■ ぷろろーぐ@



最近発売された、ポケットモンスター・ダイヤモンド&パールを知らないポケモンファンはいないだろう。
そして、それを欲しくないならポケモンファンとしては失格である。
そう、ポケモンのゲームを私が買ったのは断じて誘惑に負けたからとか欲望に対する敗退とか悪魔の誘いに魂を売ったとかでは断じて、無い!!!!ついでに言うなら試験という名の現実からの逃避でも、ええもう当然の、自明の理でありえな・・・・・・・いやすいません建前です。ちからいっぱいそれです。

仕方ないさ、ポケモンのゲームは魅力的すぎるんだもの………!

私は自己肯定した。
……仮にも大学生の論理としてはちょっと(いや、かなり)アホっぽい気もするけど。
それを気にしたら多分負けだ。主に現実に対して。

「ふーん………結構ちっさい」

実はDSゲームをするのはこれが初めてだったりする。
こんなコンパクトにしちゃって、うっかり破壊したり無くしたりする可能性は上がったんじゃないかと不安にならないでも、ない。けどまぁそこは大学生、自分の物くらいは管理できずして大人のオンナを名乗る資格は無い。たぶん。
DS本体の各種設定をすませ、いざ征かんポケモンワールド!!!
画面操作のタッチペンも軽やかに、溢れ出るときめきに胸を高鳴らせてゲームを起動する。
オープニングの音楽が軽快に流れだし、新舞台であるシンオウ地方の何処かだろうグラッフィックが、前作よりもより精巧に、より美麗に上下の二画面を過ぎ去っていく。
そして画面上に渦巻く雲、伝説のポケモンであるディアルガとパルキアの二体が交互に登場し、背中合わせのような構図となる。その周囲を囲むように、三角形になるような配置で浮遊する、三体のポケモンのシルエット。
おお、なんか意味ありげ…………………って。ん?
上画面に表示された文字に、眉をひそめた。

「……"ポケットモンスター エリクシル”?」

なんだそれ。

はてなと首を傾げ、机に置かれたパッケージを見直す。
確かにポケモンのゲームだけど、私の買ったのは”エリクシル”なんて名称じゃあない。てゆうか何それ。
宝石シリーズじゃなくて賢者の石。ファンタジックな。
とにかく、ダイヤでもパールでも無いのは確かだ。エリクシルなんて名称のポケモンゲームは発売されていない事、そしてグラッフィックから考えると、これはおそらくダイヤ&パールの両世界を併合した、つまり前作ルビー&サファイアにおけるエメラルドと立場を同じくする作品なのではないだろうか。
その試作品、もしくは完成しているけど発売していないゲームが何かの偶然で紛れ込んでしまった?
可能性としては、ありえなくは無い。ような気もする。
三作同時に発売するより、時期バラした方が儲かるしねぇ。
うんうんと自分の理論に納得し、納得したのでゲームを始める事にした。
良心に則って行動するなら返品すべきなのだろうが、返すにしても一通り楽しんでからだっていいはずだ。
棚ボタ的に転がり込んできた幸運に手を付けず返品できる君子様になる気は、はっきり言わなくてもミジンコの内蔵程度にも存在しない。性別や自分とライバルの名前など、これまでとさして変わらない、しかし重要な設定をさくさく進めて。


ブツッ。


「は?」

とうとう冒険開始!というところでいきなり真っ黒になる画面。
え、なにこれ間違えて電源切った!?
慌てて電源をONにする、が、何度やっても少しの反応も無い。

「えええええええちょ、ちょっとまてちょっと待って待って待って!!マジ!?
 嘘でしょ買って当日にショートは無いでしょ!」

私の抗議が、当然届くハズも無く。
がっくり肩を落とし、可能な限り長いため息をはき出した。

あーりーえーなーいー。

やっぱりこのカセットの所為かなショートしたの。
絶対まだ試作品だったんだだからショートしちゃったんだよきっと……。
萎れた気分でDSを閉じ、カセットを出そうとし……出そうと、だそうとして……………………



「でない………………………」


なんだこれ、二重苦?
泣きっ面に蜂、そんなことわざが脳裏を横切った。




 ■ ぷろろーぐA



前振りとも呼べぬ前振りがあった、その翌朝。


「…………………何処、ここ」

爽やかに、この上なく爽やかに、くどいってくらいに爽やかーに差し込む朝の光のただ中での第一声がそれだった。
見慣れないベッド、見慣れない部屋、ついでに見慣れないパジャマ。

「ピンク地にプリン模様て趣味悪い……………」

眠気で頭はうまく回らないが、とりあえず現在着ているパジャマを罵倒してみた。
残念ながら私は女の子だからピンクが似合う、女の子はやっぱりピンクじゃない?とかいう色彩における固定観念からは無縁だ。てゆうか単に趣味だ。そして自分に客観的なだけである。
あの色は着る人間選ぶ色だろうと思う。そりゃもうきっぱりと。
論評は終了したのでもう一度布団の中へリターン。
さぁ寝よう。夢の中で二度寝とかめったにできないよ。普通夢をこうもしっかり夢だと認識しないからね私。
おめでとう、覚えていたらおおよろこんぶ。



ー!いつまで寝てるの、起きなさぁーいッ!!」



「ぅわっはぁいっ!?」

轟いた怒声に、反射で跳び起きた。

この時はまだ、気付いていなかった。
そうだ、夢なんだという意識があったんだ。
現実感があっても信じられなかった。
だって、どうして信じられるっての?こんな事。


予兆なんて無かった。

予感だって無かった。


よくある話的に、何か変なモノに引きずり込まれたり、いわく因縁ありげなものをお買い上げしたり、不思議能力持ってたり、そんな事はまったく無かったのに。
ついでに誰かが出てきて、そう、神とか呼ばれてそうな連中?が懇切丁寧にご説明下さる訳でも無かったのだ。
できたのは状況判断から、自分のおかれている現実を導き出す事、それだけ。
だから、気付くのに時間がかかったのは当然だったと思う。


この状況が、いわゆる"異世界トリップ”なんだって。




 ■ おしえて!アカギさん!




初めて対峙したあの時から、ずっとずっと、思っていた。


本当に最初に。
そう、初めて出会った時からずっとずっと考えて、胸の中で渦巻いていた疑問。
それは解消されるどころか、時が経つほどに大きくなっていた。
私は知ってる。
その疑問に、結論を出せる一番の方法を。
考えないで聞くだなんて、そんな思考放棄では無いのだ、これは。
だって、たくさん考えた。
考えて考えて、けれど納得できる結論は出なかった。

だから、聞く。

その答えを持っている彼と会う機会は、とても少ない。

前回は、惜しくもチャンスを逃してしまった。

だから今度は、しくじったりしない。


雰囲気がどうのなんて、言ってられない。
緊張で乾いた唇を舐めて、私は彼を見据えたままに口を開いた。

「戦う前に、一つ、答えて欲しい事がある」

「聞こう」

無表情に、彼は言う。
言っていいのか、と迷う心を熱い心で乗り越えて、私は一拍、間を置き。




「ギンガ団のしたっぱの格好って………貴方の趣味?」




やっぱり空気が凍った。
…………うぅん、シリアス台無し?