何処かで、何かが壊れる音がした。
それが何なのか、知っている。知らないはずが無い。
このために私は、ジュプトルさんと・・・・彼女に協力してきたのだもの。

「成功、したのね」

見上げる空は未だ澱んだまま、雲は流れる気配も無い。
しかしそれも、もはや時間の――――そう。まさに“時間”の問題。

未来は変わる。

現在は変わる。


だって、今まさに過去が変わったのだから!


他の種族だったらきっと、その時が来るまで理解できなかっただろうこの感覚。
時に関係する能力を持っているからこそ察した、小さくて大きな変化の兆し。
世界がまた、光に満ちたものになる。
風が吹き、雲が流れ、緑がそよぐ“当たり前”が戻ってくる。

「“彼女”が記憶喪失で、しかもポケモンになってたって知った時はどうなる事かと思ったけど」

思えば、それらしい共通点はいくつもあった。
同一人物と言われれば、確かに納得できるだけの共通点。
けれど、偶然だと言えば――――それだけの共通点。

だって、種族が違った。
姿が違って声が違って、雰囲気も表情さえもが違っていた。
そして何より、底の見えない絶望が無かった。



常に眼差しに見て取れる程の闇と、覚悟を抱えていたのに。



「・・・・まるで別人だった」

だから、今でも彼女を“彼女”だと思えない。
正気のままに狂気を手に入れような、一種独特の雰囲気を纏った人間。
それが私の中の“彼女”。

「ジュプトルさんは、どう思ったのかしら」

付き合いが比較的長いと言っても、私が知っているのはこの未来に絶望した“後”の彼女。
それ以前の彼女を知っているのはきっと、ジュプトルさんだけ。
彼女が、私の知らないジュプトルさんを知っているように。

「・・・・・やだ、なんだか腹が立ってきた」

妬いても仕方が無い、とは分かっていてもため息が零れるし悔しくもある。
あの二人の関係は、傍で見ていてもよく分からなかった。
ポケモンと人間という種族の壁を超えて、心を通じ合わせた二人。
固い絆で結ばれていて、けれど、その関係に付ける名を持ち合わせてはいなかった二人。
それが信頼なのか、友情なのか、愛なのか――――今でも、理解はできない。

「貴方にとって、ジュプトルさんは何だったのかしらね?」


光の無いこの世界。

灰色の夜が続くこの未来。


それでも可能性を追い続けて、総てを負い続けた“彼女”にとって、彼はどんな意味を持っていたのかしら。
“いつか”は聞いてみたかった問い。“いつか”に向けてみたかった疑問。
向ける貴方は、もう記憶の中にしか存在しない。
その記憶すら、塗り替えられて跡形も残さず消えるでしょう。


「――――・・・・・・・・・・・・・・不思議ね」


確かに生きてきたのに、全てが無かった事になる。
喜びも悲しみも、怒りも苦しみも希望も絶望も、何もかもが白紙に還る。
ひどく重く感じられる身体を動かして、大地をしっかりと踏みしめた。


貴方が願った希望。


ジュプトルさんが選んだ犠牲。


私が描いた夢。





私達の定めた終幕。





「 私達の、望んだ未来――――― 」


謡う音は空気を震わせて風になり、色が波紋を描いて世界を染めていく。

暗い影色を駆逐して、時が光を連れて昇る。



見上げた空が視界を灼く。



手に入れた凡てに微笑んで、私は静かに目を閉じた。






夢見た先の奈落






次に目覚める私は、もう“私”では無いけれど。

     ( さよなら、さよなら。・・・・・・また、会いましょう? )






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表にあったものを、空ダンVerに書き直すと共に再収録。時闇設定なんだも!