■ 穴には飛び込んでいないですが。−風穴あいたのは覚えてるです!−



わたしは
職業盗賊、所属は幻影旅団で戦闘員兼撹乱担当。
おっけー、仲間の事も欠け無く覚えておりますし思考は正常。
状況を整理しようじゃありませんか。

腕、生えてる。(おかしい、右腕折れたはず。しかも複雑骨折)
足、繋がってる。(途中で感覚無くなった覚えがあるのですがー)
おなか、痛くない。(ざっくり暴かれたはずですよ子宮まで?乙女の恥部を内臓共々!)

「…あーあーあー」

うん、喉も正常眼球正常。五体満足って素敵。
でも幸福な気分で見た空は灰色に薄よどんでて気にくわないんですが青々と晴れ渡ってくれませんかお空さん。
あぁでも地獄ってそんなものかも・・・・・・・・・?死後の世界信じない派だったですが。
クロローせんちめんたるろまんちすととか言って大爆笑してごめんなさいー。届かないかもだけど謝りますよーぉう。
それにしてもうらさびた場所ですねー。廃墟?地獄の演出は廃墟ですか?
全体的に血なまぐさいのは地獄らしくて納得ゆくのですけど。



『Welcam to MUDHATER's carniBal!!!!!』
  ――ようこそ・いかれ帽子屋のお祭りへ!!!!!――



地獄でまず見た文字がコレですか。
悪魔だか鬼だか知らないですがスペルミスは意識してですかイカれてるですかやりますねー。

「帽子屋………アリス?」

とっさに某ワンダーランド物語を思い浮かべるです。
確か365日誕生日な男ですよ。たまにだから楽しいのに風情を介さぬミソ野郎だと思ったのは記憶に真新しい。

三月ウサギの方だった気もするですがあいまいです。

まぁどっちでも変わらぬですね。
てゆうかココはワンダーランド?地獄?どっちですか紛らわしきかなです。
ここはわたしを殺したゾルディックのおじさまに文句ぶちまけるべきでしょうね?訴訟沙汰ですよ。
きちんと地獄送りしてくれないとか困るですよ。既にわたしの頭の中ではカレーにトレーで地獄に出張幻影旅団!と悪名を轟かしいずれ来るみんなを驚かせるという壮大で雄大な計画が完成しているのに。

「トドメが悪かったですねきっと」

すぐに死にませんでしたですよそういえば。
いたくされました。死ぬのなんてはじめてだったのに。

やさしくしてほしかったですよ。また会うことがあったら訴えようじゃないですか。
弁護士はクロロにお頼み申し上げる事確定です。
とにかく身体は動くので、ここが地獄かワンダーランドかその他かという判断はストップ放棄しておきましょう。


廃墟探検開始なのです。




 ■ 白いウサギは追ってませんが。−帽子屋さんに遭遇ですよ!−



驚天動地な事に、ここは地獄とかあの世とかファンタジーなワールドではなく“トシマ”とかいう場所らしいなのです。
ビッ栗ー。なぜそんなトコにいるですかわたし。
強姦殺人死体遺棄ドラッグおーるOKなゲキレツ無法地帯との事。
治安は流星街以下かも的です。フクザツ気分です。犯罪行為は法の目を無視するからこその楽しみなのに………いや禁止されて無くても欲しいモノがあれば奪うですよ盗賊だもの。死んでも盗賊です。

「シズク、ちゃんとわたしの後釜引き受けてくれたですかねぇー…」

話したときノリノリだったので大丈夫とは思うですが。
忘れっぽい子なのでぷちっと不安。

いやでもわたし生きてますし、引き継がれてると後々困る?


グシャッ


「あらら?」

心配でついうっかり力加減を間違えたですね。情報提供者さん頭砕いて申し訳無しですよ!
ああでもどのみち一通り聞いたので用済みだったですね。うん、問題なっしんぐ。

「ラインにタグ、中立地帯処刑人イグラにイル・レ……うん、基本OK。
 これならイケる気がしそうなのですよ」

“ニホン”とか“CFC“とか“ニッコーレン”とかよく分かんねぇ話もしてましたがそっちは放置で。
考えてもムダな事は保留に限るです。しばらくお待ちです。
なんで生きてるのかも同様なのです。まぁでも、身体に不調はないですがIFを考えて当面はこのトシマとやらで養生致すとしましょう。表面上は問題なくとも、万全を確認せねばなりません。

なにせいろいろ空きましたし。穴。
殺しOKなら生き易しです。張り合いは無いですがゾルディックにわたしが生きている事を感付かれてはまずいのです。依頼人突き止めて殺しておかないとおちおち戻れもできやしない。次は確実に地獄に直送されるですよ!
さすがに2度も死ぬのはイヤンですよー。

「ついでにイグラにも参加してみるかですねぇ」

仮にも犯罪組織ヴィスキオの王座争い。きっと熾烈に違いないのです。
ヴィスキオがどのくらいの規模かは知らないですが。(と言うか、初めて聞いたですよ。裏社会でもマイナーどころ組織かもです?)天空闘技場の200階クラス、それも上位クラスのレベルがゴロゴロいたりするでしょうかね。
そうだったらキツそうですが、腕を磨くには絶好の機会?

それよりレベルは落ちても暇潰し兼良い運動にはなると信じたいのです。

なまったら目もあてられない。
誰も知らないらしいイル・レのツラも眺めてみたいのですねぇ。
…………よし。
万全を確認+イル・レ見物+できれば修行、あとはついでにめぼしいお宝でも手土産に頂いて帰りましょう。
どうせ各地で派手に殺って盗ってるですから、みんなとの合流は楽なのです。ビバ犯罪者。
そうと決まれば参加登録でも、

「―――――――――どちら様でしょうね?」

今の今まで気付かなかったですよ見事な絶ですね!
意識取り戻した瞬間からすぐ戦えるくらい警戒スイッチ入れてたですが。

なにせ直前まで殺し合いでしたし。
ああクロロ生きてるでしょうか……加勢してくれたのに死んでしまって結構申し訳無いってああそんな場合では無いですね。うっかりです。しかし儚い美人さんですねー容姿で敗北感を覚えるですよ。
覇気のある美形が身の回りに多かったので少し新鮮な敗北感なのです。
生命力も薄いご様子なのです………死人に近げな。

円をしてたにも関わらず発見が遅れたのはそのせいもあるですか。
意思薄弱。人形か死体の方が似合いますね。力量はどんなもんでしょう。

どうにも掴みづらい……ゼリーですかこの野郎。

「………赤く染まる、花」

「はい?」

答えにならない答えが返って参りました。
なんですかキ●ガイですか意図してますか?あ、もしやこのお人が。

「帽子屋さんですか?」

キ●ガイならばこのお祭りの主催者ですね!

「染める、染まる…………沈めて、吸い上げて、色鮮やかに咲き誇る」

「おおやはり主催者なのですねこのアレっぷり!これは幸先良いー」

イル・レのツラを拝むという目的が早くも達成なのです。
わぁ、有り難みゼロ。でも美形だったので良しとしましょう。

生きた死体っぽくても美しいものは好きです。

「………どれだけの花を、お前は染めるのだろうな………」



しかし帽子屋さん、本格的に話が通じないですね。




 ■ 女王様に会ったです。−性別は男だったですがね?−



帽子屋さんは会話成り立たせようが無いですので(キチ○イっぷりが見事なのです)イグラの参加登録しにお城にゆきました。お城で登録すると今は亡き情報提供者さんが申していたですよ。帽子屋さん?放置です。
どうせあちらもわたしに構いやしねぇのですよ。なにせイカれてるですし。

警戒レベルは下げません。

でも早くも不安たっぷりですよ?
お城に到着するまでで何人もに襲われたですか覚えてませんが(印象に残らなかったです。数も数えていなかったですねー面倒で)クズばかりなのは確かだったり。お城で出会ったイグラ参加者らしき方々も、クズかゴミばかりの模様なのです切ない事に! 女だ女だとひそひそ煩い上にどいつも視線が粘ついてて不快極まりないしキモイんですああもう躾けてやりましょうかこのウジ虫ども――――っていけないのです、つい殺気が。
とにかく、この段階で早くも平均らしきレベルは露呈となったですよ。

期待外れな。
これなら警戒、解いてもまったく問題無いかもですねぇ…………いえいえ早計もいけないのです。

きっと暇潰し用素敵キャラが潜んでいるものと信じるです。
信じるものは救われ昇天。素晴らしい。
イグラの説明?情報提供者さんのお話を詳しくしたものだったです。
ベースは同じ話。銃器禁止とかその辺りは初耳だったですが。
ところで話題にならなかったという事は念はOKみたいな解釈で良いのですよね?
禁止ではないならOK。うん正論なのです。
しかし念OKで銃はダメとは難儀な趣味してるですね帽子屋さん。

銃が嫌いなのでしょうかよく分かりません。

理解する気も無いのでどうでも良いのですが。
どのみち関係の無いお話なのです、わたしの武器ってばムチですからー。
名誉のために弁明いたしますですが決してSMではないのですよ?
是非とも猛獣使いさんとお呼び下さい。
ウボォーあの時は火の輪くぐらせてごめんなさいですつい悪ノリしまして。

悪気は…………沈黙です。黙秘だったりするです。
女王様はむしろイグラの説明してた―――――えーと、そうそうアルビトロ?さんなのですよ。
仮面金髪美青年(推定)。如何にもSMがお似合いですよ。

お城にいっぱい美少年像飾ってらっしゃる多分おそらくホモのお人なのです。

帽子屋さんの趣味かと思ってたですが、皆さんのお話を聞き流していると女王様なアルビーさんのご趣味だそうで。
盗る気にはなれんですが壊して回ったらさぞ気持ち良かろうと思わないはずがないのです。
実は何の偶然か知らないですがイグラ説明中にアルビなトローチさんと目が合いました一瞬でしたがあの目に過ぎったわたしという“女”に対しての嫌悪は見逃してはおりません、うん調教してやりましょうかあの男。脆そうなのであっさり死にそうですけれど。ふふふふふ。

……………………………多大に話がそれたですね。
結局、何が言いたいのかと申すですと。


「失望させないで頂きたいもの、なのですけどねぇ」


クズの相手をして鈍ったらどう責任とってくれるですか、という事だったりしますよ。
ルール守るんですから、そのくらいは当然ながら求めるです。お城の前で(出て数歩も歩かないうちに襲われたです。目をつけられてたですかね?)約4分ほどかけて(まともに相手するのもタルかったですが・・・・・それでも4分。本気で雑魚なのです)築いた死山血河の上で、わたしは憂いたっぷりにため息をついたです。

積極的に狩りに回れば、少しは楽しめるですかねー…?




 ■ 衝撃を受けるです。−でも遊ぶ事は欠かさないですよ?−



きっと元気に盗んで殺して暴れていたりするのでしょう愛しい蜘蛛の同胞おのおの方、大変なのです事件です。
完全犯罪ですよ!これにはショックでわたしも灰になって風と共に去りぬなのです!

真実ですか!?

「念が発動しない………」

イグラ参加より二日目に判明したのです。ショックでうちひしがれたです。
いえ、基本の纏・練・円・凝・絶とか応用の流や硬とかその辺りはできるのですよ。できるのですが!!!



な・ぜ・かっ!能力だけが発動しないですぅううううううううう!?!



発動条件は満たしたはずなのに発動しないなんて馬鹿な話あってたまりますか!
でも今まさに現状はソレ!!なんたる事態!!!
まずいです、とってもまずいのですよこの状況。

基本応用使えるのに編み出しすっかり使い慣れた我が能力だけは使用できないって意味不明なのです理由をお聞きしたい責任者さんはどちらでしょう。そこらのザコやらマフィアやらなら余裕であしらえる自信はあるです(実際やったですし)。相手がブラックリストハンターでも、無様にあっさり敗北するような事は致さないのです。
操作系なので小賢しく立ち回るのは慣れてるです。でもでもでも、念使いは万能では無いのですよ?
念使いに集団で襲われたりしたら激烈にぴーんちなのです。
ゾルディックのおじさまに見つかろうものなら逃げる事すらできるかどうか。死亡フラグが見えるですー…………。

「慎重に原因究明するですよ…」

いつ死んでもおかしくない生活なので、死ぬ覚悟は常にあるです。
でもせっっかくつないだ命、いま一度仲間に会いたいと願い、ちょっぴり保身に走るも当然な行為だと主張。
わたしを殺すように依頼したのは探し出して消す確定ですが、能力が戻らないようなら隠居も視野に。
戦闘時に個人の事情で旅団全体の足をひっぱるなど腐ってもごめんなのですよ。
とりあえず、今はタグでも回収するです。
念による戦闘がどこまでできるかの確認の為、結構ヤったですから大変なのですねぇ回収作業。
能力使えれば押しつけられるのですが。しかし見事にブタタグばかりなのです。

まぁいいのです。
ごはんに困らないのです。

ソリドは何味にするでしょう………
初めて食べたですが、なんともジャンクフードでイケるですよ。
チョコパフェとかも食べたいですが、今はじっと我慢の子――――――



……………おやぁ。

円の範囲内に約二名ごあんなーいなのですね。
おあつらえむきにこちらが進行方向。
わたしの円は結構広範囲でやれるので把握には便利なのです。半径3キロなど軽くイケるのです!えっへん。
ごはんの前に、お相手してさしあげますでしょうかねぇ。

死体が二つほど増えたところで今更なのですよ。
でも退屈なイキモノの相手も飽きたです。

見てから決める事にするですよー。
ひょっこりガラスの無い窓から二人組を視認。
数秒の観察の後、わたしは廃墟の窓から飛び降りたです―――――――

地上5階の高さなど些末事。ふふふ。
ふんわりユーガに着地をキめて、わたしはにっこり友好的な微笑みを浮かべて言ったです。



「そこゆく赤頭巾ちゃんと狼さん。わたしと遊んでくださいませ?」



ちょっとだけうずっと来たですので、食事前に遊ぶですよ。
拒否権?認める気は皆無なのです。




 ■ 狼の恐怖−狩る側と、狩られる側の逆転−



場の異常さには気付いていた。

真新しい血痕、人間としての原型を残さない死体の数々。
トシマでは死体も血痕も珍しいものでは無かったが、問題なのはその量と、何よりも生気の無さ過ぎる程に無い空気だった。シキかともキリヲは思ったが、直ぐに思い直した。
手口が違いすぎるのだ。何より、場を支配する空気の無機質なまでの静けさ。

あの男で無い事は明かだ。
進めば進むほどに静けさは増し、薄く、けれど奇妙に濃厚でもある何かが強くなっていく。
警戒を喚起するには充分なものだったが、何よりも好奇心の方が先立って彼らは歩みを止める事はしない。
処刑人である二人は真性のバトルマニアで殺人狂だ。
常人であれば恐怖を抱いて足を止める空気すら、興奮と期待を醸造させる効果しかもたらさない。
無為に、しかし感覚に従順に足を進めて。


「そこゆく赤頭巾ちゃんと狼さん。わたしと遊んでくださいませ?」

女に、出会った。

友好的、とさえ呼べる柔らかな微笑み。
楽しそうに踊る口調。
この女が“エモノ”なのだと気付いて嗤い。
けれどその認識は、女の、甘いチョコレート色をした瞳を見た瞬間に吹っ飛んだ。





コレは、何だ。




肌が粟立つ。背筋が凍る。震える指先。足が動かない。
ばくばくと煩く心臓が喚いてどっと全身から冷や汗が吹き出すのが分かった。
脳裏を支配するのは敗北と死、だ。
それまで感じだ事の無い、絶対的な力の差をはっきりと感じ取ってしまい、キリヲはその場で硬直した。
逃げろ、と本能が訴える。だが逃げ出せる気もしない。逃げられる、気がしない。
そんなキリヲの様子に、女はかすかに目を眇める。


「気付きましたか…なんて敏感な」


声も無く、小さく唇を動かして何か呟く。
二人の間に漂う緊張感に気付くこと無く、グンジが嗤った。

「いーじゃん。あそぼぉぜぇ、ネコちゃん」

馬鹿野郎。止めろ!視線で悲鳴混じりに訴えるも、それはグンジに届く事は無い。
女の視線が一瞬、殺気を孕む。余計な事はするな。黙って立っていろ。
実際に武器を向けられた訳でも拘束された訳でも無い。
だが、ガラにも無く恐怖に支配されたキリヲの動きを封じるには十分すぎる程だった。

つぅい、と女の唇が更に深く、弧を描く。
罠にかかった獲物を前にしたような笑み。

冗談じゃねぇ。

内心思うも、恐怖に身体は恐怖に凍り付いたままだ。


「ふふ。愉しませて下さいね?」


ああ、負けるな。
喜々として女に飛び掛かっていく相方の背を眺めながら浮かんだ思考は、いっそ冷酷ですらあった。