■ 適応−新たな日常に、かつての幸福を重ねた。−



どんな状況でも、元の世界に戻れる可能性がある内は生き抜く覚悟はできていた。
とうの昔にした覚悟を今、こうして新たな命を得た身として再度新たにする事は至極当然の行為だと言えよう。
どうせこの世界を理解する事から始めなくてはならないのだ、その点を考慮すれば、この幼い身体は充分すぎる程に時間を有している。ただ問題があるとすれば、幼すぎる点だ。
当面の生活費を稼ごうにも、これでは何処にも雇ってもらえないだろうし、身体を売るには抵抗がある。(と言うか誰も買わないだろうし、買うような趣味の奴がいても下手したら監禁されて一生オモチャになるのがオチだろう)所持金は無いし身よりも無い、住処も無い。スリや万引きは体格と体力の関係上、リスクが高すぎる。

……………ある程度育つまでは、ゴミ漁り生活か。

外見相応に大泣きしてみたい衝動にかられた。
何故こんな事になったんだろうか。がっくりと肩を落としてため息をつく様は、完全に5歳児のそれでは無かった。



 ■   □   ■   □



其処にたどり着いたのは、確か2年前――――6歳くらいになった頃だったと思う。
ゴミ漁りやら野良猫や野良犬の肉やら畑で盗んだ野菜やらで食いつなぎ、時には幼児の愛らしさで食べ物を無心し、少しでも生き易い処を、より多くの情報を求めて彷徨い歩いていた頃に見つけた廃棄物の都市。
汚臭に目と鼻をやられそうになりながらも呆気にとられて見つめた全身防護服の人間達の異様さは、未だに深く心に残っている。え、人間いたの?と呆然と突っ込んでしまったのは不覚だった。衝撃的であったのは確かだけれど。

、何遠い目なんてしてるの!?早く行かないと日が暮れちゃうわ!!」

「んー……分かってるよ、キキョウ」

キンキンした声で叫んでくる年上の友人にそう返し、は今日の獲物を入れた袋を抱えなおす。
悪い人間では無いが、激情家なキキョウをいつまでも待たせるのはまずい。
面倒見はいいが短気な彼女の事だ、首根っこ引っ掴んで急がされるに決まっている。
今の処、それを体験する羽目には陥った事が無いが。要領良いよな、と仲間達にはやっかまれっぱなしだ。

「まったくもう。はちょっとぼんやりしすぎ!一人だったら危ないわよ!!」

「大丈夫でしょ、キキョウがいてくれるんだから」

「〜〜〜それはそうだけどッ」

悪びれないで告げた言葉に、キキョウは口籠もって赤くなった。
こういう所は年齢相応で可愛いと思う。
そんな彼女にトドメを刺すべく、はにっこりと笑って。

「頼りにしてるよ、お姉さん」

「――――――――っ!!!!」



耳まで真っ赤になって走り去るキキョウの後ろ姿を見て、は声を上げて笑った。



総てを受け入れる廃棄都市。
流星街でのそこそこ平和な生活に転換期が訪れるのは、この3年後の事である。




※ひとくちメモ
・現実→最遊記→H×H。初☆死亡トリップ。迷宮初心者にはままある事。
・若キキョウさんは面倒見いいけどストレートな好意に弱いツンデレさんイメージ。やだかわいい。
・3年後くらいにハンター試験を知るさん。無論受けるとも。




 ■ 私の家族−手ばかりかかる可愛い子等!−



「母さぁーん、獲物取って来たよー」

「母さぁーん、ウボォーがケガしたー!」

「母さぁーん、シャルがー!!」

「一度にあっちこっちで呼ばない。少し待つ!」

「「「はーい」」」

そろって良い子のお返事をする子ども達に、やれやれとため息をついた。
こんな時ばっかり気の合う子ども達だ。
ちなみにこれだけは言いたいが、一人とて私は腹を痛めた覚えは無い。

巨大廃棄物処理場・もとい無法地帯な流星街にて。

私は何故か育児に明け暮れている。
………えーと、まぁ発端はアレなんだけども。
ハンターの仕事でまぁ色々あったあげくにあれよあれよとその子どもの保護者認定(何故か懐かれた)
その子どもを流星街で腰据えて育て始めたはいいものの、これがまた同じような子供を捨て猫か捨て犬感覚で拾ってくる(流星街にどんだけ捨て子がいると思ってるのか)
しかも子ども等はやけに荒っぽい遊びが好き(いくら流星街でもちょっとどうか)

ゾルディックでもあるまいに、何故こんな育ちをしてしまったのやら。
……ゾルディックと言えば、あそこに嫁いだキキョウがまた子ども産んだって話だっけ。
お祝い、いつ持って行こうか………

「母さん」

「ん?どうしたの、クロロ」

微笑んで振り向けば、将来美形に育ちそうな少年が笑顔でこっちを見ている。
その笑顔を見ながら育て方をどうすれば今後性格矯正していけるだろうかと考えて。

「元の所に返してきなさい」

扉の外を指して宣告した。

「行くところが無いんだよこの子!母さん、いいだろ!?」

「だからってどうしてここに連れてくるの!もううちに人を入れる余裕はありません!」

「建て増せばいいじゃないか!」

「世話するのは私でしょうが!ランファやヴァリディの所にでもやりなさい!!」

「世話できるはずがないだろあの人達に!!!」

「死なせはしないから問題ないでしょうが!とにかく駄目!うちにもう子どもはいりません!!」

激しい舌戦を最初の我が子――――――――クロロと繰り広げながら、しかし自分が最終的には折れなければならない事になるだろうと予測が簡単にできて、無性に頭が痛かった。
そして予測通り数日後、我が家にはチャイニーズ系なお子様が一人増えることになってしまうのだった。
我が子の性格矯正より、身内に甘い自分の性格矯正が先かも知れない。




※ひとくちメモ
・仕事関係で押しつけられたクロロ君(乳幼児)。育てたら拾い物癖のある子になりました。何処で教育間違えた。
・クロロが拾いまくるので着実に大家族化するさんち。
・基本が現代人+身内に甘い=クロロの拾い物受け入れの悪循環。
・氏より育ちでさん似なクロロ君。計算高さとか目的の為に情を捨てる冷酷さとか。やなとこばっか似るな!




 ■ 失敗もある−が、これはさすがに青ざめた−



まずい。


今では遠き世界の可愛い可愛い(以下エンドレス)な私の実妹、家族同然な悪戯好きのやんちゃな従妹、亡き母上様、親友達、そしてここでの姉のような存在であるキキョウ、それに兄弟分のランファとヴァリディ、すっかり人外魔境なくせ者達に育ってしまってちょっと教育間違えた感じの養い子達、ついでに父さん。
できれば妊娠三ヶ月というこの現実を消してもらえないかな。

「…マジ?ただでさえ生理不順だしアタリ引くとかどうしてそんな時だけ都合良く………
 しかもあの日に限って……………うわ最悪。最悪すぎるつまりアレの子かあの捻くれ者の子か!」

自分にとっての異世界で、いつかは元の世界に帰るつもりである以上は子どもを産むつもりはもうこれっぽっちも無かった、無かったので男性関係なんて地味通り越してほぼ無色だ。
つまりヤった(言い方が下品)回数など片手でも余る程度しかない。
このところ体調がおかしいからと医者に診て貰えばまさかの妊娠。正直勘弁して欲しい。

「ほだされるんじゃ無かった………」

友人である男は、かなりいい男だとはっきり言える。
長い付き合いだという事もあり、互いに酒がかなり入っていた事も一因だろう。
2時間ほど拝み倒され、「まぁジンならいいか」と頷いた私も私だけども。

「避妊すれば良かった……」

今やあとの祭りだが。

それよりこの腹の子どもをどうしろと? とりあえずまず私は、父親であるジンを殴り倒してやろうと思う。
顔も見ぬ我が子よ、場合によっては君の父親が人間として使い物にならなくなるけど構わないかな。




※ひとくちメモ
・この後決定通りにジンを殴り倒しにいくさん。一悶着どころでなくありそうだな。
・そして父親がジン=腹の子は原作主人公。ゴンかわいいよゴン。




 ■ 子供が出来ました。−養い子達の反応−



私が成り行きと流れで育てていた―――――正直この世界にいる期間が長い所為なのか、よく流されている気がしてならない―――――――養い子達は、非常に独立心旺盛だった。
その事実は、最年長でも15歳という幼さの色濃い年齢で全員が私の庇護下を離れ、自分たちだけで生活を始めた辺りからも伺える。元々、さして密着した家族生活を送っていた訳でも無し、個人主義者のたむろ場のような家庭環境だったのも関係しているのだろう。流星街から出て、つるんではいても好きにやるようになった彼らに偶然連絡を取れたのは、妊娠5ヶ月、以前連絡を取った時から1年と10ヶ月という月日の経った時の事だ。
世間話ついでに、マチに

「妊娠したよ。産まれるのが5ヶ月後くらいだから、見たかったらおいで」

と告げたら10分以上沈黙した後



「………………………………………えええええええええええっ!?!?」



ものすごく驚かれて正直鼓膜が破れそうだった。もっと淡泊な反応を予想していたんだけども。
そしてそれから一時間と経過していないのに養い子達は何故か全員そろって我が家にやってきていた。
そして質問攻め言葉責めだ。勘弁して欲しい。


「母さん!いったい誰の子なの!?」

「つわりとか大丈夫?辛くない?」

「父親って誰!?」

「母さん顔青いよ!待っててベッドまではこんであげるから!」


「あんたら少し落ち着きなさい」


全員そろって何故里帰りするかなこの子達は。
妊娠くらい軽く流して終わりだとばかり考えていたのだが、意外に反響が凄い。
キキョウが喜びつつ怒って、ランファが欲しがって、ヴァリディが感心するのは予想の範囲内だったんだけども。

「……・五ヶ月ならまだ堕ろせたよな」

「ちょっとクロロ何その不穏な発言」

「母さんの子どもは私達だけで充分だろ?」

「いやマチ、論点おかしくない?」

クロロがぼそりとえげつない発言をし、マチが微笑みながら肩の辺りに顔を埋める。
やや周囲の視線が痛いのがどうにも疑問を誘う。
子育て時代、こうもあからさまに愛情表現(?)はされた覚えが無い。独立してから何かあったのか。

「でも母さんの子ども、気になるんだよなぁ……」

ぽつりとウボォーが呟けば、反論と同意が一気にわき起こる。
当事者の意見は聞こうともしない。
…………教育、何処で間違えたかなと、思わず遠い目になる。
沈黙していたフェイタンが、呆れたように口を開いた。


「赤子は産まれてから殺すかどうか決めればいいよ。
 母さん似なら生かす、間男似なら殺す。これで問題無いね」


確固たるその一言に、見事に論議が収まる。

「異議無し!」

「……まぁ、それなら」

「そうだな。母さん似の赤ん坊は見てみたい」

「きっといい使い手になるぜ」

未だ見ぬ我が子よ、君の兄姉達を諫められない母親で本当にごめん。
心の中でそっと誤る私の前では、「父親は殺すか」「だな」 とごく自然に父親抹殺の方向で話がまとまろうとしていた。
えーと。放置しておいていいよね?




※ひとくちメモ
・隠れマザコン幻影旅団。お母さん大好きだけどべたべたしてるんじゃない関係。
・母親の淡泊さを知っているだけに、実子誕生には色々複雑。