を抜いたら大怪我は免れない。 「恭弥って呼んでって言ってるはずだけど。君も人の話聞かないよね」 「うん、人の事どうこう言う前にあんたが人の話聞け?」 微笑み付きで言ってやれば、「噛み殺す」とのお返事が。 心底人の意見聞かないなこの男。俺様め。 苦い気持ちで繰り広げる、ダンスはまだまだ終わらない。 ※ひとくちメモ ・出会って半年くらい。雲雀さんの中では既に同類認定。好敵手と書いて友と読む。 ・でも名前で呼べと言ってるのに全然聞かなくて御大ご不満。 ・さん的にはマジしったこっちゃねぇえええええ。 ■ どりーむあげいん−夢解き、なんて無粋じゃない?− 勢いよく、胸に飛び込んできたのは馴染みのある重量感。 抱き留めて、自分にできる限りの慎重さでもって、そうっと子供の頭に手を置く。 何故だか覚えているよりはるかに重いが、成長の証だろう。なんと言っても伸び盛りの子供だ。 (ああ、しばらく会わない間にずいぶん大きくなったなぁ) いくらか年が離れているだけに、その感慨もひとしおだった。既に親の領域に達している。 片手で背中を撫でながら、つやつやの黒髪を片手で梳いてやれば、満足そうに、子供特有の愛らしい顔にきらきらとした輝きを伴った笑みが浮かぶ。以前と変わらない笑顔。以前。 ―――――――以前、とは。何時の事だ。 過ぎる違和感。 泡沫の軽さで浮かんだそれは、儚く消えはしなかった。 そうだ、最後に会ったのはいつだった?この、とても、とても、 ……? これは誰だ。 鮮明だった子供の顔が揺らいでぼやける。 深々と白が舞い上がり、全てが闇のような青色に覆い隠されていく。 「…あのさ、」 子供のはずの存在。 今も腕の中にある、白い影に消えたそれは。 「いい加減にしないと」 およそ似つかわしくない声の低さで以て。 「――――――――噛み殺すよ?」 強烈な殺気と風斬り音に、意識より先に身体が覚醒した。 ばしんっ!とイイ音が部屋中に響き渡ってじぃんと骨に痺れが伝わる。 片手でトンファーを掴んだは、ワンテンポ遅れて覚醒した意識で状況を把握する。 把握する。 …………はあく、する。 「………………………えぇっと。お早う、恭弥?」 「お早う。見た目に違わず貧相な胸だね」 「セクハラと歯に衣着せぬお言葉とどっちに突っ込むべきかな」 体勢的には完全に覆い被さられている状況で、しかも不思議な事にの右手は恭弥の首の辺りにぶら下がっていて、顔も端正な造作とか睫毛の長さまで分かる距離。 完全に体重をかけられてはいないようなのだが、それでも触れ合う身体と身体。 中学生の癖にガタイ良いなと関係ない事が脳を過ぎった。 触れ合っている部位に胸の辺りが入っているので貧乳評価が下されたのだろうとどうでも良い分析をしてみる。 "襲われている”としか表現できない体勢に、感情は把握を放棄する事を選択させたらしい。 なんてったってありえなさすぎる。そもそも二人の間にあるのはそういった甘い男女の関係では無く、むしろ好敵手と書いて友と読むノリだ。挨拶代わりに一戦交え、じゃれ合い代わりに寝首をかきあうステキな間柄だ。 展開としては胸の高鳴りが期待できるもののはずだが、何度も異世界トリップを経験したは多少なりとも男性経験だってある。相手が高校生くらいの年齢だったらともかく、中学生に動く食指は存在しなかった。 たとえ目の前の存在が美形で将来有望な外見を持っていて、自分も見た目は同じ年頃なのだとしても。 「とりあえずどいてくれると有り難いんだけど」 「君が放してくれなかったんだろう」 良い迷惑だよ、と本気でしか無い心底からの感情を全体的に散りばめたお言葉に、は私?と眉を顰める。 の上からどいた恭弥は、ため息混じりに彼女にコートを放って寄越した。 「どんな夢見てたかは知らないけどね。 いきなり引き寄せられて抱きしめられたこっちの身にもなって欲しいよ」 「……………あー。一応ごめんなさい?」 「言葉より行動で示して」 「…………後で奢らせて頂きますよ、風紀委員長様」 年の初めから手痛い出費になりそうだ。 今年の目標は『前後不覚になるほど働かない』だなと決意した、正月二日目の朝の事。 ※ひとくちメモ ・ヒバさん暴れる→対抗できるちゃん引きずってこられる ・ヒバさんケンカする→お礼参りとかで何故かさん巻き込まれる ・以上の過程+顔を合わせる→殴り合うコンボ約一年でいつのまにかセットの二人。 ・転校しようとすると泣いて拝み倒されて引き留められたり雲雀さんが裏で手を回してきたりで諦めました大変。 ・殴り合いと紆余曲折を経て遠慮とか男女とかその辺りの垣根のない雄々しい関係になりました。 ・一部で付き合ってるという噂が流布してますが事実無根。周りだけ勘違いして無駄に気を利かせてると良い。 ■ 襲撃もTPO−でないとギャグにされます− ( 原作黒曜編 ) 右手にダイコン左手に買い物袋。 ふぅ、と極め付きにわざとらしーく息を吐いて、は微妙に凹凸が酷くなったダイコンを買い物袋へと収めた。 今夜のメニューがサンマで良かった、風呂吹き大根とかおでんだったらこんなダイコンは使えないし―――などとほとんど主婦感覚な事を思考しながら、爪先でお粗末な襲撃者達の中でも、リーダー格らしかった相手をぷちっと踏んでみた。反応は無い。呻き声すら立てない。 「…………へんじがない、ただの不良君のようだ」 本当は動けなくする程度に留めるつもりだったのだが、武器がダイコン+買い物袋の卵を気にしていたせいだろう。 加減を少々間違えたらしい。某ゲームのパロディ台詞を呟き、ツッコミが入る訳でも無いので肩を竦めてその襟首を掴む。中学生男子一名程度の体重など、最遊記世界を始めとして、H×H世界やら幽々白書世界やら、他にも物騒極まりない世界を渡ってきた彼女にしてみれば軽いものだ。 日々の鍛錬は怠っていない。 怠ったら何処かで死亡フラグが立ったりひどい目にあったり貞操の危機とかにも遭う。高確率で。 「これが恭弥関係だったら嫌だなぁ……」 あり得そうな想像に、自然に眉根が寄る。 こういう平和な世界平和な場所にトリップできる事など稀なのだから、せめて日常くらいは穏やかで当たり障りの無いものにしておきたいというのに、うっかり関わりずるずる交友関係を築いてしまった風紀委員長閣下のおかげで波乱万丈、喧嘩上等にも程がある生活を余儀なくされて既に巻き込まれる事数十回、ひょっとしたら100の大台に到達しているかも知れない。やはりとっとと外国にでも転校しておくべきだった。 は隠しもせずに舌打ちし、地面を蹴って人様のお宅の屋根へと上がる。 ご近所様に見知らぬ男を引きずっている姿など見られては外聞が悪い。 そんな事を考えつつも、同時に誰の指図で襲ってきたのかを吐かせるべく、拷問に適した場所を模索するであった。彼女の希望する平穏は遠い。 ※ひとくちメモ ・喧嘩の強い奴ランキング堂々一位。「謎の多い人ランキング」とか「危険な人ランキング」でも上位占めてるよ! ・引きずられてゆくドナドナ柿P。大丈夫殺さない殺さない。 |